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婚約騒動が勃発しました

69:義兄と婚約?

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義兄はグラスの水を
一口飲み、目を閉じた。

呼吸を調えているようだ。

それから意を決したように、
義兄は改めて俺を見る。

そしてゆっくりと、
義兄は思い出すように。

そして考えるように
俺にこの数日間、
何があったのかを話し始めた。

俺がクリムの茶会に出た翌日、
隣国からスイーツ交流会の
使節団がこの国に到着したらしい。

使節団の到着は前もって
連絡を受けていたし、
この国も歓迎モードだった。

だが、その使者が
国王に挨拶をする際、
隣国の王様か書いた親書を
国王に渡したらしい。

そこには、スイーツ交流会で
さらに両国の友好を
深めたいと言う内容と、
俺、アキルティアと
隣国の王子との婚約を
打診するっ内容が
書かれていたそうだ。

なんだよ、ぽいって。

国同士が交わす書簡で
そんな曖昧な、と思ったが
国同士は駆け引きとか
そういうのがあるので
兄曰く、よくあることだそうだ。

そして隣国の王子は3人いて、
もし婚約の打診の前振りだとしても
アキルティアの相手が
どの王子かも、
書かれてはいなかった。

まぁ、そうだよな。
っぽい、って言ってんだから
「うちの王子とー」
なんて書いたら
全然、内容が隠れてない。

だが親書には

「そちらの公爵家の
紫の至宝は将来を
決めた相手が
いらっしゃるのでしょうか」

という一文が小さく
書かれていたそうだ。

つまりは正式な婚約の打診ではないし
相手の国の意図もわからない。

だがそんな書き方をするのは
スイーツ交流会の時に
婚約の申し込みを正式にするために
情報を探ろうとしているのでは
ないかと王宮では結論を出したそうだ。

もちろん王家は俺の婚約など
断るつもりだったが。

もし今、アキルティアに
誰も婚約者がいないと
正直に伝えることで、
隣国が本気で求婚してきたら
どう対応するか、
現在協議中なんだそうだ。

そしてその中で出た案に
アキルティアが誰かと
婚約さえしていれば
断りやすいのでは?

という話になったらしい。

もちろん、そうなると
王家としては王子である
ティスと婚約を、となり、
父はそれだけはダメだと言う。

そこで浮上したのが
俺と義兄の禁断の兄弟愛、らしい。

「王族と婚約なんかしたら
絶対に解消できないし、
それなら俺と婚約って
ことにしたらどうかと
義父も乗る気になっている」

「えーっと。
俺の意見を言ってもいいか?」

俺は義兄の近くに
椅子を運んで座り直した。

「俺は今は誰とも
婚約する気はない。

将来のことだって
まだわからないし、
婚約なんて、無理だ。

隣国の求婚は断りたいが、
何故俺に求婚してくるのか、
本当に求婚なのか。

そんな一文を
親書に書いた理由を
知らないままでは
判断できない。

あと、兄様はそんな理由で
婚約なんて、ダメだ。

恋人になる人は
ちゃんと好きになった相手で
結婚するのなら
心から好きになった人でないと」

俺がそう言うと、
義兄は、笑った。

「なんだよ」

「いや、好きになった人でないと
結婚できないなんて、
可愛いこと言うなぁ、と」

「からかうなよ」

俺は本気で言ってるのに。

「からかってないって。
ほら、この世界の貴族って
政略結婚が多いから。

そういう考えっていいなと思ったんだよ」

そう言われて、
そうなのか、と俺は思う。

俺は社交界なんて知らないし、
俺の両親はいつもラブラブだし。

ルシリアンやクリムは
婚約者と仲良しだったから
そんなものかと思っていた。

でも、違うのか。

「兄貴さ、とりあえず
匂い袋、作ってよ」

急に義兄が言う。

「なんで?」

「ジャスティス殿下が欲しがってる」

「俺と兄様と同じ匂いなのに
それでもいいのか?」

「本人的には良いらしい」

いや。
ダメだと思うが。

「それと、なんか違うのも
作ってくれ」

「なんかって?」

「庭の石でもいいし、
ほら、木の葉で作った
切り絵?
貼り絵?
なんかそんなのとか。

俺が子どもの頃、
誕生日プレゼントで
作ってくれただろ?
ああいうやつ」

「そんなのを
王子にあげていいのか?」

「いいんだよ。
そういうのを欲しがってんだから」

俺は首を傾げるしかない。
王子なんだから
もっと良いものを
いくらでも手に入りそうなのに。

「手作りってのに
あこがれてんだろ」

義兄は言う。

なるほど。
お金では手に入らない
プライスレスってやつか。

「わかった」

よし。
じゃあ、大作を作ってやるか。
ティスはこの国の王子様だしな。

義兄は「頼んだ」と言い、
ベットから立ち上がる。

「仕上がったら教えてくれ。
それと、こっちも
何か動きがあったら教えるから。

俺もできる限り、
兄貴が婚約しない方向で
何かできないか考えるし。

とにかく、今は色々気を付けて。
ついでに義父にも、
あまり甘やかすような発言は
控えて欲しい。

……でないと、
本気で俺と婚約させられるぞ」

義兄の声は本気だった。

俺は、コクコクと頷く。

「じゃあ、寝る前に悪かった。
おやすみ」

義兄はそう言って
部屋から出て行く。

俺は考えた。
俺が紫の瞳の意味を。

そして隣国のことを。

隣国が何かを仕掛けてくる可能性は
俺が間者を見つけた時に
推察したことがある。

その理由も、
あの時いくつか挙げた。
それを思い出し、
もう一度、俺は自分が書いた
部屋に隠してある考察ノートを
読み返してみるかと思う。

俺が子どもの頃から
隠しながら書き綴っていた
考察ノートは、かなりの量になっていて
全然、隠しきれてはいないのだが、
サリーには大事な覚書が
書いてあるから見ないで欲しいと
念を押して、クローゼットの奥に
しまいこんでいた。

学園に通い始めてからは
何か思い立った時に
書き留める程度だったが、

これを機会にもう一度
しっかりと状況を整理するためにも
ノートに書いてみようか。

文字で書くと、
客観的に見ることができるし
視覚を刺激するから
良いアイデアとか
浮かんだりするんだよな。

もう一冊、新しいノートを
手に入れた方が良いかもしれない。

俺はこれからすべきことを
頭の中で並べ、その中の
優先順位を考えていた。

当たり前だが
すぐに眠ることなどできるはずもなく
その日は夜更かししてしまい、
翌朝、俺はサリーに
叩き起こされ……ることはなく。

優しく、丁寧に
声を掛けられ続けたために
なかなか起きれずに、
遅刻ギリギリの時間に
学園にすべりこんだ。

正直、馬車から
教室まで必死で歩いた。

学園内で走るのは
ダメだから
競歩か!ってぐらい、
頑張った。

ぜーぜーと息を切らして
教室に駆け込んだので
後ろからついてきた
キールはもちろん、
ルシリアンやクリムにも
物凄く心配された。

俺はいつも丁寧なサリーに
俺を起こす時ぐらいは
怒鳴りつけて欲しいと
要望……だとサリーは
頷かないと思うので、
命令するかどうか悩んでしまった。


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