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学園に入学しました

42:初めてのおでかけ

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 キールはあの妙な手紙を義兄に渡したらしいが
それからどうなったのかはわからない。

あれから数日経ったが
何も起こらないし、義兄も何も言わない。

だから俺は、まぁ、いいか、と思った。

余計なことに首を突っ込んでも、
俺には何もできないからな。

自分ができることとできないことを
把握しておくのは大事だと思う。

ただ、あの手紙以降、
何故か視線を感じるようになった。

悪意は感じないし、
クリムとルシリアンが
いつも一緒にいて、
二人も視線に気が付いているのか
さりげなくかばってくれるので
視線の相手は特定できない。

義兄に相談しようかとも思うけれど
相談したら、とても……とてつもなく
大事おおごとになりそうな気がして
俺は口を閉ざしていた。

いや、だってさ。
良く良く考えてみると
俺って結構稀有な存在なわけだ。

あちこちで狙われていると思う。

命を、というか、身体を。

……嫌な言い方だが。

子どもを望む貴族たちは多いし、
女性の数は少ない。

そしてすべての女性が
望むままに子どもを授かるとは限らない。

そうなると、男でも子どもを
生むことができる俺は
かなり貴重だし、
欲しいと思う貴族は多い筈だ。

なのに俺はこうして
のんびり生活している。

友人にも恵まれているし、
学園には護衛のキールはいるものの
授業中は友人たちに囲まれて
キールの存在は見えない。

もしかしたら隠れて守られて
いるのかもしれないけれど、
少なくとも俺は意識をせずに
楽しく学園に通っているのだ。

そうなると、公爵家と父の力の
おかげだと言うことになるが、
ある意味学園は子どもたちだけの世界だ。

その学園でも俺は好きに
生活できているのは
義兄のおかげではないかと
俺は思うようになっていた。

義兄は、前世で俺が義兄……当時は
弟だったが、とにかく義兄をかばって
死んだことに負い目を持っているっぽい。

でももう終わったことだし、
二人とも新しい生を得たのだ。

過去に囚われて欲しくないのに
義兄はやたらと俺を守ろうとする。

なんだかなー。
そういうことを俺は望んでいるんじゃないのにな。

せっかくまた兄弟になれたのだから
守るとかそういうのではなく
もっと楽しく遊んだり、
しゃべったりしたいのだ。

それにさ。
俺はいいが、義兄は17歳。
まもなく18歳になり、
学園を卒業したら本格的に
公爵家の次期当主として動き始めるはずだ。

俺のことばかり気にしている暇は
無いと思うし、婚約者だって
見つけなければならない。

俺が学園を卒業して将来を決めるまで
婚約者を決めずにいたら、
義兄は30歳手前まで結婚できないことになる。

それはダメだ。

俺は正直、公爵家当主とか無理だと思うし、
嫁に行くつもりはないが、
将来は公爵家を出てもいいと思っている。

それをきちんと父に伝えて
義兄を後継者に指名してもらった方が
良いと思うだよな。

それを義兄に言うと
絶対に反対されると思うから
父に言うのであれば
義兄にバレないように
しないとダメだな。

義兄……好きな人とかいないんだろうか。
いや、その前に。

義兄は17歳だ。
前世弟と同じ年。

あの反抗期はどこいった?

ウザイとかそんなことしか
言わなかったあの反抗期は?

養子だから気を遣って
反抗期になれないのだろうか。

やはり俺が甘やかしてやらないと
ダメなのか?

反抗期って、親の愛情が重要だって
育児書で読んだことがあるしな。

俺は親じゃないけど
家族だし、似たようなもんだ。

よし。
甘やかそう。

「……アキルティア様」

名を呼ばれて、俺ははっと
意識を浮上させた。

「あ、ごめんなさい。
聞いてなくて」

「大丈夫ですか?
ぼーっとして……体調が悪いのでしょうか」

とルシリアンに言われて
俺は大丈夫です、と笑顔を作る。

「もし辛いようでしたら、
また今度にしてもいいのですよ」

とクリムにも言われたが、
それだけは嫌だと首を振る。

今日は学園が終わった後、
なんと!
街のカフェでケーキを
食べる予定なのだ。

凄くないか?

しかも10歳でカフェって!

普段街に出ることなんてないし、
カフェなんて初めてだし!

俺は楽しみすぎて昨夜は
寝れなかったぐらいだ。

もちろん、俺たち子どもだけでなく
護衛たちも一緒だけどな。

行く予定のカフェは、
ルシリアンの家が出資している
飲食店らしい。

しかも今日は新しいカフェを
オープンするとかで、
オープン前のメニュー披露会が
開催されるんだとか。

プレオープンというやつだよな。

そこにルシリアンが家を通して
招待してくれたのだ。

義兄も父も良い顔をしなかったが
俺が楽しみだと言い過ぎたせいか
しぶしぶ行くことを了承してくれた。

ただし護衛を付けることと、
ルシリアンたちと一緒に行動すること。

そして義兄が生徒会の仕事を終えた後、
迎えに行くのでそれまでは
待っていると言う条件付きで。

はげしく過保護な家族が
カフェに行くことを許可したのは
今日が開店前のカフェであり、
一般客がカフェに来ることは無いからだ。

プレオープンの形で
限られた者しか参加できない場だから
行くことが許されたのだと俺は思っている。

通常、高位貴族は、
その家の次期当主が生まれたら、
その子が1歳の時に、同じ家門の者たちに
お披露目をする。

その後は、5歳になると
他の家門の者たちと交流するために
子ども同士のお茶会などで
交流を図るらしい。

らしい、というのは
もちろん俺はしたことが無いからだ。

子どものお茶会という
社交の場さえ行ったことが無い俺にとって
この外出はとても意味がある。

別に婿探しや嫁探しをするつもりはないが
このまま一生涯、友達が
クリムとルシリアンだけって
わけにもいかないだろうし、
そろそろ交流の場を広げたい。

ルシリアンの家が招待している者しか
参加していない場なのだから
きっと友達を作っても大丈夫だろう。

俺は両隣を歩いてくれている二人の手を
そっと取った。

「楽しみです」

二人と手を繋いで、
絶対に行くぞ!と意思表示をすると
二人は何故か少し頬を赤くして
顔をそむけた。

何故だ?
頑張っていきたいアピールをしたのに
逆効果だったか?

子どもの感性はよくわからん。





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