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54:新しい友達

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 俺がテーブルに近づき、
声を掛ける前に
ルシリアンが俺に気が付いて
声を掛けてくれた。

「アキルティア様」

いつものようにアキ様と呼ばないのは
俺が知らない人がこの場にいるからだろう。

だから俺も
「今日はお招きいただき、
ありがとうございます」
と丁寧に言った。

ルシリアンはそんな俺を
にこやかにテーブルまで
エスコートしてくれる。

「アキルティア様」

クリムもすぐに俺に声を掛けて来てくれて
「制服以外の姿は初めて見ました」と
笑顔を見せた。

「うん。兄様が選んでくれたんだけど
変じゃないかな?」

ちょっと仰々しい服に
思えるのだが。

俺は白いシャツの上から
軽くジャケットを羽織っているのだが、
ジャケットから覗くシャツの
襟にはレースが付いている。

しかも襟からボタンにかけては
フリルっぽい装飾が付いていて、
ポケットとか、襟元とか。
ところどころに紫の色が差してある。

縫い糸は金色だし、
派手可愛いというか、
これ、女子の服ではないだろうか。

確かに前世で俺は弟に
安いからという理由で中古
ショップで買った女児服を
着せていたが、
それは小学生低学年までのことだ。

それに女児服を買おうと
提案したのは俺だが
それを実行したのは
前世の母だ。

まさかその恨みを
今、義兄が晴らしているとは
思わないが、
さすがにこの年で
女性用の服はイタイだろう。

この服を前に色々思ったが、
「絶対にこれがいい」という義兄の
言葉に俺は反論することもできずに
これを着たのだ。

「とてもお似合いです」

とクリムは言うが
絶対にお世辞だろう。

こいつ、13歳にもなって
義兄に服を選んでもらってんのか、とか
思われてないだろうか。

茶会も始まってないのに
不安になるじゃないか。

俺は庭の温かい日差しに
暑くなり、ジャケットを脱ぐと
すぐに侍女がそれを受け取ってくれる。

「さぁ、アキルティア様
こちらへ」

ルシリアンが椅子を引いてくれたので
俺は素直にそこに座った。

右隣にルシリアンが座り、
左隣にクリムが座る。

その隣に、今日の二人が
連れて来た友人が座った……
のだが。

なんだか、おかしい。

この違和感はなんだ?

俺の戸惑いにも気が付かず、
ルシリアンが俺を見る。

「アキルティア様、
僕のパートナーをご紹介します。
ルメール伯爵家のエミリー嬢です」

茶色い髪をゆるく巻いた女性が
にこやかに頭を下げた。

「エミリー・ルメールでございます。
どうかよろしくお願いいたします」

「あ、うん」

と俺はなんとか返事をする。

変だよね?
この流れ……。

「こちらは僕の婚約者の
メイジー嬢です」

と、クリムも隣に座る水色の髪の
女性を俺に紹介した。

サラサラのストレートの髪で
清楚な感じがする。

「ローレン伯爵家長女、
メイジーでございます」

と言われ、俺も慌てて
「アキルティア・アッシュフォードです」
と返事をしたけれど。

あれだよな。
これ、二人が自分の婚約者を
俺に紹介してるんだよな?

俺に友達を紹介してくれるんじゃなかったのか?

いや、まてよ。
そう言えば、俺は明確に
友だちを紹介してくれ、とは言わなかった。

ルシリアンが、パートナーを
連れてくるということか?と
聞いて、そうだと答えただけだ。

茶会でのパートナーというのは
友だちではなく、
婚約者ということになるのか?

そうだったのかーっ。
そうだったのかーっ。
そうだったのかーっ。

俺は自分の恥ずかしい勘違いを
脳内でエコーさせながら
なんとか平静を保った。

どうりで父があれから素直に
茶会に行くことを許しただけでなく
シェフに手土産を作らせるよう
助言してくれた筈だ。

俺に新しい友達ができないことが
わかってたんだな。

だいだい、
子どもが友達を作ることに
否定的な親ってどーよ。

そりゃ、貴族のしがらみとか
色々あるかもしれないが。

父が俺に親しい友人ができることを
嫌がる理由はそんなことじゃない。

「だって可愛い息子との時間を
取られるかもしれないだろ」だ。

俺の被害妄想なんかじゃないぞ。
だって。
俺が友達が欲しいと言って
父に茶会以外に何かできることは
無いかと聞いたら、
友だちなんか必要ない、と
先ほどのセリフを言われたのだから。

俺は開いた口が塞がらなかったね。

過保護と溺愛はありがたいが、
俺が成人を迎えたらどうなるのか
いまから不安だ。

それにしても、可愛い女子が二人。
クリムもルシリアンも
婚約者は大事にしてそうだったもんな。

友好を深めておいた方が良いよな。
いや、まてよ?
友だちは男友達だけではない。

二人の婚約者だったら、
俺だって仲良くなっても構わないよな?

俺たちが自己紹介を終えると
すぐに侍女がお茶を淹れてくれた。

俺が持って来た手土産も
すぐにテーブルの上に準備される。

俺の手土産の中身はフルーツサンドだ。

この世界ではパンは食事用が
当たり前のようだったが、
前世ではフルーツやクリームが入ったパンも
当たり前に存在していた。

俺は甘いものが好きだし、
朝の眠たい時間に
朝食をしっかり食べるのは苦手だ。

もともと食は細い方だしな。

それでもタウンハウスのシェフが
なんとか俺に朝ご飯を
食べさせようと毎回、
食べやすいようにと工夫してくれるので
俺はこのフルーツサンドを思いついたのだ。

パンだったら食事っぽくなるし、
これなら食べられるかも、と。

そこで俺はシェフにパンを薄く切って、
フルーツやクリームを挟んでくれと
頼んでみたのだ。

食べてみると思った通りに美味しくて
それから公爵家では朝食や
ブランチの定番になった。

俺はそれを持って来たのだ。

案の定、皆は驚いているが、
俺がシェフに作ってもらった経緯を
話してみると、それならば、と
全員、すぐに手に取ってくれた。

「美味しいですわ!」
と真っ先に驚きの声を挙げたのは
エミリーだった。

ふわふわ髪の可愛い女性だ。
俺たちよりも一つ年下なので、
まだ12歳だ。

「本当ですわ。
パンがまるでケーキのよう」

ほう、と息を付くのは
メイジーだ。

彼女も一つ年下と言うので
12歳のはずだ。

だが二人とも学園に
通っている筈なのに、
今まで会ったことが無い。

俺が学園では
ルシリアンとクリムを
独り占めしているからだろうか。

ちょっと考えた方が良いかもな。

「やはりアキ様の発想は素晴らしいです」
と、呼び方を元に戻したルシリアンが
そう言い、クリムは頷きながら
すでに二つ目を口に入れていた。

喜んでもらえて良かったよ。

よし。
これで俺の印象は良くなった筈だから、
さっそく彼女たちと仲良くなるぞーっ。


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