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愛があるれる世界

326:女神と人間

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 女神の話は意外でもなく、
ただただ、納得だった。

本来であれば、
人間には過ぎたる『力』を
二つも持っている私は
異例中の異例だった。

しかも、それを使いこなし、
ましてや、『力負け』もしていない。

女神は最初、二つの力の均衡が
上手く保たれていたから、
私は『力』を使うことができていただけだと、
思っていたらしい。

ところがその力が混ざりあった今でも
私は体調を崩すことなく、
ただ発光するだけでおさまっている。

おそらく『力』が馴染んだら
この発光も収まるだろう。

それがどういうことかというと、
私が人間ではなく、
より神に近い身体に変化したからではないかと
女神は言ったのだ。

もともと、神と人間のハーフなんだから
人間になっても、神になっても
おかしくはないという。

『ようはね。
天秤みたいなものだと思えばいいわ。

あなたという人間は
天秤の片方が人間。
もう片方が女神。

どちらに偏ることがなければ
どちらにもなれるけれど。

どちらかを捨てて、
どちらかになることもできる』

ちょっとややこしいぞ?

「それは選ばなければならないのでしょうか」

パパ先生が言葉を挟んだ。

『人間には過ぎたる力を持っているのに
選ばない、なんてありえると思うの?』

女神が咎めるようにパパ先生に言う。

待って。

そんなことを言われたら
私がどちらかを選ぶんじゃなくて
神になることを選ばなければならないと
言っているように聞こえるんだけど。

「あの、私。
今のまま……じゃ、ダメなんですか?」

女神なんてなる気はないし、
元の世界を捨ててまで
なんとか崩壊を防いだ世界を
また見捨てるなんてできるわけがない。

それに皆と離れるのも嫌だ。

『でもきっと、苦労するわよ?』

女神が言う。

『人間は、過ぎたる力をきっと求める。
ねぇ、ユウちゃん。

あなたは人間たちのために
ただひたすら『力』を使うだけの
道具のように扱われるかもしれないわよ?

あなたは優しいから、きっと
願われたら、力を使ってしまう。

多くの人を助けてしまう。

人は神の力を見ればひれ伏すわ。
あなたを特別視する。

人間たちの中であなたは異端となるでしょう。

あなたたが『力』を使えば
それだけあなたは愛される。

けれど、あなたは多くの人に愛されても
たった一人のを作ることはできないわ』

それが信仰というものだと
私は思った。

人間たちは神を敬い、愛するけれど
神はたった一人を愛することはない。

女神は知らないのだ。
たった一人の最愛を得たことが無いから。

でも私は知っている。

私を愛し子として妄信的に愛し、
そしてたった一人の最愛としても
愛してくれる存在がいる。

そして私もその人をに思っている。

私を愛してくれる人は沢山いるかもしれない。
私を求めてくれる人だって
沢山いるかもしれない。

でも私は、その人たちをすべて
と、私はもう、
理解したのだ。

私は愛してくれた人を愛さなくても、
愛してくれる人がいるし。

私が必死で愛を求め、
多くの人を愛さなくても、
私だけを愛してくれる人がいる。

もう私は、寂しくて、
ひたすら誰かの愛を求めていた私では、ない。

「私は、神にはなれません」

私は前を向いていう。

「私には、大切な人がいますから。
多くの人を平等に愛するなんてできないんです」

私の言葉に、女神は驚いた顔をした。

『本気で言ってるの?』

「はい」

『後悔するわよ。絶対』

「大丈夫です。
私を
言ってくれる人がいますから」

私の言葉に、女神は口を閉ざした。

そしてしばらく沈黙してから
そう、と息を吐く。

『彼女と……あなたの母親と
同じことを言うのね』

そうだった。
私の母……だという女神は
人間を愛した罪で時の牢獄に入れられたんだった。

『わかったわ。
今はこれ以上は何も言わない。
でも、あなたの持つ力は
以前よりももっと強くなっている筈よ。

気を付けなさい、いいわね』

私が頷くと、女神はパパ先生を見る。

『この子のこと、よろしくね』

「もちろんです」

パパ先生の返事に女神は満足そうに頷くと
『じゃぁ、行くわ』
と言う。

女神ちゃんが、顔を上げた。

『あなたの責任よ。
あなたが、収めなさい』

目を真っ赤にした女神ちゃんが
驚くほど、ビシっと背中に定規でも
入っているかのように立ち上がり、
勢いよく頭を下げる。

普段の可愛い女神ちゃんからは
想像ができない姿に驚いた。

まるで軍隊みたいだと思っていると、
私が見ている目の前で
すっと女神は姿を消した。

白い空間に残ったのは、
女神ちゃんと私とパパ先生。

私の女神化(?)のことがあり、
女神ちゃんだけでは不安だと
地球からわざわざ来てくれたのかもしれない。

女神ちゃんはパパ先生の後ろを通り
わざわざ私が座っている場所まで
来てくれた。

『ほんとに、ほんとに、すまん。
まさか、ユウが人間じゃなくなるなど
思ってもみなかったんじゃ』

「いや、人間だし」

女神ちゃんの言葉についツッコんでしまった。

すると、見る見るうちに
また女神ちゃんの瞳に涙が溜まる。

「まぁ、まぁ、とにかく
座って、せっかくだからお茶と
ケーキをいただこう」

そんな女神ちゃんと私の間に
パパ先生が入ってきた。

そして女神ちゃんを椅子に座らせる。

「僕がケーキを取ってあげようか。
どれがいい?」

パパ先生がトングと皿を持つと、
女神ちゃんは涙を指で拭いながら
小さな声で

『イチゴのケーキとメロンのムースと
スコーンは生クリームとイチゴジャムで、
サンドイッチは卵とハムでキュウリがないやつ』

と物凄く注文していた。

思わず私とパパ先生は顔を見合わせて苦笑する。

パパ先生が女神ちゃんの要望に応えている間に
私は目の前のティーポットと
お湯差しを使って女神ちゃんのために
新しいお茶を淹れてあげた。

女神ちゃんは、ゆっくりとケーキや
お茶を堪能しながら、
私に何度も謝罪の言葉を口にした。

食べるか謝るかどちらかにした方がいいのに。
と思う程、女神ちゃんの食べっぷりはすごかった。




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