313 / 355
愛があるれる世界
312:プロポーズ2
しおりを挟む私は二人のぬくもりを感じて、
ゆっくりと言葉を吐く。
「あのね、結婚は……
ううん、プロポーズはね。
ヴァレリアンたちからしてもらったの。
ディランはわかる?
ヴァレリアン、カーティス、スタンリー。
一度、教会で会ったよね?」
私が隣に座るディランを見ると
ディランは頷いた。
不機嫌そうな顔だったけれど
私はそのまま続ける。
「私ね。
皆で一緒に結婚しよう、って
言われたの。
でも、私はマイクやディランと
今は一緒にいるから
できないって返事をしたの」
そこまで言うと、
両側から安堵の空気を感じた。
「そしたらヴァレリアンたちが、じゃあ
みんなで一緒ならいいだろう」って。
意味がわかるだろうか。
私はさらに言葉を紡ぐ。
「みんなで。
ヴァレリアンたちと、
マイクとディランと一緒に
皆で結婚してたらいいって」
私がそこまで言うと、
ディランもマイクも
驚いた顔をしていた。
やっぱり驚くよね?
びっくりだよね?
どう思う? と私がマイクを見ると、
マイクは驚いた表情を緩めて
首を振った。
恐れ多い、と。
聞くと、マイクは、もともとから
一妻多夫の国で育っていたし、
その思想を持っていたので
違和感はないらしい。
けれど自分が王族と一緒に、
私と婚姻することは
考えることができなかったらしい。
もし私がヴァレリアンたちと結婚したら
身分的にも下位になるマイクは
排除されると思っていたらしく、
だからこそ、家族と縁を切ってでも
私を連れてこの国にきたというのだ。
まさかそこまで考えてくれていたとは
私は思いもしなかったので、
マイクの想いの深さに感動してしまう。
確かにディランもこの国の王子様だし、
身分を言い出したらマイクが一番下になる。
恐れ多いというのも頷けた。
「ディランは?」
反対側に座っているディランに
話を振る。
ディランも何やら難しい顔をしていた。
「俺は……一般論だが」
と前置きをして、
ディランは話をする。
この国でも結婚に関しては
人それぞれという感覚らしい。
確かにこの国の人たちは獣人なので、
思想を統一するのは難しいだろう。
獣人たちの種族の中で
多くのパートナーを持つ種族もいれば
一人の人を愛し続ける種族もあるのだと思う。
だから、皆で結婚ということに対して
忌避感は無い。
「ただ、俺はユウを独り占めしたい」
ディランはきっぱりと言った。
「でも、でも。
ユウはセイジョだ。
誰か一人のものになれないことも
俺は理解している。
それでも俺はユウに惚れた。
一緒にいたいって思った。
だから……。
ユウを独り占めできないのなら、
皆でユウを愛するのも、我慢する」
でも、たまには二人っきりになりたい。
ディランはとても辛そうな顔で
そう言った。
そんな顔に、私は心が震える。
私の甘えを受け入れ、
それでも愛してくれる存在に
私は喜んでいる。
そんな自分に罪悪感を持つけれど、
でも、嬉しいとも感じてしまうのだ。
こんなに愛してくれる彼らの想いに
甘えていいのかと、私を叱咤する心も
もちろん、ある。
けれど、現状維持を望む気持ちもある。
私の心は、また揺れ動く。
「でも、でもね。
まだ結婚とかは早いと思うし、
この国と隣の国との交流が
普通にできるまでは、
この話は進まないと思うの」
私は、まだ結論を出さなくてもいいと
大きな声で言った。
いや。私が結論を出したくないのだ。
「私は二人が大好きだし、
この国が発展していく姿を
一緒に見たいもの」
そういうと、二人の顔に
安堵が広がった。
「それでね、今後のことなんだけど」
私は二人の顔に背中を押され、
隣国にパパ先生の家を創ることを伝えた。
空間を繋げる扉を使えるのは、
私とパパ先生だけだと、
ヴァレリアンたちには伝えている。
けれど、2つのパパ先生の家は
こっそり扉を繋げておくので、
パパ先生はいつでも行き来できるし、
マイクも必要であれば
その扉を使って家族に会いに行ってもいい。
当分は、パパ先生に二つの国の
間を取り持つ役割を担ってもらって
私はそんなパパ先生について
二つの国を行き来しようと思っている。
「通い婚ということか?」
真面目な顔でディランが言う。
「か、通い……っ」
結婚はまだまだ考えてないと伝えたとに
ディランがそんなことを言うので
私は慌ててしまう。
「だが、俺はまだユウに
プロポーズしてない」
が、突然落ち込むディランに
そういえば、ディランとも
マイクとも、結婚の話など
今まで一度もしていなかったと思いあたる。
私は勝手に二人なら私と結婚してくれると
思っていたけれど、それは私が思っているだけで
二人から、そんな意思表示は受けたことがない。
先走り過ぎたと言うか、
自意識過剰というか。
二人が私を愛してくれていると言う
自信があったからこそだけれど、
なんて自分勝手なことを、と
私は顔を熱くして俯いた。
何が、愛されない、いらない子だ、と
私は思う。
過去はどうあれ、
今では、私はこんなに身勝手に
愛してもらえると言う自信を持っている。
成長といえば成長かもしれないが
この自信を持たせてくれたのは
私を愛してくれた皆のおかげだ。
そして私は勝手に
皆が私と結婚することを望んでいると
思い込んでいたけれど、
皆にはそれを拒否する権利があることに
気が付いた。
「えっとね。
ヴァレリアンたちとはそんな話になって
私は二人にその話をしようと
戻って来たけどね。
嫌だったら、いいの。
結婚だってまだ先の話のつもりだし、
好きな人ができたら、
私じゃなくてその人と……」
「そんなやつはいない」
ディランが私の言葉を遮った。
「ユウよりも、好きな奴なんて
今後も出会うはずがない」
根拠何て何一つないのに、
ディランの言葉が嬉しくなる。
「私もです、ユウさま」
マイクが繋いでいた私の手を引き寄せ
指先に口づけた。
「私のこの想いも、命さえも
とうにユウさまに捧げたのです。
ユウさまのお気持ちが
どのように変化したとしても
私はずっとお傍に」
「……うん」
私が迷っても、うろたえても、
二人は私を見捨てたりはしない。
そのことを確認できた気がして
私は息を吐いた。
伝えたいことはまだまだある。
でも私は、絶対に伝えなければならない
『結婚』の話が出来ただけで、
だいぶ満足していた。
というか、疲れ果ててきた。
でもここで逃げるわけにはいかないので
私は二人から体を離して、
もう一度、座り直す。
私の様子に二人もソファーに
座り直してくれた。
でもすぐに、ディランは
私の腰に手を回し、
マイクは私の手を取ったけれど。
折角座り直したのに、
二人の距離感は、物凄く近い。
まぁ、いいか。
嬉しいし。
よし。
じゃあ、次の話だ。
0
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
俺の彼氏
ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。
同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。
挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。
リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。
一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。
「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」
甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
絶頂の快感にとろける男の子たち【2023年短編】
ゆめゆき
BL
2023年に書いたものを大体まとめました。セックスに夢中になっちゃう男の子たちの話
しっちゃかめっちゃかなシチュエーション。
個別に投稿していたものにお気に入り、しおりして下さった方、ありがとうございました!
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる