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閑話3

俺の義弟の幸せな結婚が遠すぎる【義兄・ジェルロイドSIDE】

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 俺が公爵家の次期当主になる。
そのことが、ほぼ決定した。

義父は俺とアキルティアの話に
驚いた顔をしたが、
アキルティアの「7歳の年の差は大きい」と
主張した正論に、義父が押された形で決まったのだ。

こういう正論を振りかざして
理詰めで相手を攻撃してくるのは
前世兄の時と全く同じだ。

義父はアキルティアの父親だし
可愛い息子の成長を喜んでいるとは思うが
これ、他人にされたら
むちゃくちゃ腹立つんだよな。

弟だった俺も、腹立ったし。
なにせ正論だから、反論できない。

反発すると「これだから子どもは」みたいな顔で
兄に見られて、俺はさらに反抗してしまった。

あぁ、嫌なことを思い出してしまった。

前世の記憶に引きずられないように
しようと思っているが、
ついつい、前世を基準に物事をとらえてしまう。

だがアキルティアも前世の知識や
常識に引きずられてるから
すぐに【原因と結果と予測】の話に
なってしまうんだろうな。

前世の兄貴、
そういうのがめちゃくちゃ好きだったし。

俺は思うのだが、公爵家の次期当主は
俺でもいい。

その為の教育は引き取られた時から
始まっていたし、アキルティアが
言っていたように、一人で考えて
理論を組み立てて楽しいタイプの
アキルティアには、公爵家の当主は
あまりあわないような気がする。

けれど、義父の王宮での役職の
跡継ぎはアキルティアが良いのでは
ないだろうか。

義父の王宮での役職は【相談役】となっているが、
前世で言うところの【常務取締役】みたいな感じだと思う。

常務取締役とは、
現場と経営陣の両方の視点を持ち、
社内で衝突しがちな現場と経営側との
調整を行う役職のことだ。

義父は現在、
国王陛下と宰相、王宮の文官たち、
騎士たちとの間を取り持ち、
それらの調整を行っている。

何か困ったら父の所に行けばなんとかなると
王宮で言われているのは周知の事実だ。

義父の兄である国王陛下でさえ、
義父の発言を諫め、覆すのが難しいとまで
言われていて、王宮では陛下は国を治めているが、
裏は闇の大魔王(義父)が治めているとまで
言われている。

噂話でしか聞いたことがないが、
どうやら義父は幼いころから
現在の国王陛下である兄よりも
国王になるのが相応しいのではないかと
言われていたらしい。

だが天才肌らしいと言えばいいのか、
義父は規則や常識にとらわれるのを嫌い、
皆と同じ行動をするのを幼いころから
極端に嫌がったらしい。

しかも成長し、義母の出会うと
一目で恋に落ちて、
国を守るよりも義母を守ると宣言したのだから
さすがに義父を国王にと推す声も無くなった。

当たり前だろう。
愛する人さえ守れれば
国はどうなってもいいと公言したのだから。

だがそんな義父は
優秀さを買われて国王陛下の
オブザーバー的な存在として
王宮に勤めることになった。

【相談役】という役職は
義父のために作られた言う。

そしてこの部署は、
各部署で解決できなかった困りごとを
全て吸い上げ、解決する。

そこには国王陛下への陳情も
もちろん、ある。

そして義父は、兄でもある
国王陛下にも、遠慮はしない。

言いたいことを言い、
自分の考えをはっきりと伝える。

そこから国をどう動かすのかは
国王陛下の采配だが、
義父のそんな態度は多くの者から
慕われている。

だからこそ「困ったら魔王の所に行け」
と暗黙のルールが生まれたのだろう。

俺はこんな義父を見ていて
アキルティアが義父の跡を継ぎ、
ジャスティス殿下の相談役になったら
どうかと思っているのだ。

前世の兄はまとまりのない
同僚の人たちをまとめ上げていたようだし
面倒見も良いので、年上の人も
兄貴を頼りにしていたようだった。

それに独自の視点で仮説を立て、
予測を立てて自論を展開するのが好きなところは、
たとえば、騎士と文官といった、全く違う
仕事をしている者たちの間で何か問題が起こっても、
その折衷論を考え、より良い未来を
考えることができるんじゃないかと思う。

それに、だ。

アキルティアは前世の常識に
引きずられてはいるだけでなく、
基本、真面目でまともな考え方をする。

政治をしようとすると
暗躍しなければならないことも
出てくるのだが、きっとアキルティアは
そういうことは苦手だろうと思う。

誰かを笑顔で陥れるような真似は
おそらく、できない。

いや、無理に誰かを陥れるなど
しなくても構わないが、
そういう部分もあるということを
知っているのと、実際に自分が
その現場にいて行動するのとでは
違うと思うのだ。

俺は前世ではあまり素行の良い
学生ではなかったから、
同じ様に素行の悪い生徒から
声を掛けられることもあったし、
この世界でも次期当主としての
教育が始まり、貴族社会の裏の話も
頻繁に耳にするようになった。

こういったことは、アキルティアには
知られたくないと思うし、
義父も同じだろう。

それならば、将来、相談役として
ジャスティス殿下のそばに居て、
殿下を支えていけばいいと思う。

あのまだ頼りないジャスティス殿下の妃に
なるぐらいなら、相談役の方が
よっぽどいい。

一度、義父にこの話をしてみようか。

アキルティアが卒業するころに
【相談役】の引継ぎということで
義父のそばで仕事をするようになれば
義父も喜ぶだろう。

俺も妙な縁談が舞い込む心配もなく
安心だしな。

ジャスティス殿下のアキルティアへの
愛情は疑いはしていないが、
いかんせん、ジャスティス殿下は
王としては、まだまだ、だ。

成長途中と言われればそうなのかもしれないが、
コツコツ努力するのが苦手で、
深く考える前にすぐに行動しようとする癖が
なかなか抜けない。

ここが矯正できなければ
アキルティアと結婚など
許せるわけがない。

結婚しても苦労するのが
目に見えているからな。

義父は王家との婚姻は嫌がっているし、
義母も口を挟まないが、
敬遠しているように見える。

俺もジャスティス殿下が絶対に
ダメだとは言わないが、
他に好条件があれば、
そちらに行くべきだと思っている。

だが、なかなか好条件の者が
いないのも実情だ。

そんなに高い理想を掲げているわけではないのに、だ。

条件はたった3つだ。

アキルティアだけを愛し、
大切にすること。

アキルティアが辛い思いをしないように
地位が高く、領地が安定しており、
お金に困っていないこと。

アキルティアが愛する、
もしくは好意を持つ相手であること。

たったこれだけのことなのに、
なかなかうまくいかない。

そして現在、この条件に当てはまるのが
残念だがジャスティス殿下だけなのだ。

アキルティアが公爵家を継がないことを
前提として探しているが、
これからは、公爵家に婿入りできそうな
者たちも候補にいれてみてもいいかもしれない。

俺が公爵家を継いでも、
この家の広い庭の一角に別邸を立てて
そこにアキルティアたちが住んでも良いわけだし。

思い切って、
身分の高い次男や三男も視野にいれてみるか。

俺は王宮の執務室で
大きく伸びをした。

俺は公爵家の次期当主として
義父に仕事を教わってはいるが、

現状、公爵家は、
領地とタウンハウスは近くだし、
優秀な家令たちもいて
領地経営には困っていない。

そんなわけで俺は空いている時間で
ジャスティス殿下のお守り……いや、
側近として働いているのだが
今は、殿下が学園にいる時間なので
王宮にある与えられた部屋で
仕事をしていたのだ。

だが書類をまとめてしまうと、
ジャスティス殿下の采配待ちになるので
暇になってしまう。

そうなると考えるのはアキルティアのことばかりだ。

幸せになって欲しいと思う。

それはアキルティアが前世の兄だという
ことも関係しているが、純粋に、
俺の大切な義弟だから、という思いもある。

義父は俺とアキルティアを結婚させて……。
なんてことも考えているようだが、
さすがにそれは、勘弁だ。

アキルティアは大事で可愛いが
俺にとっては兄弟……義弟で
兄貴だから。

子どもを作るなんて、
どう考えても無理としか言いようがない。

アキルティアが結婚せずに、
ずっと公爵家にいるのであれば
俺がずっと守ってやるんだが。

アキルティアにとっての幸せな結婚は
ほど遠いように思ってしまうのは
気のせいだろうか。

「ジェルロイド様」

不意に声を掛けられ、
俺は驚いた。

随分と考え込んでいたらしい。

机に向かっていた俺は、
声がする方を見上げると、
側近秘書の一人が俺に笑顔を向けていた。

「弟君から先ぶれがあり、
学園帰りに王宮に立ち寄るとのことですよ」

「そうか、ありがとう」

アキルティアはたまに、
ジャスティス殿下と一緒に
学園から直接王宮に来ることがある。

ジャスティス殿下に誘われているのだろうが、
こういった日は、俺か義父と一緒に
タウンハウスに戻ることになる。

恐らく義父のところにも
連絡が入っているだろう。

もう学園が終わる時間か。

俺は側近秘書に殿下と
アキルティアのお茶の準備をするように命じた。

「さて。
今日はどうやって殿下をイジメようか」

俺の言葉を聞いて秘書は、
ぎょっとした顔をした。

だが俺がわざと笑って
「殿下の判断待ちの
書類が山ほどあるんですよ」
というと、なるほど、と秘書は頷く。

「アキルティアとお茶を飲む前に
すべて終わらせてもらいましょうか」

アキルティアは図書室にでも
案内すれば、喜んで行くに違いない。

「アキとの距離が
簡単に縮まるなんて思うなよ」

つい、いつもの乱暴な口調で
本音が飛び出してしまった。

俺はまだまだジャスティス殿下の所に
アキルティアを嫁に出す気はないからな。

俺は殿下に見せるための書類を束にする。

そんな俺を見ていた秘書が
「まるで小姑ですね」なんて呟くのが
聞こえたが、俺はそれを無視した。

それがどうした!

と、俺はすでに開き直っている。




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