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中等部に進級しました

55:女性の偉大さを忘れてました

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 それから俺たちは
学園での話を中心に盛り上がった。

あの先生はどうだとか、
この授業はわかりやすいとか。

話を聞いていくと、
やはり婚約者とは言え、
クリムもルシリアンも俺に
べったりと張り付いているのからか、
メイジーもエミリーも、
学園で俺たちと会うという意識は無いようだった。

一応、一緒に食堂でご飯を食べない?
と聞いてみたけれど、
二人はブンブンと手を振って
「そんな恐れ多いことは無理ですわ」という。

何が恐れ多いのかよくわからない。

身分か?
俺が公爵家だからダメなのか?

クリムもルシリアンも
それを否定しないので
俺が恐れ多いと言うのは
間違いないらしい。

困った。
これでは友達になれない。

俺はうなだれそうになったが、
そういえば、とポケットに入れていた
土産の存在を思い出した。

「あの、僕、お土産を持って来てたんです」

俺はポケットから
布に包まれた薄い小さなものを取り出した。

「今日のお茶会が楽しみで、
よければみんなでお揃いのものを
持てたらいいなと思って
作って来たんです」

と俺は布をめくった。

タウンハウスに咲いていた
綺麗な花を押し花にして
それを栞にしたのだ。

手土産は形に残らない物が良いとは
聞いていたけれど。

これなら無くしても
気にならない程度のものだし、
栞なら、学園で日常使いしてもらえる。

「アキ様が作ったのですか?」

クリムが俺の手元を食い入るように見た。

あれ?
ダメだった?

だが、義兄の時とは違い、
庭の石を磨いて持ってくるわけには
いかなかったしな。

ヤバイ。
手土産が不評な時はどうしたらいいんだ?

「すごい、アキルティア様の
手作りのものを頂けるなんて……」

驚くような声がルシリアンから出た。

うん?
どういう意味だ?

「あ、あの。
私たちもいただけるのでしょうか」

おずおずとメイジーが言うので
もちろん、と俺は重なった栞を
テーブルに並べて見せた。

どれも同じ花を使ったけれど、
少しづつ、形や色が違う。

「お揃いにしたくて、
僕も同じものを持ってるんだよ」

というと、
4人は目を見開いて俺を見つめ、
それから栞を見た。

「あの、本当にいただけるのですか?」

おそるおそると言った様子で
エミリーまでもが聞いてくる。

何か問題でもあるのだろうか。

「えっと、僕はこういう時の
作法とかよくわからなくて。

なんか、ダメだったかな?」

何が悪いのかわからないので
とりあえず理由を聞こう。

そう思ったのだが、
4人はそんなことはない、と
何度も否定しながら
栞に手を伸ばした。

これ、無理やり栞を
押し付けたことになってないか?

公爵家の俺がわざわざ
作ってやったんだから
ありがたく貰えよ、みたいな。

権力があると、
いろいろと難しいな。

こういうのは場数を踏んで
慣れるしかないのだろうけど。

「手土産は形に残らない物が
良いって聞いてはいたんだけど。
やっぱり迷惑だったかな?」

ダメならダメだと言って欲しい。

けれどルシリアンはいいえ、と首を振った。

「とても嬉しくて
戸惑っただけなのです。

その……おそらくですが
殿下は、このようにアキ様が
作った物はお持ちではないと思いましたので」

そりゃそうだろ。
相手は王子様なんだから
俺が作ったしょぼい栞なんぞ
プレゼントできるわけがない。

「ティスは僕が作った物よりも
もっとたくさん素敵なものを
持ってるもの。
わざわざ、庭の花で作った栞なんか
渡さないよ」

不敬になるかもしれないしな。

俺が笑って言うと、
四人は複雑そうな顔で笑った。

どういうことだ?

結局、茶会で栞を持ってきた
俺の行為はNGなのか?

それにティスがどう関係してるんだ?

俺にはわからないことばかりだが
それでも四人は思い思いに手を伸ばし
俺の栞を笑顔で受け取ってくれた。

「アキルティア様は器用ですのね」

メイジーが言う。

「本当に。
私も可愛いものが好きで
良く刺しゅうなどをするのですが、
このような栞を作るなどできませんわ」

エミリーもそう言ってくれる。

女子二人に褒められて
気分が悪いわけがない。

俺は気を取り直して
「エミリー嬢は刺しゅうが得意なのですね」と
話を振った。

そこからエミリーは嬉しそうに
どんな絵柄が良いとか、
そんな話をする。

メイジーはエミリーとは親しいようで
それに相槌を打ちながら
どんどん話を進めていく。

最初は刺しゅうの話だったのに、
いつのまにか脱線して
互いの家族の話や
普段のクリムやルシリアンの
話などもする。

かと思うと、
また刺しゅうのモチーフの話になって
そのまま、庭に咲いている
花の名前の話をする。

それはもう、
最初の大人しそうな印象など
拭き飛ぶような勢いだ。

口を挟む暇もなく、
けれど、小さい女子が
きゃぴきゃぴと話すのは不快ではなく。

あぁ、若いっていいなー。
なんて思いながら俺は紅茶を飲んだ。

俺、今日は友達を作りに来たんだけどな。

女友達でも構わないと
思ったけれど、この輪の中に
入れる気がしない。

ふとクリムとルシリアンを見ると
2人も慣れた様子で紅茶を飲んでいた。

もちろん、二人とも
女子二人の会話に入ることもなく
口を挟むことも無い。

ただ黙って二人を見守っているだけだ。

……なるほど。

どうやらこれが
この四人が集まった時の
通常運転らしい。






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