上 下
91 / 308
婚約騒動が勃発しました

68:悲劇の恋人は勘弁してくれ

しおりを挟む
 俺が驚きのあまり
口をあけたままでいると、
義兄は指を伸ばして
俺の口を強制的に閉じさせた。

そして
「間抜けな顔してないで
どうするか考えてくれよ。
兄貴は考えるのは得意だろ」

何ていう。

「俺は考えるのが
好きなだけで得意じゃない」

反論してみたが、
義兄は首を振る。

「この数日、
うわさをなんとかしようと
画策したが、無理だった。

気が付けば周囲がみんな、
俺とアキルティアの
恋を応援しているという。

王宮では、ジャスティス殿下が
俺に反抗してきて面倒だし
王妃様まで俺を呼び出そうとする。

もう面倒くさくて無理だ」

義兄は早口で言う。

こんな義兄の姿を
見るのは初めてだ。

義兄はうなだれ、
そして呟くように言った。

「もういやだ。
公爵家は兄貴がなんとかしてくれ。
俺は養子縁組を解消して
旅に出る」

義兄は諦めたように言う。
が。

俺は聞き捨てできない言葉を聞いて
慌てて腰を浮かせて
義兄の肩を掴んだ。

「まてまてまて」

待ってくれ!
それだけは待ってくれ。

うなだれた姿に
前世弟の姿を重ねて
なんとかしてやりたいと
思ったが、無理だ。

俺こそ、無理無理だ。

俺が公爵家を継ぐなんて
できるわけがないだろう。

メンドクサイ。
いや、違う。
性格的に無理だ。

俺は義兄の肩を
押さえるように、
数回叩いた。

まぁ、まぁ。
水でも飲め。
そして落ち着け。

俺は部屋に
用意してあった水差しから
水をグラスに入れて渡した。

俺が夜中に喉が渇いて
目が覚めた時に飲めるよう
サリーが置いてくれていたものだ。

「順序立てて教えてくれ。
何がどうして
そんな展開になってるんだ?」

俺が聞くと、
義兄は水を飲み干し
グラスをサイドテーブルに置く。

そして、俯くように
口を開いた。

「最初は、俺と義兄が
血は繋がってないのに
仲が良いという話だった」

義兄はため息を付くように言う。

「それから……まぁ、
俺も兄貴に変な奴が
付き纏ったら迷惑だと思って
牽制とかしてたから
そういうのもあって
俺と兄貴が恋仲なんじゃないかって
話になったんだと思う」

牽制って、
そんなことをしてたのか。
まったく気が付かなかった。

でも、義兄は義兄で
俺のことを守ってくれてたんだな。

なんか、嬉しいぞ。

「何笑ってんだよ。
今、真剣な話してんだぞ」

義兄に叱られ
俺は素直にごめん、と謝罪する。

「問題なのは、
噂はしょせん噂だし、
俺と兄貴が
なる可能性はゼロだ」

俺は多いに頷いた。

「だから俺も放置してたんだが、
義父がその噂に乗る気満々だった」

「はぁ?」

「義父はアキルティアが
大好きだからな。
兄貴と俺が結婚して
公爵家を継いたら
一生一緒にいれるだろう?」

「あー……」

俺は何を言えばいいか
わからなかった。

あのいつまでも
子離れができない大人で
大人なのに子どもな父なら
それぐらいは考えるだろう。

だからって、
ちょっとは俺と義兄の
人生を考えてくれよ。

「だが、もう気が付いてるだろ?
王家はアキルティアを
嫁に欲しいと思っている」

俺は頷いた。

「そして、面倒なことに
もう一人、アキルティアを
欲しがってる者が現れた」

「は?」

王家と公爵家の話に
食い込んでくるなんて
凄い度胸だな。

「隣国の王子だ」

俺はまたぽかんと
口を開けてしまった。

どういうことだ?
意味がわからん。

そういや以前俺は
隣国の間者を見つけたが
そのせいで目を付けられたのか?

「それで今、
王宮では様々な
憶測が飛び交っている。

アキルティアは王家に嫁ぐのか
俺と結婚して公爵家に残るのか
隣国に嫁に行くのか」

「いやいや、待て。
なんで急にそんな話になる?

しかもどれも選択できない
選択肢しかないし。

将来、もしかしたら俺が
嫁を貰うかもしれないだろ」

俺がそう言うと、
義兄は少し俯き、
深い深いため息を付いた。

そして顔を上げ、
諦めに似た瞳で俺を見た

「兄貴。
俺は兄貴を幸せにするために
この世界に来たと
今でも思っている。

だから兄貴が今、誰かと
婚約するのが嫌だというなら
とりあえず俺と婚約してもいい」

待て!
とにかく話が飛び過ぎてわからん!
待ってくれっ。

「兄様。
何がなんだかわかりません。
何故、兄様が僕との
婚約の話をしたのか、
僕にもわかるように話してください」

俺は努めて冷静に言う。
わざと、弟の顔で言うと
義兄は、すっと兄の顔になった。

それから俺を見て、
ぐしゃぐしゃと頭を掻く。

「だめだ。
今はアキルティアの
義兄に、戻れない」

義兄は首を振る。

感情が高ぶり過ぎて
冷静になれないらしい。

ついでに感情が
昂ぶり過ぎて前世の記憶に
引きずられてるようだ。

しょうがないなぁ。と
俺はもう一杯、
グラスに水を入れた。

まだピッチャーの中には
氷が残っていたし、
かなり冷たいと思う。

「はい、兄様飲んで」

グラスを差し出すと
義兄は素直に受け取る。

「悪い。
俺の方が長生きしてて
兄なのに。

たまにこの世界の
貴族の考え方とかに
無性に反発したくなる」

それが義兄の本心なのだと
俺は思った。

俺は社交界にも出ず、
こうして真綿に包まったように
大事にされているけれど。

義兄は、俺の代わりに
こうやって頑張ってくれているのだ。

ただ感謝しかない。

だからと言って、
婚約できるかと言われれば
頷くことなどできやしないが。

義兄は大事な存在だが
義兄は兄で、弟のようなものだ。

家族愛はあるが、
子どもを作るなどできやしない。

もちろん、それは義兄も同じだろう。

なのにわざわざ俺に
婚約しろ、などと
何故言うのか。

これは何があったのかを
きちんと把握して
対応策を考えなければ。

俺は気を引き締めて
義兄を見つめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

仲間を庇って半年間ダンジョン深層を彷徨った俺。仲間に裏切られて婚約破棄&パーティー追放&市民権剥奪されたけど婚約者の妹だけは優しかった。

蒼井星空
恋愛
俺はこの街のトップ冒険者パーティーのリーダーだ。 ダンジョン探索は文字通り生死をかけた戦いだ。今日も俺たちは準備万端で挑む。しかし仲間のシーフがやらかしやがった。罠解除はお前の役割だろ?なんで踏み抜くんだよ。当然俺はリーダーとしてそのシーフを庇った結果、深層へと落ちてしまった。 そこからは地獄の日々だった。襲い来る超強力なモンスター。飢餓と毒との戦い。どこに進めばいいのかも分からない中で死に物狂いで戦い続け、ようやく帰っていた。 そこで待っていたのは、恋人とシーフの裏切りだった。ふざけんなよ?なんで俺が罠にかかって仲間を危険に晒したことになってんだ!? 街から出て行けだと?言われなくてもこっちから願い下げだよ! と思ったんだが、元恋人の妹だけは慰めてくれた。 あのあと、元仲間たちはダンジョンを放置したせいでスタンピードが起こって街もパーティも大変らしい。ざまぁ!!!! と思ってたら、妹ちゃんがピンチ……。 当然助けるぜ? 深層を生き抜いた俺の力を見せてやるぜ!

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

処理中です...