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愛があるれる世界
327:基準はなにか
しおりを挟む女神ちゃんの『力』が
私の体を、神に近いものにしたのは確かだと思う。
この体は勇くんのものだから
私の魂が、というべきかもしれないが。
でも私は別に自分が神だと名乗る気もないし、
この『力』は私のものではなく
女神ちゃんのものだ。
必要であれば使うけれど、
やたらめったら使うつもりはないし、
人間をやめるつもりもない。
地球の女神は友人女神……
私の母であるらしい女神を
助けたいから私を神にしたいのかもしれないけれど
今のところ私はその母だという女神に対して
何の感情もない。
会いたいとかも思わない。
ずっと親にさえ嫌われ、
捨てられたと思って来たのに
今更、母の愛がどうとか言われても
受け入れられない。
そんなことよりも
今は目の前にいる大好きな、
私を愛してくれる人に目を向けたい。
女神ちゃんは、軽率に『力』を
与えたからこんなことになってしまったと
ひたすら謝るけれど、
私だって、母親が女神だなんて
思いもしなかったし、
仕方がないと思う。
だって女神ちゃんの『力』が
なかったら、あの世界の崩壊は
防げなかったわけだしね。
だから謝罪も必要ないし、
私は何も変わってない。
そう言うと、女神ちゃんは
ようやく泣き止んだ。
良かった。
可愛い金髪女子高生っぽい女神ちゃんが
泣きながらケーキを食べる姿は
可愛いけれど、迫力がある。
女神ちゃんを慰めているうちに
私の体から放たれていた光は
徐々に薄くなり、消えてしまった。
けれど、おそらく、たぶん。
私の体を流れる『力』の量は
ものすごく増えているような気がする。
小さな小川のような『力』の流れが
鳴門の渦ぐらいの勢いで
体の中を巡っているような気がするのだ。
慣れてきたから、
発光はおさまったかもしれないけれど
気を付けないと、うとうとしながら
温泉施設を作ってしまったように、
何かやらかさないとも限らない。
ただ喜ばしいことがある。
それは<愛>を糧にする『力』が
全く別のものに変化したということだ。
つまり、愛を求め続けることも
誰かに愛され抱かれる必要もない。
私は私が愛し、私を愛してくれる人だけを
抱きしめ、身を任せればいいのだ。
そのことだけは、素直に喜べる。
私は冷めてしまったお茶を飲む。
パパ先生は女神ちゃんの涙を
拭くためにハンカチを差し出して
女神ちゃんに渡していた。
女神ちゃんはハンカチを持ってないらしく
ひたすら指で目を擦っていたからね。
「まずは悠子ちゃんのことは
現状維持ということでおいておいて、
折角なので、あの世界の話をしても
構いませんか?」
パパ先生が女神ちゃんが
目元をハンカチで拭くのを待ってから
声を出した。
女神ちゃんが、こくん、と頷く。
「獣人の国に関しては
かなりまとまって来たと思います。
つじつま合わせが上手くいったと
言えばいいでしょう」
女神ちゃんが気まずそうな顔をする。
そりゃそうだろう。
『幼女が聖女』設定の国が、突然、
獣人の国になったのだから。
しかもすでにその国の人たちの
生活が始まっていると言うのに。
突然自分が獣人になったなど、
信じられるはずもない。
それをなんとかしたのだから
パパ先生は本当にすごいと思う。
「あとは隣国との国交ですが、
それは人間たちに任せていただけますか?」
つまりは手を出すな、ということだ。
女神ちゃんは、真っ赤な目で頷く。
「国交を結ぶにあたり、
国の領土を決める必要があると思います。
あと国同士を結ぶ道は
悠子ちゃんにお願いすることもできますが
最初は、それぞれの国で
道を作る作業をしてもらうつもりです。
その方が、国と国を繋ぐという意識も
強くなりますしね」
パパ先生の話に女神ちゃんは
コクコクと頷くだけだ。
やりたい放題だった女神ちゃんも
さすがに先輩女神に叱られ、
研修でしごかれて、
文句もわがままも言えなくなったのだろう。
パパ先生の説明を女神ちゃんは
真剣に聞き、相槌を打っている。
女神ちゃんもきっと
私と同じように成長したんじゃないかな。
だってパパ先生の話を聞き、
ちゃんと受け答えしているもの。
たったそれだけで?と
思うかもしれないけれど、
人の話を聞かなかった女神ちゃんを
知っている私としては
かなりの成長だと思う。
そしてパパ先生は、最後に、と言った。
「基準を考えてください」
『基準?』
「そうです。
女神である貴方が、
その時、その時の気分で行動し、
世界の理を変えていては、
人間たちはついていけません。
あなたは行動するときの指針となるものが
あった方がいい」
私は大きく頷いた。
そうなのだ。
それは絶対に必要だ。
「最初のうちは、あの地球の女神に
叱られそうかどうかを考える。
そんな指針でも構いません。
慣れてくれば、自分なりの基準も
生まれてくるでしょう。
とにかくあなたは、
無計画にやりたいことをするのではなく、
あの世界を繁栄させることを
最優先にすべきです」
当たり前のことなので
女神ちゃんは、ぐうの音も出ない。
パパ先生にピシャリと
言われた女神ちゃんは
可哀そうなぐらい、
しょんぼりしていたけれど。
私もそれは必要だと思うので
慰めの言葉は出なかった。
代わりに、私は女神ちゃんのカップに
新しい紅茶を淹れてあげた。
この世界のティーポットは
不思議とお湯が冷めることない。
そしてどんなに注いでも
湯が無くなることがないのだ。
お茶を淹れてあげて
女神ちゃんの前に置くと、
女神ちゃんは黄金の瞳を濡らしたまま
私を見つめた。
『ユウは、元の世界にいた時より、
幸せになれたか?』
今後、多くの愛を得ることができなくても。
私はその言葉の後に、
女神ちゃんが、そうつぶやいたような気がした。
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