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婚約騒動が勃発しました

77:気にしない、気にしない

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 俺が公爵家のタウンハウスに
戻ると、サリーが待っていてくれた。

そこで俺はサリーに
花束を渡して、
これを匂い袋にすると告げる。

サリーは

「こんな素敵な花束を
よろしいのですか?」

と聞いたが、

俺が匂い袋は
ティスの望みで、
この白い花は王家の庭に
咲いていた花だと告げると
彼女は少しだけ眉をひそめた。

俺の専属になってからは
公爵家の侍女らしく
あまり感情を
出さなくなったのに珍しい。

「アキルティア様は
殿下に匂い袋を
作って差し上げるのでしょうか」

「ティスが欲しいって言ってたから。
僕と兄様がお揃いなのが
羨ましいみたい」

ティスって
子どもみたいなところが
あるんだよね。

なんて冗談っぽく
言ってみたけれど、
サリーは物凄く変な顔をした。

王子殿下を子ども扱いして
不敬だと思ったのだろうか。

サリーは真面目なところが
あるからな。

「……羨ましいだなんて。
身を引かねばならないのは
そちらでしょうに」

僕が自室に戻ろうとすると、
小さな声が聞こえて来た。

あまりに小さな声で
聞き取れなかったけれど、
サリーが言ったのだろうか。

僕が振り返ると
サリーは何事も無かったように
僕に頭を下げて

「サンルームに花を広げてまいります」

という。

「うん、ありがとう。
僕も着替えたら後から行くね」

小さいときは匂い袋用の
花は自室で乾燥させていたけれど、
サンルームのテーブルを使った方が
早くて良い物はできると
気が付いてからは、
俺はいつも花をサンルームで
干すようにしていた。

サリーはずっと
手伝ってくれているから
手慣れたものだ。

俺が自室に戻ると、
後からついてきたキールが
俺のために着替えを準備してくれる。

「アキルティア様」

キールがためらいがちに
俺に声をかけてきた。

「その、アキルティア様は
殿下が匂い袋をご所望されたので
お作りになるのでしょうか」

「そうだけど?」

言われている意図がわからず
俺はキールを見た。

「そう、なのですね。
ではジェルロイド様も
殿下と同じ香りに……?」

なるほど。
その心配をしているのか。

「大丈夫。
兄様にはいつもの
庭で取れた匂い袋を
これからも作ってあげるから
ティスと同じ匂いにはならないよ」

「で、ではアキルティア様も
これまでと同じように
ジェルロイド様と同じ香りを?」

「うーん、どうだろ。
ティスがとにかく僕と
同じ匂い袋が欲しいって
言ってたから。

とにかく一つ作って見て、
それから考えようかな。

でも沢山、あの白い花を
貰ってしまったから、
ティスの分だけだと
かなり余ってもったいないと
思うんだよね」

同じ香水を付けると
親しい関係だと思われる。

このことを知らずにいたら
キールやサリーにも
俺が作った匂い袋を
プレゼントするところだが、
さすがにダメだろう。

「ジェルロイド様は
このことをご存じなのでしょうか」

心配そうにキールは言う。

「そういえば、
言ってないかも」

でも大丈夫だ、きっと。

ティスも執務室で
義兄に会っているのだから
匂い袋のことを
言ってくれているかもしれない。

キールは不安そうな顔を
していたけれど、
俺が大丈夫だと言うと
それ以上は何も言わなかった。

公爵家に仕えている皆は
優しいし、俺に対して
もすごく過保護になるから
心配してくれていると思うが、
本当に大丈夫だ。

だって俺とティスは親友で
仲良しだし、友達同士で
同じ物を持ったりするだろう?

前世の俺だって、
職場の同僚が何故か
「お揃いだ」と言って
持って来たネクタイピンを
ありがたくいただいて使ってたし。

今から考えると
ちょっと変な気もするが。

当時は貧乏だったから
他社に行くときの
スーツやネクタイも
3セットしか持っていなかったし、

ネクタイピンなんか
使ったことがなかった。

そんなわけで
貰ったネクタイピンは
物凄く重宝した。

今回はそれが匂い袋なだけだ。

それに俺もティスも
まだ成人前だしな。

そんなに気を遣う必要もないだろう。

俺は気軽に考えていたし、
ティスも子どもだが、
俺もまだ子どもだという
感覚があった。

精神的にはアレだが、
体はまだ13歳だからな。

それから俺は、
サンルームに行って、
白い花をサリーと一緒に
乾かした。

かなりの量があったので
半分は、タウンハウスの
玄関に飾らせてもらう。

サンルームの花は
このまま放置していたら
良い具合に乾くだろうし、
その後、必要ならば
少しオイルを垂らせば
匂い袋の完成だ。

タウンハウスには
基本的に使用人以外は
俺と義兄しか住んでいない。

父は俺が中等部に
入ってからは、
ほとんど泊まることは無くなった。

父は俺のことも好きだが、
母のことは大好きだからな。

王宮からタウンハウスに
戻ってきても、
俺と夕食を食べたら
夜には必ず

「愛しの妻に会わねば」

と俺の前で言いながら
馬に乗って公爵家へと帰っていく。

そんなわけで
このサンルームを
使うのも俺ぐらいしかいないし
作業をしたまま、
片づけをせずに放置していても
誰も文句を言わないのだ。

素晴らしい環境だ。

数日後、王宮から
ティスの使いと言う人が
俺を訪ねて来て、
小さい袋を二つ置いて帰った。

薄い金色の生地で
作ってある袋だったけれど、

巾着のように細いリボンで
縛って袋の口を閉じることが
できるようになっていて
かなり便利なものだった。

これなら針と糸は必要なさそうだ。

金色の生地には
紫の糸で花の刺しゅうがしてあった。

これまた何の花か
まったくもって俺には
わからなかったが、
綺麗な袋だとは思う。

たかが庭の花を
乾燥させていれるための
袋にしては、
高級すぎるとは思ったが。

俺は匂い袋を作り、
1つは自分用に。

もう一つはティス用にして
ティスにあげる袋の中には
乾燥させた花だけでなく、
庭で拾った小さな石を
磨いて入れておいた。

理由はないけれど、
小さな匂い袋が
前世のお守りに見えたことと、

庭を散歩していたら、
物凄くこの石が
光っていたように見えたから
磨いたらご利益でも
あるんじゃないかと思ったのだ。

まぁ、気持ちの問題ってことだ。

俺はキールにお願いをして
匂い袋を王宮に
届けてもらうことにする。

ティスは相変わらず
学園には来ないし、
忙しいのがわかっているのに
王宮に遊びに行くのもためらわれる。

義兄も全然、顔を見ないしな。

寂しい気分になり、
俺は首を振る。

気にしない、気にしない。

俺は俺で楽しく
日々を過ごすだけだ。

でも早く、
いつもの日常に戻ったらいいな、
と俺は匂い袋に願いを込めた。



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