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愛があるれる世界

349:最強の神獣

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 私とパパ先生は、
パパ先生の家のキッチンに戻り、
その日はのんびり過ごすことにした。

パパ先生が疲れた顔をしていたので
私が提案したのだ。

とはいえ、私は暇だ。

パパ先生は少しだけ、と
ソファーで寝転がってしまったし
私はずっとのんびり過ごしていたので
正直、元気はありあまっている。

かといって、一人で宮殿に
行くのも憚られる。

悩んで私は家の外に出た。

何もない森の中だったけれど、
この隣にマイクの家と
ディランの家を建てるんだった、と思い出す。

先にマイクの家だけ建ててみようかな。
マイクはどんな家でもいいって
言ってたものね。

ディランはこだわりがありそうだったけど。

そんなことを考えていたら
頭上から大きな羽ばたきが聞こえた。

思わず見上げると、
なんと、大きな羽を広げた獅子の
聖獣がこちらに向かって降りてくる。

レオだ。

「レオ!」

私が手を上げると、
レオはすぐそばに降りてきてくれた。

私はその首に縋り付く。

「どうしたの?
女神ちゃんがなんか言ってた?」

ブラウンやホワイトはともかく、
レオは女神ちゃんの尻拭いばかり
させられている。

『いや。
だが小さな二匹の聖獣を呼んだであろう?
だから……』

「来てくれたの?」

私がブラウンとホワイトと一緒にいたから?
何か手助けが必要かと思って?

なんていい子なんだろう。

私はぎゅーっとレオにしがみつく。

「悠子ちゃん?」

パパ先生の声がして振り返ると、
静かな森で話をしていたからか、
パパ先生が目を覚まして
家の扉に立っていた。

パパ先生の目が、大きく見開かれ……
キラキラしていた。

驚いた、とかではなく、
期待と興奮で。

「ぱ、パパ先生?」

「すごい!
なんて凄いんだ!」

パパ先生は大興奮と言った様子で
レオのそばまで駆けてくる。

「僕はずっと、大きなわんちゃんを
ぎゅーっとしたり、
その大きな背に乗せて貰ったり、
暖かいお腹を枕にして
眠りたいって思ってたんだ!」

レオが、一歩だけ後ずさった。

パパ先生の興奮した姿に驚いたのか、
ドン引きしてしまったのかはわからない。

そう言う私も、
パパ先生の変わりように
若干、引いていた。

だってレオはどうみても
鬣がある獅子だし、
わんちゃんには見えないよ?

私はパパ先生を宥めつつ、
レオに家に入ってもらうことにした。

扉は少し狭そうだったけれど、
何とか部屋に入ることができた。

レオはリビングの床に敷いている
ラグの上に座ってもらう。

改めて私はレオを紹介し、
レオにもパパ先生を紹介した。

パパ先生は「あの女神の使徒か、可哀そうに」
と呟いたけれど、
レオはたぶん、聞こえなかったふりをした。
だって私も聞こえなかったことにしたもの。

それから一応パパ先生は
レオに触っていいかの許可を得てから
嬉しそうにレオに触れ、
その後は意気揚々とブラッシングを始めた。

いいのだろうか、と思いつつ
私はレオにこれまでの話をする。

『なるほど。
では二つの国がもうじき交わるというのだな』

「そうなの。
これでこの世界の崩壊は止まったし、
獣人の国の問題も終わったし。
私がこの世界に来た理由は無くなったかな」

肩の荷が下りたような気がする。
もっとも、最近の私は何もしてないけれど。

そう言うとレオはべろん、と私の頬を舐めた。

『愛し子よ。
そなたには感謝している。
このままずっと、この世界を支えて欲しい』

「うん。大丈夫。
元の世界には戻らないって決めてるの」

私がそう言うと、レオは優しく頷いた。。

「そうだ、レオ。
私と一緒に宮殿に行ってもらってもいい?
マイクとディランに返ってきたことを伝えたいの」

『それはいいが……』

ちらり、とレオはパパ先生を見る。

パパ先生はブラッシングを終えた後、
レオの毛並みを頬ずりしている。

こんなパパ先生を見るのは初めてだ。
こんなに動物が好きだったなんて知らなかった。

「パパ先生、マイクたちの顔を見たら
すぐに戻ってくるから、
ちょっと待ってて」

私がそう言うと、パパ先生は
「一人で行くのかい?」と言う。

「うん。レオに連れてってもらうから」

と言った途端、パパ先生の瞳が
期待に満ちて輝いたけれど、
「パパ先生は今度ね」と牽制する。

パパ先生も絶対にレオの背に
乗りたいって思ってるよね。

「レオもパパ先生を背中に乗せてあげてくれる?」

わざとパパ先生の前で聞くと、
レオは少し考えた様子で
パパ先生の持っていたブラシに視線を向けた。

『またそれをしてくれるなら、いいだろう』

「よろこんで!」

パパ先生は間髪入れずに言う。

どうやらレオもブラッシングは
心地よかったみたいだ。

私はレオの背に乗せてもらい、
宮殿に向かった。

そして、気が付いたのだ。
この世界の人たちにとって
神獣というのは、稀有な存在で
とてもありがたい……拝みたくなるような
存在だということを。

レオに乗って私は街の近くまでは
空を飛び、人がいるところでは
歩いたりしたのだが。

飛んでいる姿を見た人たちは
こぞって空を見上げ指さした。

道を歩くと、すべての人が
道を譲るかのように後ずさる。

そして全員が、道や地面に跪き、
祈り、拝む。

レオもさすがに居心地が悪そうだ。

何とか宮殿まで来ると、
門番の人が大慌てて誰かを呼びに
城の中に入っていき、
私の顔を知っていた別の門番は
とにかく中へ、と宮殿の庭に続く道に
案内してくれた。

まぁ、レオがいきなり宮殿の中に入ったら
ビックリしてしまうだろうし、
庭が妥当なのかもしれない。

レオの背に乗ったまま
庭に行くと、すぐに騒ぐ声が聞こえた。

「ユウ!」

「ユウさま!」

ディランとマイクだ。

私はレオの背から下りる。

「お戻りをお待ちしておりました」

マイクは私のすぐそばまで止まると
恭しく頭を下げる。

ディランと言えば、レオの姿に
驚いたようで、呆然と立っていた。

「以前、ユウさまを攫った聖獣様ですね。
今回はどのようなご用件でしょうか」

いやいや。
マイクの辛らつな言葉に
私は思わずレオの首に腕を回す。

敵意はないよ、という合図だ。

「レオは私を心配してきてくれたんだよ。
もう私をどこかに連れて行くこともないし、
逆にここまで連れて来てもらったの」

そう言うと、マイクは
「そうでしたか。失礼したしました」と
頭を下げたけれど、
全然、心がこもった感じではなかった。

「ユウ、えっと。神獣様?
本当に?
おとぎ話ではなく?
本物なのか?」

ディランが戸惑うように言い、
レオが、ふん、と鼻息を吐き出すと、
ディランは驚いたのか
ぴょん、と後ろに一歩下がった。

ちょっと可愛い。

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