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学園に入学しました
41: あやしい手紙【護衛騎士・キールSIDE】
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アキルティア様が入学して半年を過ぎた。
入学当初は紫の瞳を持つアキルティア様を見て
学生たちが騒いでいたが、今では
随分と落ち着いたと思う。
アキルティア様は毎日笑顔で過ごされているし、
ご友人たちも、さりげなく
アキルティア様を周囲から守っている。
おそらく旦那様が手を回し、
ご友人たちの家の当主に
アキルティア様のことを
頼まれたのだと思うが、
そういった背景を抜きにしても
ご友人たちはアキルティア様と
友情を深めているように見える。
明るいアキルティア様の笑顔に
私もまた、嬉しく思う。
そんな平穏な日々に、
不審な手紙が舞い込んだ。
アキルティア様の机の中に入っていたらしい。
私がアキルティア様のお傍で
お守りするのとは別に、
公爵家の影が、生徒たちが学園に
登校するまでに、毎朝、
アキルティア様の机周辺と
学園周辺に不審物がないかを
確認している。
つまり、この手紙は
学園に生徒たちが登校しはじめる時間から
アキルティア様が教室に着くまでの
時間に入れられたことになる。
そうなると、生徒の誰かが、
この手紙をアキルティア様の
机に入れたのだろう。
が。
公爵家の、紫の瞳を持つアキルティア様に
個人的に手紙を出すなど、
正気とは思えない所業だ。
公爵家のアキルティア様に対する
溺愛は貴族の間では有名だったし、
勝手に接触するだけで、
家が潰されるとまで
噂されているほどだ。
となると、そう言った事情もしらない
下位の貴族の者の仕業か、
それとも悪意のある者からの接触か。
いずれにせよ、
このまま放置するわけにはいかない。
私はアキルティア様から手紙を預かり、
ジェルロイド様の元に向かった。
もうすぐ授業が始まる。
急がなければ。
私は旦那様から学園で何かあった場合は
ジェルロイド様に指示を仰ぐように
命じられている。
旦那様はジェルロイド様の能力を
高く評価しているようで、
養子と言えど、次期公爵家の
跡取りとして申し分ないと
公言している。
そしてそのジェルロイド様は、
アキルティア様が嫁か婿を
取るのであれば、自分は当主となる
アキルティア様の補佐に回ると
常日頃から言っている。
素晴らしい人格の方だと思う。
私は最高学年の教室に向かった。
通常私たち護衛は、
護衛対象者がいるクラスと
同じ階にある待機所で待機している。
私が最高学年のクラスまで行くと、
案の定、ジェルロイド様の護衛をしている騎士が
俺に声を掛けて来た。
「どうした?」
あまり親しくない騎士だが、
ベテランで先輩騎士だ。
たしか、ダリューンと言ったか。
「アキルティア様の机に
不審な手紙が入っていたのです」
私はちらりと手紙を見せる。
「わかった、少し待ってろ」
ダリューンはすぐに動き、
ジェルロイド様を連れてくる。
と、同時に授業の開始時間を知らせるベルが鳴った。
「こちらへ」
ジェルロイド様は俺とダリューンに
声を掛けてそのまま歩き出す。
授業を受けないつもりだろうか。
ジェルロイド様は廊下の
端にある小さな部屋に、
鍵を開けて入った。
ドアのプレートには、指導室、と書かれている。
「ここはあまり使われない場所だからね」
と部屋に入るなり、ジェルロイド様は言う。
「生徒会長になったら、
いろんな場所のカギを持ってるんだよ」
と言うが、本当は無断で
合い鍵を作ったのではないかと
一瞬、疑ってしまった。
いや、私は生徒会長になったことがないから
正しいことが何かはわからない。
本当に教員たちから
鍵をもたされている……と思うことにする。
変に疑っては、余計な火の粉が
襲い掛かるかもしれない。
「授業はよろしいのですか?」
とダリューンがもっともなことを言うが、
ジェルロイド様は
「アキのことより大事なことは何一つないよ」
とさらりと言う。
あまり仲の良い兄弟の姿は見たことがないが
やはりジェルロイド様はアキルティア様を
大切に思っているようだ。
私はジェルロイド様に手紙を渡した。
簡易だが、魔道具で危険がないことは
すでに確認をしている。
そして状況から見て、
この学園の生徒の誰かが
この手紙をアキルティア様の机に
入れたように思うと、俺は付け加えて
ジェルロイド様に伝えた。
「ふーん」
とジェルロイド様は言い、
無造作に手紙を開ける。
本来であれば、手紙はペーパーナイフで
丁寧に開けるものだが、
ジェルロイド様の手つきは荒い。
指で強引に封を開け、
中の手紙を開いた。
手紙は1枚だけだったようだ。
ジェルロイド様は手紙に目を通し、
また、「ふーん」という。
「ジェルロイド様、いかがいたしましょう」
ダリューンがジェルロイド様を伺うように言う。
「そうだな。どうしようか。
この手紙の主はアキに
恋い焦がれているらしいけど、
勝手に懸想されても困るんだよね。
アキの相手は私の試練に
打ち勝ったヤツって決めてるんだし」
私は耳を疑った。
なんだ?
空耳か?
私はジェルロイド様を見つめてしまった。
「アキに思いを伝えようなんて
思いあがらないように、
潰しておこうか。
アキが入学してから
アキに懸想するやつらを
随分と粛清したのに、
まだ残ってたんだね。
この分だと、僕が卒業したら
どうなるのか、不安だな。
アキの友人たちを仕込むのが早いか、
殿下が育つのが早いか。
でもあの殿下がアキの相手になるのは
癪に障るし……。
まぁ、殿下が俺の試練を乗り越えても
アキが殿下を好きにならなければ
伴侶になんかなれないんだけどな」
ジェルロイド様はぶつぶつと
呟いている。
が。
おかしい。
ジェルロイド様は素晴らしい人格の方……のはず。
戸惑う私にダリューンが
そっと耳打ちした。
「ジェルロイド様はこれが通常運転だ。
アキルティア様が関わると、
公爵家の人間は、すべてこうなる」
……なるほど。
やはり私は命に代えても
アキルティア様をお守りしよう。
かすり傷一つ付けないように。
でなければ、
私も粛清されてしまうかもしれない……。
入学当初は紫の瞳を持つアキルティア様を見て
学生たちが騒いでいたが、今では
随分と落ち着いたと思う。
アキルティア様は毎日笑顔で過ごされているし、
ご友人たちも、さりげなく
アキルティア様を周囲から守っている。
おそらく旦那様が手を回し、
ご友人たちの家の当主に
アキルティア様のことを
頼まれたのだと思うが、
そういった背景を抜きにしても
ご友人たちはアキルティア様と
友情を深めているように見える。
明るいアキルティア様の笑顔に
私もまた、嬉しく思う。
そんな平穏な日々に、
不審な手紙が舞い込んだ。
アキルティア様の机の中に入っていたらしい。
私がアキルティア様のお傍で
お守りするのとは別に、
公爵家の影が、生徒たちが学園に
登校するまでに、毎朝、
アキルティア様の机周辺と
学園周辺に不審物がないかを
確認している。
つまり、この手紙は
学園に生徒たちが登校しはじめる時間から
アキルティア様が教室に着くまでの
時間に入れられたことになる。
そうなると、生徒の誰かが、
この手紙をアキルティア様の
机に入れたのだろう。
が。
公爵家の、紫の瞳を持つアキルティア様に
個人的に手紙を出すなど、
正気とは思えない所業だ。
公爵家のアキルティア様に対する
溺愛は貴族の間では有名だったし、
勝手に接触するだけで、
家が潰されるとまで
噂されているほどだ。
となると、そう言った事情もしらない
下位の貴族の者の仕業か、
それとも悪意のある者からの接触か。
いずれにせよ、
このまま放置するわけにはいかない。
私はアキルティア様から手紙を預かり、
ジェルロイド様の元に向かった。
もうすぐ授業が始まる。
急がなければ。
私は旦那様から学園で何かあった場合は
ジェルロイド様に指示を仰ぐように
命じられている。
旦那様はジェルロイド様の能力を
高く評価しているようで、
養子と言えど、次期公爵家の
跡取りとして申し分ないと
公言している。
そしてそのジェルロイド様は、
アキルティア様が嫁か婿を
取るのであれば、自分は当主となる
アキルティア様の補佐に回ると
常日頃から言っている。
素晴らしい人格の方だと思う。
私は最高学年の教室に向かった。
通常私たち護衛は、
護衛対象者がいるクラスと
同じ階にある待機所で待機している。
私が最高学年のクラスまで行くと、
案の定、ジェルロイド様の護衛をしている騎士が
俺に声を掛けて来た。
「どうした?」
あまり親しくない騎士だが、
ベテランで先輩騎士だ。
たしか、ダリューンと言ったか。
「アキルティア様の机に
不審な手紙が入っていたのです」
私はちらりと手紙を見せる。
「わかった、少し待ってろ」
ダリューンはすぐに動き、
ジェルロイド様を連れてくる。
と、同時に授業の開始時間を知らせるベルが鳴った。
「こちらへ」
ジェルロイド様は俺とダリューンに
声を掛けてそのまま歩き出す。
授業を受けないつもりだろうか。
ジェルロイド様は廊下の
端にある小さな部屋に、
鍵を開けて入った。
ドアのプレートには、指導室、と書かれている。
「ここはあまり使われない場所だからね」
と部屋に入るなり、ジェルロイド様は言う。
「生徒会長になったら、
いろんな場所のカギを持ってるんだよ」
と言うが、本当は無断で
合い鍵を作ったのではないかと
一瞬、疑ってしまった。
いや、私は生徒会長になったことがないから
正しいことが何かはわからない。
本当に教員たちから
鍵をもたされている……と思うことにする。
変に疑っては、余計な火の粉が
襲い掛かるかもしれない。
「授業はよろしいのですか?」
とダリューンがもっともなことを言うが、
ジェルロイド様は
「アキのことより大事なことは何一つないよ」
とさらりと言う。
あまり仲の良い兄弟の姿は見たことがないが
やはりジェルロイド様はアキルティア様を
大切に思っているようだ。
私はジェルロイド様に手紙を渡した。
簡易だが、魔道具で危険がないことは
すでに確認をしている。
そして状況から見て、
この学園の生徒の誰かが
この手紙をアキルティア様の机に
入れたように思うと、俺は付け加えて
ジェルロイド様に伝えた。
「ふーん」
とジェルロイド様は言い、
無造作に手紙を開ける。
本来であれば、手紙はペーパーナイフで
丁寧に開けるものだが、
ジェルロイド様の手つきは荒い。
指で強引に封を開け、
中の手紙を開いた。
手紙は1枚だけだったようだ。
ジェルロイド様は手紙に目を通し、
また、「ふーん」という。
「ジェルロイド様、いかがいたしましょう」
ダリューンがジェルロイド様を伺うように言う。
「そうだな。どうしようか。
この手紙の主はアキに
恋い焦がれているらしいけど、
勝手に懸想されても困るんだよね。
アキの相手は私の試練に
打ち勝ったヤツって決めてるんだし」
私は耳を疑った。
なんだ?
空耳か?
私はジェルロイド様を見つめてしまった。
「アキに思いを伝えようなんて
思いあがらないように、
潰しておこうか。
アキが入学してから
アキに懸想するやつらを
随分と粛清したのに、
まだ残ってたんだね。
この分だと、僕が卒業したら
どうなるのか、不安だな。
アキの友人たちを仕込むのが早いか、
殿下が育つのが早いか。
でもあの殿下がアキの相手になるのは
癪に障るし……。
まぁ、殿下が俺の試練を乗り越えても
アキが殿下を好きにならなければ
伴侶になんかなれないんだけどな」
ジェルロイド様はぶつぶつと
呟いている。
が。
おかしい。
ジェルロイド様は素晴らしい人格の方……のはず。
戸惑う私にダリューンが
そっと耳打ちした。
「ジェルロイド様はこれが通常運転だ。
アキルティア様が関わると、
公爵家の人間は、すべてこうなる」
……なるほど。
やはり私は命に代えても
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かすり傷一つ付けないように。
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