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愛があるれる世界

338:嫉妬

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 私はベットのそばで体を下してもらい、
そのままマイクに着替えを手伝ってもらって
寝間着を着た。

ディランは不機嫌そうに
そんな私を黙って見ている。

着替えが終わると
マイクは私を近くのソファーに座らせ、
すぐに冷たい水を出してくれる。

水を飲んでいると
マイクは失礼します、と
私の背後に回ってタオルで
私の髪を拭きはじめた。

少し前までは
こうして世話を焼いてもらうことが
申しわけないとか思っていたけれど。

カーティスにずっと世話を焼かれて
旅に出てからはマイクに世話をしてもらって。

今ではすっかり慣れてしまった。

もう申し訳ない、は思わない。
嬉しいと思う、けれど、少しまだ恥ずかしい。

私の髪をタオルで押さえるようにして
水気を拭いてくれるマイクの手を
感じながら私はディランを見た。

「ディラン、どうしたの?
自分の部屋で寝ないの?」

ディランは私のそばの床に座り込んでいる。
ちゃんとソファーがあるのに
私に懐く大型犬みたいだ。

「ユウは俺と一緒にいるより
そいつと一緒にいたいのか?」

ぶす、っとした顔で
ディランは不機嫌そうに言う。

昼間はプロポーズしてくれたり、
嬉しい言葉を沢山聞かせてくれたのに、
何が気に入らなかったのか。

私が首を傾げると
「だって」とディランが唇を尖らせた。

「そいつの家を建てるのに、
俺の家がない」

「え? でも、ディランには
ちゃんとこの国に家……宮殿に
自分の部屋も、家族もいるでしょ?」

「俺もユウと一緒に住みたい!」

がう、っと牙をむき出しにして
ディランが子供のように言う。

「愛玩動物が構ってもらえず
拗ねているようですね」

マイクが小さく言う。

拗ねてる。
そうなのか。

施設の弟妹たちが、忙しい時に限って
「遊んで、遊んで」と
私にまとわりついていた
あの状態と同じなのか。

さて、どうするか。

施設の弟妹達は
一緒に遊べば気が済んだけれど、
ディランはそうはいかないかもしれない。

どうするかと思っていると
ディランが、ずい、と私の方に
身を乗り出した。

「ユウは俺の伴侶になってくれるんだろ?」

伴侶!

新鮮な響きだ。
でも、気恥ずかしい。
いや、嬉しい、かな。

「うん」
と頷くと、ディランは
ほっとしたような顔をする。

「じゃあ、俺にも新婚生活ができる
二人だけの家が欲しい」

そう言われたら、確かに。と思った。

私はディランと結婚してもいいと思ったけれど
この宮殿で、王子様の『嫁』をするつもりはない。

それはディランも理解していると思うし、
きっと誰もディランに王子様と言う役目を
担わせようとは思っていない……と思う。

だから私はディランと結婚しても
宮殿に住むつもりは正直、全くない。

そうなると、私がこの国にいる間は
パパ先生の家か、新しく創るマイクの家に
寝泊まりすることになるだろう。

うん。
それは、ディランは嫌がるかも。

仲間外れにするつもりはなかったけれど、
改めて考えると酷い扱いのように思えて来た。

「じゃあ、パパ先生の家が真ん中で
左右にディランの家とマイクの家を創る。

それでいい?」

そういうと、ディランは弾けたような笑顔を見せた。

「それでいい!
ちゃんと俺の家にも泊まるんだろ?
その日は二人っきりだよな」

嬉しかったのか、突然、ディランの頭に
可愛い三角の耳が飛び出した。

ぴくぴくと耳が動き、
その可愛さに私はディランの頭に手を伸ばす。

「そうだね。
パパ先生の家とマイクの家と、ディランの家と。
ちゃんと決めて、順番に泊まることにしようかな」

言いながらディランの頭をなでなでして
さりげなく耳をぷにぷにと触る。

可愛いし、触りごこちは抜群だ。

「俺! 大きいベットがいい。
それと、ユウと一緒に座れる大きなソファー!
あと……」

と嬉しそうに言うディランが可愛くなって
私はよしよしとディランの頭を抱き込んだ。

「どんなのがいいか、ちゃんと教えてね?
紙に書いてもいいし、
ちゃんとディランが望むお家を創ってあげる」

そういうと、ディランは嬉しそうに
私の胸にぐりぐりと頭を押し付けて来た。

「おい、あまり調子に乗って
ユウさまに迷惑をかけるんじゃないぞ」

そんなディランにマイクが冷たく言う。

「ユウさまのお力を、貴様ごときに使うなど
本来であれば恐れ多いことだ。
ありがたみを感じておけ」

「なんだよ、お前だってユウに家を創ってもらうんだろ」

「私はこの国では住む場所もないしな。
なにより、私にはユウさまの心が休まる場所を
お作りするという使命がある」

「俺だって、ユウのことを大事にする
使命があんだよ」

ディランの言葉を、マイクは鼻で笑った。

「使命だと?
貴様の使命はセイジョとやらを
見つけてこの国に連れてくることだった筈だ。

そしてユウさまがこの国に来て、
貴様の使命は果たされた。

それでいいだろう」

満足しておけ。

と辛らつに言うマイクは
いつもの優しいマイクではなかったけれど、
見慣れぬクールな姿に少しだけ胸がときめいてしまった。

カッコイイ。

でも、喧嘩はダメだ。

だから私は二人の間に入って
「みんなで仲良くしよう、ね」と宥める。

「そうだな。
ユウは明日には隣国に立つんだろ?」

「うん。そのつもり。
バーナードの結婚式には出席したいし」

「ご一緒することは叶いませんが
お気をつけて」

早くもマイクが心配そうに言う。

「大丈夫。
結婚式に出たらまた戻ってくるし、
パパ先生も一緒だから心配ないよ」

私はディランから手を離して
後ろで髪を拭いてくれていたマイクを
見上げる。

「じゃあ、今日は、ユウ」

ディランが離れた私の手を掴んだ。

、なんだろう?」

強引な仕草で、けれど甘さの滲んだ瞳で見つめられ
私はうろたえる。

「それとも、するのは嫌か?」

ディランが挑発的に、
私ではなくマイクを見た。

「まさか。

私がユウさまの望みを違えることはありえません。
ユウさまがそれを望むのであれば……」

マイクはディランに返事をしているように
言っているが、じっと私を見つめている。

マイクの声も、どこか甘く、
見つめられるだけで、身体が熱くなりそうだ。

「なら、決まりだな。
いいだろ? ユウ。
しばらく会えないだから、
ご褒美くれよ」

ディランは床に手を付き
顔を私の前に突き出した。

驚いた瞬間、ぺろり、と唇を舐められる。

「隣国に行っても俺のことを忘れないように
ユウの身体に俺のことを刻み込みたい」

熱く、本気の瞳だった。

私の髪に触れていたマイクが、
そんなディランから私を離すように
後ろからさりげなくタオルをテーブルに置くふりをして
抱きしめてくる。

マイクに子守歌を歌って、早めに寝よう。
そんなことを持っていたけれど。

いいかな、流されても。

私も二人を感じたい。

二人の熱のこもった瞳に、
じんわりと体が熱くなってきた。

だから私は自分から二人を求めるように、
両手を伸ばして、ディランとマイクの手を取った。


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