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婚約騒動が勃発しました

68:悲劇の恋人は勘弁してくれ

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 俺が驚きのあまり
口をあけたままでいると、
義兄は指を伸ばして
俺の口を強制的に閉じさせた。

そして
「間抜けな顔してないで
どうするか考えてくれよ。
兄貴は考えるのは得意だろ」

何ていう。

「俺は考えるのが
好きなだけで得意じゃない」

反論してみたが、
義兄は首を振る。

「この数日、
うわさをなんとかしようと
画策したが、無理だった。

気が付けば周囲がみんな、
俺とアキルティアの
恋を応援しているという。

王宮では、ジャスティス殿下が
俺に反抗してきて面倒だし
王妃様まで俺を呼び出そうとする。

もう面倒くさくて無理だ」

義兄は早口で言う。

こんな義兄の姿を
見るのは初めてだ。

義兄はうなだれ、
そして呟くように言った。

「もういやだ。
公爵家は兄貴がなんとかしてくれ。
俺は養子縁組を解消して
旅に出る」

義兄は諦めたように言う。
が。

俺は聞き捨てできない言葉を聞いて
慌てて腰を浮かせて
義兄の肩を掴んだ。

「まてまてまて」

待ってくれ!
それだけは待ってくれ。

うなだれた姿に
前世弟の姿を重ねて
なんとかしてやりたいと
思ったが、無理だ。

俺こそ、無理無理だ。

俺が公爵家を継ぐなんて
できるわけがないだろう。

メンドクサイ。
いや、違う。
性格的に無理だ。

俺は義兄の肩を
押さえるように、
数回叩いた。

まぁ、まぁ。
水でも飲め。
そして落ち着け。

俺は部屋に
用意してあった水差しから
水をグラスに入れて渡した。

俺が夜中に喉が渇いて
目が覚めた時に飲めるよう
サリーが置いてくれていたものだ。

「順序立てて教えてくれ。
何がどうして
そんな展開になってるんだ?」

俺が聞くと、
義兄は水を飲み干し
グラスをサイドテーブルに置く。

そして、俯くように
口を開いた。

「最初は、俺と義兄が
血は繋がってないのに
仲が良いという話だった」

義兄はため息を付くように言う。

「それから……まぁ、
俺も兄貴に変な奴が
付き纏ったら迷惑だと思って
牽制とかしてたから
そういうのもあって
俺と兄貴が恋仲なんじゃないかって
話になったんだと思う」

牽制って、
そんなことをしてたのか。
まったく気が付かなかった。

でも、義兄は義兄で
俺のことを守ってくれてたんだな。

なんか、嬉しいぞ。

「何笑ってんだよ。
今、真剣な話してんだぞ」

義兄に叱られ
俺は素直にごめん、と謝罪する。

「問題なのは、
噂はしょせん噂だし、
俺と兄貴が
なる可能性はゼロだ」

俺は多いに頷いた。

「だから俺も放置してたんだが、
義父がその噂に乗る気満々だった」

「はぁ?」

「義父はアキルティアが
大好きだからな。
兄貴と俺が結婚して
公爵家を継いたら
一生一緒にいれるだろう?」

「あー……」

俺は何を言えばいいか
わからなかった。

あのいつまでも
子離れができない大人で
大人なのに子どもな父なら
それぐらいは考えるだろう。

だからって、
ちょっとは俺と義兄の
人生を考えてくれよ。

「だが、もう気が付いてるだろ?
王家はアキルティアを
嫁に欲しいと思っている」

俺は頷いた。

「そして、面倒なことに
もう一人、アキルティアを
欲しがってる者が現れた」

「は?」

王家と公爵家の話に
食い込んでくるなんて
凄い度胸だな。

「隣国の王子だ」

俺はまたぽかんと
口を開けてしまった。

どういうことだ?
意味がわからん。

そういや以前俺は
隣国の間者を見つけたが
そのせいで目を付けられたのか?

「それで今、
王宮では様々な
憶測が飛び交っている。

アキルティアは王家に嫁ぐのか
俺と結婚して公爵家に残るのか
隣国に嫁に行くのか」

「いやいや、待て。
なんで急にそんな話になる?

しかもどれも選択できない
選択肢しかないし。

将来、もしかしたら俺が
嫁を貰うかもしれないだろ」

俺がそう言うと、
義兄は少し俯き、
深い深いため息を付いた。

そして顔を上げ、
諦めに似た瞳で俺を見た

「兄貴。
俺は兄貴を幸せにするために
この世界に来たと
今でも思っている。

だから兄貴が今、誰かと
婚約するのが嫌だというなら
とりあえず俺と婚約してもいい」

待て!
とにかく話が飛び過ぎてわからん!
待ってくれっ。

「兄様。
何がなんだかわかりません。
何故、兄様が僕との
婚約の話をしたのか、
僕にもわかるように話してください」

俺は努めて冷静に言う。
わざと、弟の顔で言うと
義兄は、すっと兄の顔になった。

それから俺を見て、
ぐしゃぐしゃと頭を掻く。

「だめだ。
今はアキルティアの
義兄に、戻れない」

義兄は首を振る。

感情が高ぶり過ぎて
冷静になれないらしい。

ついでに感情が
昂ぶり過ぎて前世の記憶に
引きずられてるようだ。

しょうがないなぁ。と
俺はもう一杯、
グラスに水を入れた。

まだピッチャーの中には
氷が残っていたし、
かなり冷たいと思う。

「はい、兄様飲んで」

グラスを差し出すと
義兄は素直に受け取る。

「悪い。
俺の方が長生きしてて
兄なのに。

たまにこの世界の
貴族の考え方とかに
無性に反発したくなる」

それが義兄の本心なのだと
俺は思った。

俺は社交界にも出ず、
こうして真綿に包まったように
大事にされているけれど。

義兄は、俺の代わりに
こうやって頑張ってくれているのだ。

ただ感謝しかない。

だからと言って、
婚約できるかと言われれば
頷くことなどできやしないが。

義兄は大事な存在だが
義兄は兄で、弟のようなものだ。

家族愛はあるが、
子どもを作るなどできやしない。

もちろん、それは義兄も同じだろう。

なのにわざわざ俺に
婚約しろ、などと
何故言うのか。

これは何があったのかを
きちんと把握して
対応策を考えなければ。

俺は気を引き締めて
義兄を見つめた。

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