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学園に入学しました

45:殿下乱入

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 俺はめちゃくちゃ恐縮した。

「すみません。
勝手に好き勝手言ってしまって。

売り上げのこととか、
お店の内装のこととか、
僕には口を出す権利もないし、
そのような内容に口を挟むなんて」

10歳の子どもが何様だよ!って思うよな、普通は。

「いえ、本当にありがたいご意見でした。
以前、殿下の元で間諜騒ぎがあった際も
驚きましたが、アキルティア様は
本当に素晴らしい頭脳をお持ちだ」

うん?
ティスの?

あーっ、シンク氏ってば、あの時、
会議室の一番前で俺の話を
真剣に聞いてくれた人じゃん!

「あ、あのとき、大変失礼しました」

大人たちに子どもが何を偉そうに!って
冷静になった今だから思えるが、
俺は子どもなのだ。

若気の至りだ、許してくれっ。

恥ずかしくて俺は今更だが謝罪する。

「いえ、頭を上げてください」
とシンク氏が言ってくれるので
許してくれたと思うことにした。

俺が顔を上げ、
許してくれたお礼を言おうとしたが、
それはノックの音で遮られる。

ドアのそばにいた護衛が扉を開けると
すぐに一人の男性が部屋に入ってきて
シンク氏に耳打ちした。

「なんと!」

勝手なことを……と呟いたのを
俺は聞き逃さなかった。

なんだ?
何があった?

と謎に思ったのは一瞬だ。

だってすぐにその答えが
部屋に入って来たのだから。

「アキ!」

ティスが凄い勢いでドアを開けて
俺のそばに早足でやってくる。

「久しぶりです、ティス」

というと、ぎゅーっと
ティスに抱きしめられた。

「会いたかった!
ずっと、ずっと会いたかった!

なのに茶会の招待状をおくっても
……いや、送ることさえできず、
試練、試練と……。

試練が終わらねばアキの
顔を見ることも叶わぬと言われ、

1つの試練を達成しても
また次の試練が……」

大丈夫か?

涙ながらに言うティスに
今度は俺が呆然とする番だ。

確かにティスとは最近会わないなーと
思ってはいたけれど。

義兄の仕業だよな、それ。

「人を悪者のように言わないでいただきたい」

義兄が部屋に入って来た。

「より良い王になるために
学びの場を与えてさしあげているのです」

って。
きっとこの部屋の誰も信じてないよな。

義兄は俺の前に立ち、
シンク氏にまず挨拶をした。

その後、シェフのリンクさんに挨拶をして
ルシリアンとクリムにも挨拶をする。

どう見てもカッコいい、
素晴らしい笑顔でにこやかに挨拶をしていたが、
先ほどのティスとの会話を聞くと
爽やか笑顔が胡散臭く思えてくる。

「お腹いっぱい食べたんだね。
じゃぁ、帰ろう」

と義兄が俺に手を伸ばした。

え?とティスが義兄を見る。

「ちゃんとアキルティアと会えただろう?」

その義兄の言葉に、
ティスは絶望に満ちた顔で俺を見る。

折角会えたのに、と呟くティスが
あまりにも不憫だ。

ずっと義兄にいじめられ……いやいや、
友人と会うための時間を得るために
試練とやらを頑張ってきたのだろう。

それを「会えただろ? 終わり」では
可哀そうじゃないか。

この場合の「会いたい」は
友だちとおしゃべりして楽しみたい、
という「会いたい」の筈なのに。

それをわかってて義兄は
こういうことをする。

子どもかっ。
いじめっ子かっ。

「兄様、せっかく来たのですから
兄様もティスも、ケーキを
堪能させていただいてはどうでしょう。

もちろん、この場とケーキを
ミューラー侯爵が二人に
提供していただけるのであれば、ですが」

と俺がシンク氏を見ると、
シンク氏はもちろん、と頷き、
そばにいたリンクさんと部屋に控えていた
侍従さんに指示を出す。

すぐにスタッフルームに椅子が増やされ
大きなトレーに、所狭しと
小さなスイーツが並べられて
テーブルの上に置かれた。

どれもこれも、俺が食べたものだかりだ。

俺はつい得意になって、
義兄とティスに味を説明してしまう。

「この白いのは、レモンのムース。
お砂糖が控えめなので
兄様も食べやすと思います。

クリームに少し苦みがあったので、
レモンの皮を擦り込んでるのではないかと。

こっちのベリーのゼリーは
多分ですけど、中の果実を
下ゆでするときに、ハチミツを入れて
その後、煮詰めたような気がします」

俺、社畜だった時
スイーツとか料理の投稿動画を
見るのも好きだったんだよな。

自分では何もしないけれど、
他人が美味しそうなものを作って
食べるのを見て、自分が食べたような
気持ちになって満足していた。

よく考えたら前世の俺、
かなりやばいよな。

でもこんな食の知識を披露する機会なんて
前世では無かったから
めちゃくちゃしゃべるぜ。

しゃべってやるぜーっ。

と、思ったが。

いや、よく考えろ、俺。

あの呆然とした顔で
俺を見ているリンク氏を
このまま放置していいのか?

このスイーツを作ったシェフがいるのに
物知り顔で説明する俺、
イタいだろ?

もし間違ってたらどうすんだよ。
公爵家の俺が言ってるのに
「いや、ハチミツなん使ってません」なんて
リンクさんが言えるはずがない。

「え、っと。
僕の舌がそう思っただけなので、
リンクさんに説明してもらった方が良いですよね」

ぐはーっ。
やらかしすぎだろ、俺。
専門家を前に、何を語ってんだ。

「いえ、その、すべてその通りですので」
というリンクさんに、
さらに申し訳なくなる。

リンクさんには、否定などできないのだから。

「えと、えと」
焦る俺の頭を義兄が撫でた。

「うん、うん。美味しいものを
沢山食べれて良かったね。
じゃあ、このレモンのをいただこうか」

その言葉にすぐに控えていたスタッフが動く。

「僕もこのゼリーを貰おう。
アキのオススメだからね」

とティスも言ってくれて
なんとなくこの場は収まった。

良かった。
恥ずかシねるレベルだったよ。

義兄に感謝だ。



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