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愛があるれる世界

345:忠誠を誓う者

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 結論から言うと、
『大聖樹の宮』の部屋に繋がった扉は
食器棚だった。

何故だ。

食器棚から出て来たパパ先生は
さすがに目を丸くしている。

「すごいね。
棚の厚みとか、幅とか。
そういうのは全くの無視なんだ」

パパ先生は何度も食器棚を振り返る。

私は『力』を込めて、鍵を掛けた。

鍵はパパ先生と私だけ持っている。

そのイメージで私はパパ先生の右手に
イメージした鍵を握らせた。

手のひらが熱くなる。

「パパ先生、扉を開けてみて?」

一旦、食器棚の扉を閉めたけれど
パパ先生にもう一度開けて貰った。

右手で。

するとすぐに扉は開き、
目の前には暗闇が広がっている。

もう一度締めて、今度は左の手で
扉を開けてもらうと、
そこはただの食器棚だった。

うん。
イメージ通り。

出来栄えに満足していると
パパ先生は何度も扉を片手で開けたり
両手で開けたりと、楽しそうに試している。

部屋には誰もいなかったのだけれど
あまりにも扉を開け閉めしていたからか
その音を聞きつけたのだろう。

部屋の扉がノックされる。

「誰かいるのか?」

と言ったのは、警護の騎士ではなく
なんと、エルヴィンだった。

「ユウ!」

「エルヴィン」

私が声を挙げるとエルヴィンは
走ってきて私に抱きついた。

「ユウ、戻って来たんだ。
良かったーっ。

体調は?
怪我とかない?」

「ないよ、ありがとう」

「悠ちゃん、彼は?」

私とエルヴィンがはしゃいでいると
パパ先生から紹介して、と催促が来た。

「パパ先生、彼はエルヴィン。
金聖騎士団の一員なの」

パパ先生はエルヴィンにこんにちは、と
笑顔で挨拶をした。

「エルヴィン、私のパパよ」

ちょっとだけ胸を張って言うと、
ええぇーっ!と
大きな声は部屋中に響いた。

その声があまりにも大きすぎて
すぐにケインが駆けつけ、
私とパパ先生の姿を見ると
そのまま部屋の外にいた警護騎士に
他のメンバーを呼んでくるように
指示を出す。

ケインが私とパパ先生をソファーに座らせ
エルヴィンがお茶を淹れてくれた。

お茶を飲んでいるとすぐに
ヴァレリアン、カーティス。
そしてスタンリーが駆けつけ、
最後にバーナードがやって来た。

バーナードは騎士服ではなく
タキシードっぽい服を着ていたから
もしかして今日が結婚式だった!?

と焦ったけれど、
どうやら結婚式の衣装の
最後の修正をしていたらしい。

そんな中、駆けつけてくれたなんて
申しわけないけれど、嬉しい。

私はあらためてパパ先生に
皆の紹介をした。

パパ先生は、にこにこと私の話を聞き、
「僕の大事な子を守ってくれてありがとう」と
頭を下げた。

大事な子だって。
嬉しい!

「パパ先生、大好き」ってしがみつくと
パパ先生は優しく私の髪を撫でてくれる。

そんな私とパパ先生の様子を見て
少し警戒をしていたような
みんなの空気がゆるんだ。

だけど問題はここからだ。

私がパパ先生を連れてきた理由と
隣国の話。

話したいことは沢山あるのだ。

私とパパ先生が座ったソファーの周りに
皆が集まった。

私たちの前のソファーには
ヴァレリアンとカーティスが座る。

左右の一人用のソファーには
スタンリーとバーナードが。

ケインとエルヴィンは私たちの
近くにはいるが、ケインはドア寄りに。
エルヴィンは窓寄りに立つ。

非常時にすぐに動けるように
こういった時はヒヨコの二人が
窓や扉の近くで警備するのだと
以前、スタンリーが言っていたので
そういうことなのだろう。

パパ先生と皆は改めて自己紹介をした。

けれど、誰も家名を名乗らなかった。

第三王子のカーティスでさえも。

パパ先生は恥ずかしそうに
「賢者です」って名乗って、
ちょっと面白かった。

ヴァレリアンたちはその名に
驚いたたようだったけれど
私が慌てて、パパ先生は
私と同じ世界から私を助けるために
来てくれた存在だということ。

そしてまだこの世界の住人ではなく、
元の世界の人間で、
本当にこの世界で生きていくことが
決まったら、名前を付けること。

この世界の名前が決まることで
この世界に存在が組み込まれることを
説明した。

「パパ先生は私のために
この世界に来てくれたのよ」

そう言うと、ヴァレリアンたちは
納得したように頷いた。

説明が終わると、
ヴァレリアンがパパ先生をじっと見た。

「では、賢者殿。
この場所と俺たちの役目を伝えておこう」

ゆっくりとヴァレリアンが説明する。

「ここは『大聖樹の宮』の最奥。
女神の愛し子を守るために作られた部屋だ。

そしてこの宮は、神殿からも王家からも
独立している」

「独立?」

パパ先生が首を傾げる。

「あぁ。
女神の愛し子の力を王家が欲しがり、
神殿が欲しがり、大変な状況だったんだ。
だから、ここを治外法権の場にした」

ヴァレリアンは簡単に言うけれど
それを王様に認めさせたんだから
凄いと思う。

「そしてこの金聖騎士団は、
女神の愛し子。
つまりユウを主としている。

一応はこの国の民として
王家に従いはするが、
俺たちに命令できるのは女神の愛し子のみ。
忠誠を誓うのは、ユウだけだ」

ヴァレリアンはそう言い切る。

「そう。だから家名を名乗らなかったんだね」

パパ先生はそう言って目を細めた。

「あぁ。
この場では、俺たちは身分も地位も
全て関係なく女神の愛し子に
忠誠を誓う者だからな」

「だって。
良かったね、悠ちゃん」

パパ先生は笑った。

「とても愛されてるね」

そう言われて頬が赤くなる。

「みんなね、とっても優しいし、
大切にしてくれるのよ」

早口で言うと、
ヴァレリアンたちの口元が
嬉しそうに緩んだ。

「賢者殿。
あなたの身柄の安全は
我々が保証しよう。

愛し子の父ともなれば
多くの者が注目し、画策するかもしれない。
だがそれが王家であったとしても
手出しは無用と、通達しよう」

「それは助かるけど、
そんなことして大丈夫かい?」

「あぁ、問題ない。
こんなんでも、隣にいるこいつは
王子様だからな」

ヴァレリアンがカーティスを顎で指す。

「そういうコレも、
王弟の息子だけどね」

と、カーティスも負けじと言った。

そんな二人を見てパパ先生は
「二人とも仲良しだね」とまた笑う。

その邪気のない声に、
二人は気まずそうな顔をした。

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