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タウンハウスに引っ越しました

24:俺の護衛対象【護衛騎士・キールSIDE】

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 俺の名前は、キール・ロックハーク。
公爵家とは曾祖父の代から
仲良くさせていただいている
伯爵家の次男だ。

正直、家の格も違うので
俺は恐縮してしまうのだが
曾祖父が学園で仲良かったとかで
代替わりをした今でも当主同士は
ありがたいことに仲良くさせていただいている。

俺は公爵様とは直接話をしたことは
数えるほどしか無いが、
俺が近衛騎士になったことも
もしかしたら父から
聞いていたのかもしれない。

俺は次男で継ぐ家もなく、
もちろん、爵位もない。

だから騎士として頑張るしかないと
学園に通っていた時から
剣の稽古だけは頑張って来た。

その甲斐があり、学園を卒業と同時に
俺は騎士団に入団し、
とうとう近衛騎士に抜擢された。

王族の方たちをお守りするための
とても重要な役割だ。

18歳で学園を卒業し、
近衛騎士になったのは22歳の頃。

異例の出世だった。

だが俺は近衛騎士になり
違和感ばかり感じていた。

何故なら、近衛騎士とはある意味、
王族の方々のそばに侍る『花』の
役割も強い。

つまり、顔の美醜で選ばれた者もいるのだ。

俺たちのような実力枠ではなく、
美醜枠とでも言えばいいのか。

剣を持って戦うことよりも、
王族の方々のそばで
美しく侍ることを重要視する者たちが
近衛騎士の中にはいるのだ。

俺はそのことに対して、
言いようのない違和感を、
いや、嫌悪感を感じていた。

今、この国が平和だからこそ
そのようなことができるのかもしれない。

だが俺は誰よりも剣に対して真剣だったし
訓練も人一倍頑張ったという自負はある。

その俺が、素振りもまともにできないヤツと
同じ近衛騎士として王族の方を守る。

それでいいのだろうか。

正直、そんなやつらは有事の際は
足手纏いにしかならないし
むしろ、邪魔だ。

そいつらと一緒にいるだけで
イライラしてしまう。

俺は正直、近衛騎士を
辞めようかと悩んでいた。

騎士ということに俺は誇りを持っている。

だが、同じ近衛騎士に、
その誇りすらない者がいることに
俺は苛立っていたのだ。

王族の方をお護りすることに
疑問を感じているのではない。

だが、信頼できないものを仲間として
共に戦うことができるかどうか
俺にはわからなかった。

俺は、俺の人生を懸けて
忠誠を誓えると思ったお方を護りたい。

贅沢な願いだというのはわかっている。

近衛騎士と言っても
しょせんは、王宮に勤めるただの騎士だ。

忠誠は王にあり、剣は王に捧げる。

他の近衛騎士のように、
形だけの忠誠を誓い、
禄を得るために剣を持つ。

それでいい。
それでいい筈なのに、
俺の心がそれを否定する。

そんな時だ。
公爵様にお声を掛けていただいたのだ。

「近衛騎士、辞めるのかい?」と。
物凄く気安く、王宮の食堂で。

俺は度肝を抜かれた。

顔には俺の不満など出さないようにしていたし
同じ近衛騎士たちの前では
笑顔を絶やさず、無難な人間関係を
築いていたはずだったからだ。

しかも公爵様から個人的に
お声を掛けていただくなど、
ありえないことだ。

なのに公爵様は食堂で
俺の前に座り「辞表を出すなら私の所においで」
と言ってくださった。

意味が分からない。

公爵様はおそらく
俺に会うためだけに食堂に
来られたのだと思う。

何故なら公爵様は
食事のトレーどころか
水を入れたカップの1つも
持っていなかったのだから。

俺は公爵様が俺に目をかけてくれたことに
心の中で歓喜した。

もしかしたら俺の剣の腕を
公爵様は見ててくれたのかもしれない。

近衛を辞めるのなら、
もしかしたら次の仕事の斡旋を
してくれるのかもしれない。

俺はそんなことを考えた。

このことが、俺の中で
近衛騎士としての区切りになった。

モヤモヤし続けている状態で
このまま近衛騎士を続けても、
何かあった時に王族の方々を
護りきる自信がない。

だから俺は辞表を書いて
公爵様の執務室を訪ねた。

公爵様は、宰相様と陛下の
相談役として執務室を持っている。

いわゆる文官や騎士団、そして王族。
王宮に関係するすべての部署や
人間の調整役のようなものだ。

俺が辞表を持って行くと、
公爵様は「待ってたよ」と言い、
俺の辞表を受け取ると代わりに
一枚の契約書を俺に見せた。

「近衛騎士を辞めるのなら
公爵家で働いてみないかい?」

俺は驚いた。
仕事の斡旋を期待していたが、
まさか公爵家とは思わなかった。

だが、嬉しい。
俺の剣の腕は。
騎士としての態度は
公爵家を守るに値するものだと
思っていただいたということだ。

契約書を読んだが、
ありえないぐらい待遇が良かったし、
うぬぼれだろうが、
もしかして公爵様は最初から
俺を公爵家に引き抜きたくて
ずっと俺を見ていてくれたのではないかと
思ってしまったぐらいだ。

ただ、契約書の最後の一文だけが気になった。

『何があっても、息子を守ること。
命を賭けて守る覚悟を持つことができる場合のみ、
契約を可能とする』

俺が顔を上げると、
「私の可愛い息子を守って欲しいんだよ」と
にこやかに言われた。

俺は「謹んでお受けいたします」と
騎士としての礼をした。


その数日後だ。
公爵家に俺が出向いたのは。

その時会ったのが、アキ様だ。

アキルティア様。

可愛らしいお方で10歳になる。
今年学園に入学するために公爵様は
俺を護衛騎士として雇ってくださったらしい。

まぁ、俺なら学園に通ったこともあるし
今でも時間が空いたときは
後輩に剣を教えに行くこともある。

学園では寮に入っていたから
身の回りのことは自分でもできるし、
その辺の侍従を連れて歩くよりは
俺の方がよっぽど頼りになるはずだ。

と、内心、そんなことを思いつつ
俺はアキルティア様を観察する。

あの契約書の一文の意味は、
アキルティア様を一目見てわかった。

この方はだったのかと。

これから成長していく中で
多くの貴族たちがアキルティア様を狙うだろう。

それは物理的に狙う者もいれば
心理的に追い詰めたり、手に入れようと
する者もいるかもしれない。

公爵様はそれらすべてから
アキルティア様を守るように
俺に命じたのだ。

これは、思っていた以上に
大変なことかもしれない。

そう覚悟する俺の前で、
アキルティア様は公爵様を
大人びた口調で𠮟りつけていた。

10歳の子どもが。

自分の父親に、
権力を使って人の人生を変えることは罪だと、
そうはっきり言ったのだ。

俺の人生を歪めて良いハズが無いと。

俺は望んで近衛騎士を辞めたし、
あのまま務めていてもいつか、
理想と現実のはざまで潰れていたと思う。

公爵家には望んでやってきた。

なのに。
アキルティア様は俺のために
公爵様を叱ったのだ。

俺の人生を、守ろうとしてくれた。
こんな方は初めてだった。

騎士になり、高位貴族や
それこそ、王族の方々をそばで
見る機会が多々あった。

だが、ほとんどの高位貴族は
仕える人間の人生のことまで考え
配慮などすることはない。

たとえば俺が命を賭けて主を守っても
それは仕事だからだ。

俺が国王陛下を守り、
傷を負ったとしても
それなりに褒美は出るかもしれないが
それだけだろう。

傷を負った俺の人生の責任まで
取ろうとしてくれる主はいない。

騎士とはそういうものだと、
俺も、同僚たちも思っている。

俺はまだ貴族だったからそこまでではないが
平民たちで構成されている騎士団は
「使い捨て」という暗黙の認識だってある。

有事の際に、率先して命を捨てる場所に配属される。
だが、有事があるまでは、
剣の腕を磨き、訓練していれば
衣食住は保証される。

そう認識されているからこそ、
貧しく食べることに困った平民たちは
こぞって騎士になりたがるのだ。

だからこそ、俺は、いや俺も。
伯爵家とは言え、しょせんは次男だ。

当主となる兄のスペアであり、
「使い捨て」だと心のどこかで思っていた。

そんな俺を、一人の人間として扱い、
俺の人生を守ろうとしてくれる。

こんな方が存在するなんて。

たった10歳なのに、
なんて優しく思慮深い方なのか。

必ず、お護りしよう。
たとえこの命に代えても。

俺の人生を守ろうとしてくださったこの方を、
俺が人生を懸けてお護りするのだ。

「誠心誠意、命を賭してお守り致します」

この言葉は、まぎれもない
俺の心の底から湧き出た言葉だった。


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