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愛があるれる世界

317:求め合える幸せ

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 私が笑ったからか、
さらに空気が緩んだ。

マイクは私の手を優しく引き寄せ
少しだけ空いていた距離を詰めた。

私はマイクに抱きしめられる。

こうして強引なマイクは
珍しいけれど、求められているようで
嬉しい。

だからマイクの胸で私は
ふふ、と声を出して笑った。

するとマイクは私の背に回していた指で
私の背中をなぞった。

その指の動きは、抱きしめるとか、
そういうのではなく、
なんと言えばいいのか……とても
甘く、淫靡な動きだった。

今はまだ朝だったし、
というか、マイクからこのように
あからさまに求めてくることなど
今まではなかった筈だ。

『祝福』が発動していれば、
にもなったけれど
今は、もちろん『祝福』も発動していないし
なにより、今はそこまで甘い空気でもない。

……と、思う。

マイクの手の動きがおかしいと思ったけれど、
私の思い過ごしだろうか。

そう思ってマイクの顔を見た瞬間、
唇が重なった。

さっきみたいに、
触れるだけのものではない。

ビックリする間もなく、
強くマイクに抱きしめられ
私は驚くままにマイクの唇を受け止めた。

いつもマイクは優しく、
私を気遣ってくれていた。

それは私を抱く時も同じで
時には激しく私を求めるディランを
非難するかのようなことも言っていた。

そんなマイクが、私に激しく、
何度も唇を重ねてくる。

目の前のマイクは、
本当に私の知るマイクなのだろうか。

また女神ちゃんの思い付きで
違う種族になったとか、
変な設定が生まれたとか。

妙なことになっているのではないかと
私は焦った。

けれど。

唇が離れたマイクは
「愛しています」と私を見つめる。

「今まで私は、ユウさまに嫌われたくない。
ただそれだけでした」

マイクは私を見つめ、
その心の内を吐き出すように
言葉を紡ぐ。

「私はずっと、ユウさまのおそばに
控えることができれば、
それで満足だと思っておりました。

そう思うことで、
私は自分の心を守っていたのです」

マイクの告白に私は驚く私は
何も言えなかった。

「……幸運にも私は
ユウさまと肌を重ね、
想いを伝えることができました。

けれども、なお、私は。
ユウさまから私を求めて下さる言葉を
聞いても、それでも私は、
ユウさまのおそばに居ることが
できない未来を想像し、
脅えてしまうのです」

マイクは私の頬に触れる。

「本当は、いつだって
ユウさまを求めておりました。

あやつのように、ユウさまを求め
ユウさまだけを瞳に移し、
夢中になりたかった。

けれど、私のちっぽけな自尊心が
それを拒んでいたのです。

もしユウさまが、
ユウさまに溺れ、夢中になる私を見て、
幻滅されたらどうしようかと。

カーティス殿下たちの元に
戻られた時、私の存在はどうなるのかと。

もしユウさまから捨てられたら、
私はユウさまにすがりつき、
愛を乞うことができるだろうかと

……怖かったのです」

マイクの声が、懺悔のように響く。

マイクがそんな風に思っていたなんて
考えもしなかった。

マイクは積極的に私に触れることはなかったけれど、
それは女神ちゃんへの信仰があったから、
私が女神の愛し子だからだと思っていた。

でも、違ったんだ。
そしてマイクの消極的な行動の裏には
身分制度が関わっているのかもしれない。

私はまだまだマイクのことを理解していないし
この国のこと、隣国のこと、
この世界のことも、何もわかっていないのだと
そう思い知らされた。

私が思わず唇を噛もうとすると、
マイクは長い指で私の唇に触れた。

そして、微笑みを見せる。

「ですが、婚姻の話を聞き、
ユウさまが私のために動いてくださったことを知り、
私は、この上もなく……歓喜しているのです。

いえ、いえ、浮かれております」

マイクは熱のこもった瞳で
私を見た。

「ユウさまを……このまま
抱いてしまいたいぐらいには」

確かに、浮かれている、と思った。
だってマイクの頬は見たことがないほど
赤く、高揚していたし、
その瞳には、見たことないほどの熱が感じられたから。

先ほどまでの懺悔の告白は
どこに行ったのかと思う程、
マイクの瞳は熱を帯びている。

「私が望むままに……
ユウさまを求める権利を得たと、
そう思ってもよろしいのでしょうか」

今さらだ。
何度同じやり取りをしたのか
忘れてしまったぐらいだ。

なのにまだ、マイクはそんなことを言う。

いや、きっと今までのやりとりは
マイクにとっては、
与えられただけだと、
そう受け取っていたのかもしれない。

それが結婚の話が出てきて、
私が伝えていた言葉に、
真実味を感じたのだろう。

私が本気でマイクを望んでいると、
やっと理解してくれたのか。

私もたいがい人間関係が不自由で
相手のことを信じたり、
信頼したりするのが苦手だ。

元の世界では、トゲトゲしていて
親しい人などいなかったから
以前の私なら相手から
好意を伝えられても
信じられなかったと思う。

……目の前のマイクのように。

相手は優しいからそう言ってくれているのだ、
なんて曲解して、自分の心を守るために
わざと深入りしないようにしていた。

マイクも同じだと思った。
そして私と同じようにマイクもまた、
誰かの心を。
誰かから与えられる愛情を
素直に受け取ることが苦手なのかもしれない。

ディランや私と旅をして。
信頼関係を築き、愛情を確かめ合うことで
私だけでなくマイクもきっと
成長したのだと、そう思いたい。

私はわざと、おどけて言う。

「ずっとそう言ってるのに。
マイクはまだ信じてなかったの?」

マイクは私の言葉に、
申し訳ありません、言ったが、
その顔は嬉しそうだった。

その笑顔は今まで見て来た
優しい、大人びたマイクの顔ではなく、
純粋な、子どものような笑顔だった。



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