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愛があるれる世界

306:最善の策

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 私はやっぱり、愛されたら嬉しい。
でも、以前のように、
誰でもいいから愛されたいとは思わない。

その意識が芽生えただけでも
私は成長したと思う。

それに私はカーティスたちのことが
大好きだし、そのカーティスたちが
私を愛してくれて、求めてくれることを
嬉しいと思うのは自然な感情だと思う。

私はいつも自分の感情を
否定してばかりだったから、
こういう時は「当たり前の感情なんだ」って
思うようにしていた。

パパ先生が教えてくれたことだ。

愛されたいと思うことも当たり前だし、
求められて嬉しいのも当たり前なんだ。

そうやって認めてあげたら、
どんどん自信が付くよ、とパパ先生が
言っていたから、私は素直に
今の感情を受け止める。

私はカーティスの手を握り返す

カーティスが顔を上げて私を見た。

「カーティスたちのことは
大好きだから、拒むわけないよ」

そういうと、カーティスは
目を見開いて、笑った。

「そう、よかった」

その声と同時に、ヴァレリアンや
スタンリーの身体から力が抜けるのを感じた。

空気が緩んだ、とでも言えばいいのだろうか。

緊張感が漂っていた部屋が
呼吸しやすくなったのだ。

ヴァレリアンが大きく息を吐き、
ユウ、と私の名を呼ぶ。

「提案があるんだ。
俺たちと、ユウの今後のことで」

そしてヴァレリアンは
スタンリーをちらりと見る。

スタンリーは頷いて
私の顔を見ながら言葉を紡いだ。

「ユウは、隣国と行き来できるのだろう?
おそらく、隣国との国境を開くのには
時間がかかると思う。

道も繋がっていないし、
工事をするにしても、
どれほど時間がかかるかもわからない。

その間、両国を行き来できるのはユウだけだ」

確かに、そうだ。

私の『力』は金聖騎士団の皆には
ちゃんと伝えていない。

私と一緒だったら、
誰でも隣国に行けることは内緒にしているし、
『力』を使えばたぶんだけど
道を創ることだってすぐにできると思う。

でも、まだ言えない。

そうなると両国のやりとりを書簡でするのなら
その配達員は私しかいない。

「俺たちはな、ユウ」

ヴァレリアンが言う。

「ユウがこの国にいる間は、
一緒にいたい。

隣国に行くのであれば、
その間は我慢する。

あの神官も、こちらの国に戻っても
隣国にそのままいても、
どちらでも構わない。

国王も、二度と干渉しないと言っているし、
王命はもう出ない」

つまりマイクはこの国に戻ってもいいし、
私と一緒に隣国にいてもいいということか。

私は身体の力を抜いた。
よかった。

私のせいで、マイクの家族に
何かあったら許せなくなるところだった。

「ねぇ、ユウ」

カーティスが私の顔を下から覗き込んだ。

「この『大聖樹の宮』が嫌なら、
私は離宮を建ててもいいと思っている。

私たちの新居としてね。

ずっと一緒にいれないのなら、
この国にいる間だけでもいい。

そばにいて欲しい」

胸が痛くなるような声でカーティスは言う。

「それともあんな親がいる私は、
もう嫌いになった?」

苦しそうなカーティスの言葉に違う!っと
叫びたくなった。

国王陛下があんな命令をしたのは
カーティスたちのためだ。

カーティスたちを
嫌いになったわけではないし、
この国を嫌になったわけでもない。

ただ、国王陛下にされたことが
嫌だと思っているだけで、
今後、干渉されないというのであれば
この国を拒否する理由はないのだ。

ただ、私は……
私は?

私は何を求めているんだろう。

マイクとマイクの家族の安全を求めていた。
それが確保できたら?

次は……?

ヴァレリアンたちは
この国にいる間だけでも
一緒にいたいと言ってくれている。

結婚については考えることが
できないけれど、もしこのまま結婚しても
別居婚?

隣国とこの国の道が繋がるまでは
私が好きな時に好きな国で
過ごせばいいということになる?

思いもよらない話が出てきて
私は動揺してしまう。

私はマイクと一緒にいたい、って思った。

たった一人の人を愛し、
愛されるのなら、マイクがいいと思った。

でもヴァレリアンたちは
一夫多妻や一妻多夫の文化がある国だから
私と皆、全員一緒に結婚するつもりだった。

驚いたけれど、
皆と結婚することが、
絶対嫌かと聞かれたら、
わからない、としか言えない。

ただマイクもこの国の出身だから
ヴァレリアンたちの提案を言えば、
きっと頷いてくれると思う。

問題は、ディランがどう考えるのか、だけれど。

と、すでに思っているということは
私も皆と一緒に結婚することを
心の中では認めているということだろうか。

まって。
ちょっと一人では決めれない。

今すぐ返事は無理だ。

パパ先生にも相談して……。

と考えて、パパ先生との会話を思い出した。

パパ先生はこの国に別荘を建てようとか言っていた。
そうだ。

離宮とかじゃなくて、
パパ先生の家を創ったらいいんじゃない?

そしてパパ先生と一緒に私も
この国とディランの国を行き来するの。

パパ先生がこの国に来て
国境をどうするかとか、話をしてくれた方が
絶対に良いし、隣国のパパ先生の家と
こちらの国のパパ先生の家を
『空間』で繋いだら、
いつだって、国同士を行き来できる。

ディランを置いてこの国に
来ることになったら、
ディランはどうするだろうとか、
一緒にディランとこの国に住むことになったら
どうなるのだろうとか。

そんなことを考えたこともあったけれど
この案であれば、ディランは自分の国で
生きていくことができるし、
マイクは……。

家族に会いたいのなら会えるし、
私と一緒に隣国とこの国を
行き来してもいい。

結婚とかはまだわからないけれど、
現状維持、という意味では
ヴァレリアンたちの提案は
物凄く魅力的に思えてきた。

いいのかな?

甘えても、いい?

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