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愛される世界?

6:兄が来た

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3歳になり、兄が出来た。

時系列的におかしいが、
俺よりも年上の子どもが
公爵家に引き取られることになったのだ。

一応俺が公爵家の跡取りになるが
紫の瞳なので、もしかしたら
どこかに嫁に行くかもしれない。

そう言った懸念から父は
親戚から優秀な子どもを息子として
引き取ることにしたらしい。

メイドたちの噂を聞く限り
その息子は、公爵家の分家の次男で
幼いころから勉強もできるし
剣もかなりの腕前で
このままだと長男を押しのけて
分家の跡取りになるかも、と
言われていたような子どもだったらしい。

このままではお家騒動になると言う噂を
俺の父が聞き、一応、面接をした上で
引き取ることを決めたようだ。

ようだ、というのは、
面接云々を父から聞いたからだ。

「アキを絶対に守る。
大事にする。って約束したから
アキの兄さんにすることを決めたんだよ」と。

そんな基準でよければ
誰だって、大事にする、と言うと思う。
面接なんてそんなものだし。

なんて思ったが、もちろん、言わない。

それにしても、兄か。
俺に兄ができるとは、感慨深い。

お兄ちゃん、とかいって
俺も甘えてみるか?

お兄ちゃん?

くすぐったくて笑える。

兄だった自分が弟になるなんて。

思わず笑うと、父は「そうかそうか、嬉しいか」
と勘違いして笑う。

そうやって兄がやってくるのを待つ日々を過ごし、
とうとう、その日がやってきた。

俺は3歳になったのに、
いまだに抱っこばかりされているため、
お出迎えのために玄関に出た際も
父に抱っこされていた。

長距離を歩くのは大変なので
ラクチンだし助かってはいる。

ただし、初めて義理の兄と対面するのに
抱っこって、どうかと思う。

俺はきちんと服も着替えさせてもらったし、
挨拶の言葉だって考えた。

第一印象は大事だからな。

今着ている服だって、
俺が沢山持っている服の中から
一番良さそうなのを俺が選んだのだ。

ナニーが「どれを着ましょうか」と
悩んでいるので、俺が頑張って
「僕が選ぶ!」と主張して選ばせてもらった。

どれが余所行きの服で、どれが普段着なのか
さっぱりわからなかったけれど、
俺なりに小綺麗そうな服に目を付けたのだ。

俺の出会う気満々の様子を父が見て
父は嬉しそうの俺を抱っこした。

わかんないかなぁ、父は。

恰好つけたいんだよ、たとえ3歳児でも。
一番大人に近づいた姿を見せたいんだよ。

だが、父の顔を見ると
そういう主張ができるはずも無く
俺は父に抱っこされて玄関に着いた。

玄関には父と俺と執事と数名のメイドがいる。
母は応接室で待っている。

俺も応接室で母と一緒にいても良かったのだが
父が「兄に一番早く会わせてやろう」と
嬉しそうに言うので拒絶はできない。

しかし抱っことは!

初めて会う兄に見られたら恥ずかしいから
抱っこは嫌だと俺が訴えると、
父は「そんなに父様の抱っこが嫌なの?
アキは父様が嫌い?」
なんて話になってくる。

仕方なく「父様、大好き」と
言うと「父様もだよー」と頬ずりされる。

もしかして父よ、
大好き、を言わせたくてこんなことしてないか?

「父様、大好き。だからおろして」

「ダメだよ、こんなにアキは可愛いのに」

話がちっとも進まない。
それに文脈が変だ。

おろしてくれ、可愛いからダメだ。
と何度も言い合いをしているうちに、
玄関前に馬車が停まり、
小さな男の子が降りて来た。

そのことに気が付いたのは、
父から頬ずりをされ、顔中に
可愛い、可愛いとキスされまくっていた時だった。

なんてこった。
折角の初対面の挨拶が台無しだ!

「これからお世話になります
ジェルロイドです。
よろしくお願いします」

と馬車から下りてきた子は
俺と父の様子を見ていた筈なのに
何もなかったように頭を下げる。

思ったよりも小さい子だと
感じたけれど、それは俺の前世の感覚であって
当たり前だが3歳児の俺よりもずっと年上だ。

父と同じ金色の髪に青い澄んだ瞳をしている。
なるほど、父の親戚と言うのはすぐにわかる。

分家だと聞いていたけれど、
父の家系は金色の髪に青い瞳を持つ者が
多いのかもしれない。

「ああ、待っていたよ。
この子は息子のアキルティアだ。
仲良くしてやってくれ」

「もちろんです」

ジェルロイドは笑顔を見せる。
うん。なかなかの好少年だ。

12歳ぐらいだろうか。
小学生というよりは中学生ぐらいかな?

「さぁ、中に入ろう。
妻も君を待っているよ」

と父が促して歩き出す。

抱っこされている俺も
もちろん、一緒に進んだのだが……

「兄貴」と呟く声が聞こえたのは
気のせいだろうか。

俺は咄嗟にジェルロイドを見ようとしたが
父の身体が大きくて見えない。

まさかな。

ジェルロイドが俺を兄貴、なんて
言うはずがない。

もし本当にジェルロイドの兄がいたとしても
貴族子息であれば、兄さん、とか兄さまとか。

とにかく兄貴とは言わないだろう。

一瞬、前世の弟を思い出したが、
弟がここにいるはずもない。

だから俺は気のせいだと思い直し、
父の胸に顔を押し付けた。

下ろしてくれとは思っていたが、
応接室まで歩くとなると
やはり疲れるので
抱っこ移動は助かる。

俺はラクチン、らくちん、と思っていたから
気が付かなかった。

俺の父の後ろで、ジェルロイドが
その瞳を懐かしそうに、そして
苦しそうに目を潤ませていたことに。

こうして俺と義兄とのファーストコンタクトは
ぐだぐだのまま終了した。




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