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愛があるれる世界

310:王宮にて

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 私は話しを終えた後、
パパ先生と一緒に、王宮に向かった。

王宮に着くとパパ先生は
すぐにデビアンさんに会いに行くと言い、
私はマイクと一緒に与えて貰っていた
客間へと向かう。

王宮にはあいかわらず、騎士さんや侍従さん、
文官さんっぽい人たちがたくさんいたけれど
どの人も忙しそうだ。

少し前までは、人があまってるんだろうな、
なんて思うようなゆるい空気だったのに
すっかり様子が変わっている。

領土が広がり、
多くの施設が機能し始めたのだろう。
忙しそうに早足で歩く人や
あちこちでざわめくような人の声が聞こえる。

それも、のんびりとした会話ではなく、
何か目的を持って議論しているような
会話ばかりだ。

きっと良い方向に変わっているんだと
私は顔をほころばせた。

さて、と私は周囲を見る。
私は広い廊下に立っている。

私の横を早足で通り過ぎる人たちや
何やら書類を沢山抱えて
ふらふらと歩く人もいる。

そんな廊下の真ん中で
立ち止まるのも悪い気がして
私は白い壁に背中を付けた。

私とパパ先生が王宮に着いたときに
出てきてくれた侍従さんが
部屋まで案内してくれると
言ってくれたけれど、
私とパパ先生は辞退した。

案内してもらわなくても
場所はわかるしね。

と、意気揚々と歩いたけれど
結局は、今どこにいるのかわからなくなっていた。

知っている場所だと思ったけれど、
雰囲気が違うせいか、
それとも私が抱っこ移動ばかりしていたせいか。

自分で思っていたよりも
私は宮殿の部屋の配置を全く覚えていなかった。

宮殿の廊下は、
当たり前だけど同じような扉に
同じような壁。

あちこちに置いてある鎧とか
大きな花瓶に生けられた花とか
同じものは1つもないけれど
どれも同じに見えてくる。

どうしよう、迷子かも。

そう思った時、いきなり名を呼ばれた。

「ユウ!」

私は驚いて振り返る。

「ディラン」

遠くからディランが物凄い早さで
私の所まで走ってくるのが見えた。

待っていると、
あっという間にディランが
私の前まで来て、そのまま
私を抱き上げる。

「ユウ!
良かった。
帰ってきてくれたんだな」

私は抱きしめられ、
すりすりと頬ずりをさた。

「うん、心配かけてごめんね」

ぎゅうぎゅうとしがみつくディランに
私は素直にあやまった。

「あぁ、心配した」

今のディランは、耳も尻尾もない。
でも見えない耳や尻尾が
垂れさがっているように感じる。

私は抱っこされたまま
ディランの髪をよしよしと撫でた。

「耳も尻尾も無くなったね」

可愛かったので、ちょっと寂しい。

「ユウがいなくなってから
物凄く頑張ったんだ」

ディランは得意そうに言う。
なんでもパパ先生に特訓してもらい
自分の意志で耳と尻尾を
出し入れできるようになったらしい。

凄い!

……この凄い、の言葉は
ディランではなく、パパ先生がだ。

私だけでなく、
ディランの能力も伸ばしただなんて。

そんなパパ先生が誇らしくなる。
私のなんだよ!って
自慢したくなってしまう。

小さい頃、小学校でクラスメイトが
家族自慢をしていた話を私は思い出した。

あの時はただ羨ましいだけだったけれど
今なら、あの気持ちがわかる。

って、私は小学生じゃないけれど。

家族が出来て浮かれているのだと
私は自分の感情に気が付き苦笑する。

「ユウ? どうした?」

私の様子にディランが顔を覗き込んでくる。

「ううん、なんでもない。
それよりね、ディランとマイクに話があるの」

「俺だけじゃダメか?」

ディランが口を尖らせた。
拗ねたような顔に、私は笑う。

獣人気質とでも言うのだろうか。
ディランはすっかり可愛らしくなってしまった。

もっとも、見た目は成人男性なので
可愛いなんて言ったら嫌がられるだろうけど。

「ダメじゃない……けど、
二人一緒に、話したいの」

「わかった」

ディランは私を抱き上げたまま
客間へと向かう。

「ユウがいない間、寂しかったぞ。
今度は絶対に俺を置いて行くなよ」

ディランは獣人化で、
すっかりキャラが変わった気がするが
もともと、ディランの中に
こうした執着心や、甘えたい願望とかも
あったのかもしれない。

私と一緒で幼いころから沢山の兄弟がいて、
弟の面倒も見ないとダメだっただろうし、
この国は子どもの増加が理由で
王家の子どもたちは、離宮に集められ
全員一緒に育てられていたのだ。

学校の寄宿舎のようだと言えば
そうかもしれないけれど。

きっと親や兄に素直に甘えるなんて
ディランのことだから
できなかったんだろうと思う。

それに。
最初のディランの性格は
女神ちゃんにものだ。

そこからディランが色々なことを
経験し、感情を持って行動したからこそ
今のディランがいる。

だからこそ、ディランは今、
獣人化して、今まで我慢したり
上手く表現できなかったことが
抑えきれずに、感情のまま
動いてしまうのだろう。

良い変化だと思うけれど、
マイクは、感情を制御できなく
なっているだけだと批判的だ。

私はこの変化もディランらしさで
良いと思うのだけど、
ディランは自分の変化を
どう思っているのだろうか。

それとも、自分では変わったなんて
思っていないのかも。

そんなことを考えていると
あっという間に客間まで来た。

ディランは、乱暴に目の前の扉を叩く。

「ちょっと、ディラン。
乱暴すぎ」

私は咎めたけれど、
ディランはお構いなしに
マイクが返事をする前に扉を開けた。

案の定、返事をするまで待て、という
マイクの声が聞こえてくる。

が。

「ユウさま!」

怒っていた声が
あっという間に私を呼ぶ悲鳴に変わる。

マイクがドアのそばまで駆けて来て
私の手を握った。

「ご無事で……」

「マイク、ごめんね。
勝手にいなくなって」

ディランに抱っこされたままだったけど、
マイクは私の手の甲に唇を落とす。

「いいえ、いいえ。
ご無事でなによりです」

涙を押さえているようなマイクの手を
私は握った。

「あのね
二人に話があるの」

私が単身で隣国に行っていたことを
知っているからだろう。

二人は真剣な顔をして頷き、
ディランは私をソファーに座らせた。

「ユウさま。
お茶をお淹れいたしましょうか?」

「ううん。
いいからマイクも、ディランも
そばにきて話を聞いて」

正直、お茶を飲み過ぎてお腹はいっぱいだ。

私が手招きすると、二人は私を挟み、
両隣に、ソファーではなく、
床に、私を守る騎士のように座った。

二人とも、私の手を握ったままだ。

二人とも不安そうな顔になっているのは
気のせいでは無いだろう。

「あのねーーー」

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