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愛があるれる世界

316:愛し合いたい欲

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 マイクは私の指をなぞり、
ようやく繋いだ手を離した。

そして私の手を取り、
その手のひらに口づける。

「私は……何度もユウさまに
好きに触れていいと言われても、
私は自分から触れることができない
臆病者なのです」

苦しそうに、マイクは告白する。

「こうしてユウさまから先に
触れていただかないと、
ユウさまを求めることができない臆病者。

どんなにユウさまに、私が『特別だ』と
そう言っていただいても
それを喜びながらも、
身分制度がちらつくと、
自信が無くなり、私は脅えてしまう」

マイクの舌が、
私の手のひらに押し当てられた。

「それでも私は。
何度も、何度も。
ユウさまの気持ちを確かめたい。

私がユウさまをお慕いする気持ちを、
ユウさまに押し付けたくて仕方がないのです」

マイクも、愛すること、愛されることに
臆病なんだろうか。

私はふとそんなことを思った。

私がいつも誰かに
「愛されたい」と思っていたけれど、
実際に愛されてしまうと、
脅えてしまったように。

マイクももしかしたら
人と関わり合うことが
苦手なのかもしれない。

「押し付けて、いいよ」

私はマイクの手を引いた。

「私も、愛されたい欲を
皆に……ううん、マイクに押し付けてるもん」

だから、おあいこ。

そう言うと、
マイクは少しだけ笑って
私に引き寄せられるまま、唇を重ねた。

軽く触れただけだったけれど、
それだけで私は甘い息が出てしまう。

マイクの香りを強く感じて、
もっと触れたい、って思う。

だからすぐに離れようとしたマイクに
腕を伸ばして抱きついてみる。

マイクは私を抱き留めたけれど、
動くことはしなかった。

私はマイクが受け入れてくれたので
マイクの胸にしがみつき、
シャツ越しの肌に頬を摺り寄せた。

暖かい人肌は、久しぶりな気がした。

マイクの腕の中は特に安心できる。
それはきっと、マイクが私を
マイクの全てを掛けて愛してくれていると
私の無意識が理解しているからだと思う。

マイクはきっと、
私以上に大事なものは、ない。

私のために家族も切り捨ててしまうような人だ。

マイクのは私なのだ。

そう思うだけで、嬉しくなる。

私の前ではマイクには
大事な家族も友人も、
守るべき国もない。

王族や国の中枢を担う貴族でないからこそ、
マイクはその存在すべてで
私を愛してくれることができるのだ。

その価値を、マイクは理解していない。

そのことが、
どれだけ私を幸福にしているのか、
わかってないのだ。

だから私は何度でも言う。

「私はマイクにそばにいて欲しいの。
ずっと、ずっと。
こうして、私が甘えたいときは
マイクに受け留めて欲しいし、
沢山触れ合いたい」

マイクにしがみついて
私はマイクの心臓の音を聞いていた。

安心するのだ。

「大好き」というと、
私の体を支える腕の力が強くなる。

「ユウさま」

マイクが私の耳に唇を寄せた。

 マイクの優しい声が、
私の耳をくすぐる。

「愛しています。
私を伴侶にと望んでいただけるのであれば、
私は……どのような苦難にも堪えて見せましょう」

それは決意だったんだと思う。
マイクの言葉には強い意志があった。

でも私はマイクに苦難を与えたいわけではない。
ただ、一緒にいたいだけなのだ。

どうしたらいいのだろう。

私はマイクを見上げる。

どうしたら?

マイクはヴァレリアンたちとの
身分差が苦しいという。

なら、マイクとヴァレリアンたちが
一緒にいる時間が無くなれば
いいのではないだろうか。

それなら、独占欲が強い
カーティスだって、
マイクを排除することはできない。

なら、さっき話題に出ていた
『通い婚』という状態が
一番良いんじゃないだろうか。

マイクがこの国に住めば、
ヴァレリアンたちとは会わなくて済むし……。

と、考えて、
マイクはこの国の住人ではないし
家族との問題も解決したのに、
私が勝手に決めることではないと
思い直す。

私は今まで一人で考えて
一人で行動していたので
こういう時はつい、
一人で考えてすぐに先走ってしまう。

ちゃんとマイクの意見を聞かないと。

だいたい、マイクには
プロポーズもしてもらってないのだし。

いや、私がプロポーズをしたのと
同じ状況になってるのか?

だからこんな話になっているのか?

よくわからなくなってきた。

私は頭を整理しようと、
マイクから少しだけ体を離す。

こうして問題が起こった時は
1つ、1つ解決していく。

それは工場バイトで学んだことだ。

だから私は聞いた。

「マイクは私と結婚するのは嫌?」

「そんな筈はありません!」

激しく、すぐに否定され
私はほっと息をつく。

「よかった」

「ほんとうにユウさまは…
私との婚姻を望んでくださっているのでしょうか?」

まだ疑うのかと
マイクを見上げると、マイクはすぐに
申し訳ありません、という。

この世界の貞操観念とか倫理観とかが
私のいた世界とかなり違うことは理解している。

もしかしたらマイクは
肌を重ねたり、好きだと告げたりしても
それと結婚は別だと考えていたのだろうか。

まぁ、一夫多妻とか一夫多妻とか。
そういうのが普通の世界なので、
浮気とかそういう考えが
薄い世界なのかもしれない。

こういうことは、
きちんと話をしておいた方がいいのかな。

この世界の常識を知らないと
今後、苦労するかもしれないし。

でも、もし結婚……するならば、
結婚するのなら。

その知識は必要ないかもしれない。

だってもうこれ以上、
ダンナ様を増やすつもりはないのだから。

そんなことを考えていると、
マイクの唇が私の頬に触れた。

さっき、ディランが落とした唇とは
逆の頬だった。

マイクがこうして自分から進んで
私に触れてくることは、あまりない。

うん、嬉しい。

私はつい、笑みをこぼしてしまった。

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