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愛があるれる世界

313:いつでも会える場所

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 私は二人がべったりと引っ付いた状態で
準備ができ次第、すぐにでも
隣国にパパ先生を連れて行く話をした。

もちろん、バーナードの結婚式に
参列するためだ。

二人は一緒に行くと言ったけれど
それはできないと私は首を振る。

だって、私とパパ先生以外は
『力』で作った空間を
行き来できないとヴァレリアンたちには
伝えているのだ。

なのに二人を連れて行っては
折角伝えた意味が無くなってしまう。

もし誰でも私と一緒であれば
両国間を行き来できると知られてしまえば
大きな問題に発展するに違いない。

私の『力』を利用しようとする人も
でてくるかもしれないし、
利益を得ようとする人や、
それこそ国益が絡んでくることだって
考えられる。

どちらかの国が、
私を監禁してでも手に入れようと
する可能性だってあるのだ。

まぁ、私を監禁するなんて
絶対に無理なんだけど。

私は以前、パパ先生に
私の『力』のことは
誰にも知られないように、と
念を押されていたことを思い出す。

「私の『力』を知っているのは
パパ先生以外だと、マイクとディランだけなの。

この『力』のことは誰にも
知られたくないし、もし知られたら
国家間で大きな問題になると思う。

だから、絶対に知られたくないの。

ヴァレリアンたちは
望む望まないにかかわらず
あの国の王族で、国の利益を
損なうことはできないと思うから」

そこまで言うと、
さすがに二人は無理に一緒に行くとは
言わなかった。

私の『力』のことを知っているのは
マイクとディランだけだと
言ったのも効果があったんだと思う。

ズルい言い方だとは思ったけれど、
ヴァレリアンたちに関しては本心だ。

どんなに国を捨てて私と生きると
言ってくれたとしても、
きっとヴァレリアンたちは
国を捨てることはできないと思う。

大事な家族や友人たちが沢山いる人たちだから。

逆にだからこそ、
私のために、そんな場所を
手放して欲しくないし、
望んでもいない争いの種を
見せる必要もないと思う。

「それでね、良かったらなんだけど」

私はパパ先生と話し合ったことを
マイクとディランに提案した。

「マイクはパパ先生の弟子でしょ?
だからね。
マイクの家を、パパ先生の隣に
創ろうと思うの」

「私のですか?」

マイクが嬉しそうに言う。

「うん。
いつまでも宮殿の客間に
寝泊まりしているのも嫌なんじゃないかって
パパ先生が言っていて。

私もマイクに会いたいときに
すぐに会える方が嬉しいし」

そう言うと、
マイクの瞳が輝く。

「俺は!?」

ぐいっとディランに腰を引き寄せられ、
私はディランの瞳を見る。

不安そうな顔に、ディランも、と
私は言葉を続けた。

「ディランの部屋がもし宮殿にあるなら
そこと、パパ先生の家と
『扉』で繋いでもいいかな、って。

そしたらディランもすぐに
パパ先生の家にも行けるでしょ?

パパ先生も宮殿に行きやすくなるし。

もちろん、『力』のことは
内緒だから、ディランの部屋に関しては
厳重注意になってしまうけれど。

どうかな?」

「つまり、俺の部屋から
ユウにいつでも会いに行けるってことか?」

ディランの瞳もキラキラに輝く。

「うん。
でも、私がパパ先生の家にいる時だけだよ?」

「そう、か」

いない時があるのか、とディランは
しょんぼりする。

「とても良い案だと思います。
その、ユウさまの負担にならないのであれば」

マイクは私の手をぎゅっと握った。

「できれば、その私の家には
ユウさまの部屋を……」」

「ずるいぞ!
じゃあ、俺の部屋も作れよっ」

ディランが不機嫌そうに怒鳴る。

「おまえはちゃんと家と部屋があるだろう」

マイクが呆れたように言うが
ディランは、ダメだ、と私を見た。

「そんな家、マイクとユウが
結婚して新居にするのと同じじゃないか!

絶対に嫌だ」

新居、という言葉に、
一瞬、私とマイクは視線を絡ませる。

そんな発想はなかったのだけど、
そう言われると気恥ずかしい。

「なんで二人で顔を赤くしてるんだよ!
俺も!
俺も絶対に部屋がいる!」

わめくディランに
マイクはうるさい、と言うが
確かに仲間外れみたいだし、
部屋はあった方が良いのかも?

「じゃあ、宮殿のディランの部屋と、
新しく創る家を繋げてみる?

でもパパ先生は、あの家から
宮殿に『扉』を繋いで欲しいみたいだったし」

「じゃあ、両方繋げたらいいじゃんか!」

子どものようにディランは言う。
確かに。
と思うけれど、
あちこち『扉』で繋げてしまい、
使う頻度が増えれば、その分だけ
多くの人に知られる危険度が増すような気がする。

どうしようかと悩んでいると
マイクが、ユウさま、と控えめに私を呼んだ。

「その『扉』に制限は付けれないのでしょうか」

「制限?」

「はい。
たとえば、1つの『扉』には賢者様しか使えない。
私の新しい家の『扉』は私しか使えない、と、
使える者に制限を掛けることができれば
たとえ『扉』の存在に気付いたとしても、
その扉はただの扉でしかありません」

そうか。
それが出来れば、『扉』を見た人が
自分も使おうと思って扉を開けても、
それはただのドアでしかない。

それこそ、ただの食器棚にしかならないんだ。

え?
じゃあ、私が食器棚を通って
隣国に行くのを見た人が
意気揚々と食器棚を開けたら、
だたの食器が並んでるってこと?

勢いよく、バン!って
食器にぶつかったりするかも?

え、それ、ちょっと笑える。

きっとエルヴィンならお腹を抱えて
大笑いするだろう。
しかも指を差して。

思わずクスクス笑ってしまった私を
怒っていたディランもマイクも
不思議そうに見る。

「あ、ごめん。
マイク、凄い良い案だと思う。
できるかどうかわかんないけど
やってみる。

あと、どんな家がいいか
私に教えて?

部屋の数とか、家具とか」

「俺の部屋も!」

「……ディランの部屋も。
どんな家具が必要かとか
そういうのも全部、
紙に書いて欲しいの」

マイクは頷き、
ディランは、はしゃいだ声で
「わかった!」と言った。

よかった。

マイクはディランの部屋ができることを
不本意そうにしていたけれど、
許容範囲だと思う。

「あとね、パパ先生の準備が出来たら
すぐに隣国に出発するから
帰ってくるまでに
部屋の要望はまとめておいてね」

私の言葉に二人は動きを止める。

「帆、本当に、もう立たれるのですか?」

マイクの言葉に私は頷く。

「だってバーナードの結婚式に
間に合わないと意味ないし」

「お、俺もやっぱり一緒に……」

「は、行けないから、
ちゃんと家のこと考えておいてね」

私の言葉に二人は悲しそうにうなだれた。







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