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愛される世界?

12:兄へのプレゼント

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 義兄はタウンハウスに引っ越したが、
週末には領地の屋敷に帰って来た。

俺と一緒に遊ぶなんてことはないが、
王都の土産だと菓子を持って来てくれたり、
夕飯は一緒に食べたりしている。

義兄は物凄く賢いらしく、
剣の腕前も素晴らしと評判らしい。

らしいというのは、母が言っているので
どこまで本当かはわからない。

でも義兄は優しいと思う。
俺にどう接して良いのかわからないようで
戸惑うように話をしたり、
庭に出るときは手を繋いだりしてくれるが、
決して会話が弾むわけではない。

それでも、俺は義兄と
無言で散歩するのも好きだったし、
一緒に落ち葉を拾ったり
庭師に花を貰うのも好きだった。

この前は庭で綺麗な石を見つけたので
沢山ポケットに入れていたところを
サリーに見つかり怒られた。

それを義兄に見られて
笑われてしまったのだが、
それはバカにした笑いではなく、
どこか懐かしむような、
優しい微笑だった。

義兄にも弟がいたのだろうか。
その弟が同じことをしていたのかと
俺は思った。

義兄には家族がいると言う。
本当の家族がいるのに
公爵家に引き取られて
嫌じゃないのだろうか。

親に捨てられたとか、
そんなことを思ったりしないのだろうか。

そう思うと義兄のことが気になってしまう。

俺はサリーにお願いをして
ポケットの中の石を1つだけ残してもらった。

あとは庭の元あった場所に戻した。

「その石をどうなさるのですか?」

サリーが聞いてくる。

「洗って、ピカピカに磨くの!」

「磨く……ですか?」

「そしたらもっと綺麗になって
宝石みたいになるでちょ?」

くそ、いいこと言ってるのに、
舌がまわらず、幼児言葉になってしまった。

「そ、そう……ですね?」

「そしたら兄さまにあげるの」

と言った時、
サリーは固まっていた。

きっと内心、迷惑だよ、と
言っていたに違いない。

すぐに何もなかったような顔になったけれど。

でもいいんだ。
俺は磨いて磨いて磨きまくって
この石を宝石にするんだ。

俺はサリーにお願いをして
いらない布を一枚貰った。

そして毎日毎日、
時間ができたら石を磨いた。

少し大きめの石で、
俺の手の平に乗せても
それなりの大きさだ。

これならペーパーウエイトにでも
できるかもしれない。

俺が毎日毎日、石を磨いているので
朝食後に母と父に「石を磨くのは楽しい?」と
聞かれてしまった。

俺は頷き、「宝石を作ってるの」と答える。

すると、二人は何とも言えない顔をしたが
俺は気が付かなかったふりをした。

「兄さまにプレゼントするの」

一応、フォローのためにそう言うと、
父が「プレゼント?」と聞き返す。

「兄さまに、兄さまになってくれて
ありがとうって言うの」

そういうと、父は「俺の可愛い息子は
なんて優しいんだ!」といきなり席を立ち
俺を抱き上げる。

「じゃあ、ずっとアキは
兄のために頑張っていたんだな?

父様のためには何かしてくれないのか?」

「え、と」

俺は口ごもる。

石を磨くのはもう無理だ。

それの俺が渡せるのは
庭にあるものばかり。

正直、公爵家の当主に渡せるようなものではない。

そんな俺に、母が「ふふ」と笑って
そばにきてくれた。

「アキ、そういうときはね。
お父さまにこうしてあげればいいのよ」

母が可愛らしく笑い、
父の頬にキスをする。

おぉーっ!
やはり母は何をやっても可愛い。

父も一瞬、嬉しそうな顔をする。

そして俺に頬を突き出した。

え?
俺も本当にやるの?

めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。

でも俺は三歳児。
恥ずかしがる必要はない。

親とのコミュニケーションだしな。
ここはヨーロッパみたいなもんだ。

頬へのキスぐらい挨拶みたいなもんだ。

俺は頑張って父の首にしがみつき
そっと唇を頬に付けた。

「うーっ、可愛いなー」

父はそう言い、俺を抱きしめてくる。

だが、
「あまりアキを可愛がると
ヤキモチ焼いちゃいますよ」

なんて母が言うものだから
父は俺を抱っこしたまま母を抱きしめた。

「俺の家族は可愛すぎるーっ」

「兄さまも家族でしゅ」

あぁ、大事なことを言うときに
いつも舌がまわらない。

緊張してるのか?俺。

でもここにいない
義兄の存在をしっかりと
主張しておかないと。

「うんうん、そうだな。
ほんとアキは良い子だな」

父はそう言って笑った。

父よ、本当にわかってるのか?

義兄も家族なんだぞ?
血は繋がってないけど
俺のためにこの家に来てくれたんだぞ?

別に義兄を抱きしめて
チューしろとは言わないけれど
俺に向ける愛情の半分でもいい。

少しは義兄に向けて欲しい。

義兄だって、新しい家族に対して
不安を感じているかもしれないじゃないか。

俺はそんな義兄と一緒にいる時間は少ないし
そのフォローは父がすべきだろう?

「父さま。
次に兄さまが戻ってくるのはいつ?」

「明後日の休みには戻ってくる筈だぞ」

明後日か。
よし、それまでに石をしあげるぞ!

俺が決意をしたのに、父は
「父様も構って欲しいよ、アキー」と
甘えた声で俺の頭をぐりぐり撫でる。

母は「あらあら」と笑って
父の腕の中で俺と父を抱きしめ返している。

なんだかんだ言って、
俺は前世で欲しかった家族を
手に入れたんだなーと。

そんなことを思った。



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