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愛があるれる世界

308:帰(?)国

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 翌朝、私はパパ先生のところに
帰ることにした。

バーナードは結婚式の後、
新婚旅行に行くことが決まっているらしく
しばらく会えないとエルヴィンに聞いたからだ。

エルヴィンは私の前に朝ご飯の
焼き立てパンを並べてくれていて、
ケインは紅茶を淹れてくれた。

今日はバーナードもスタンリーもいなかったけれど
カーティスとヴァレリアンは
ソファーに座る私の両隣に座り、
紅茶を飲んでいる。

朝ご飯を食べているのは私だけだ。

スタンリーは朝から会議があるとかで
どうやら抜け出すことができないらしい。

そしてその朝の会議は
カーティスが出る筈のものだったと
ヴァレリアンの口調から気がついた。

なのにカーティスは気にした様子もなく
腕を私の腰に回して、ぴったりとひっついてくる。

私が「結婚しない」と拒絶したことが
原因かもしれないけれど、
驚くほど独占欲を見せてくるので
私は対応に困ってしまう。

それに他の皆もカーティスの行動を
見て見ぬふりをするのだ。

もしかしたらこれぐらい
ベッタリしないと私は勝手に出て行くと
思われているのかもしれない。

私はパンをもぐもぐ食べながら
どうやって隣国に戻ると言いだそうか考えた。

考えていると、カーティスが
私を引き寄せて頭を撫でる。

「ユウ? 何か考えごと?」

「あ、うん。
一度、隣国に戻ろうかと思って……」

上手い言い方を考えていたのに、
急に聞かれて、つい、思っていたことを
そのまま口にしてしまった。

カーティスの動きが止まる。

「隣国?
そんな必要、ある?」

怖い、怖い。
そんな怖い目で見ないで。

私はカーティスから視線を外し、
逆方向に座るヴァレリアンを見た。

「あのね、パパ先生……私の
お父さんを連れて来たいの。

バーナードにも会ってもらいたいし、
バーナードの結婚式に間に合えば
そのままこの国の人たちと意見交換だってできるでしょ?」

「ユウの父親か!
そうだな、挨拶は必要だ」

ヴァレリアンが何か言う前に
カーティスが私の腕を引いた。

「わかった。最高のもてなしをしよう」

「いや、パパ先生はそんなのは……」

遠慮すると思う、と言ったけれど、
たぶん、カーティスは聞いてなかった。

だってすぐに立ちあがって、
「父に話をしてくる」と部屋から出て行ったのだ。

誰も何も言えなかった。

「あー、それで、いつ行くんだ?」

カーティスが飛び出した扉が閉まってから、
ヴァレリアンが話を続ける。

「うん、すぐにでも出ようと思うの。
パパ先生を連れて、
この部屋に戻ってくるつもりだから
何も準備してもらう必要はないよ」

もてなしは必要ない、と一応言っておく。

「わかった。
必要なものはあるか?」

私は首を振る。
私一人なら『力』があるので
たいていのことなら何でもできる。

「だがユウが作る『道』はユウしか
通れないんだろう?

ユウのお父さんは一緒に来れるのか?」

ケインが鋭い質問をする。

「えっと、パパ先生は私と一緒の、
この世界とは別の世界から来たし
私の元の世界の女神に認められた人なの。

女神から『賢者』の称号を貰ってるんだよ」

だからなのだと言いたかったのだけど
理解してもらえただろうか。

論点がズレているのは、わざとだ。
だって、私と一緒だったら
誰でも『空間』を渡ることができるのだから。

ケインはそうか、と呟くだけだったけど、
エルヴィンが凄い!と大きな声を出した。

「ユウちゃんは女神の愛し子で
お父さんは、賢者様か。
すごい家族なんだな」

なんか違う気もするけれど、
私は笑ってごまかすことにした。

ぜーんぶ、私やパパ先生が望んだのではなく
女神ちゃんのせいでこんなことに
なっているんだけどね。

「じゃあ、ユウちゃんは
あの食器棚から隣国に行くんだよな?」

エルヴィンがワクワクしたような顔で言う。

「食器棚と隣国が繋がってるなんて
不思議だ……魔力とかも関係ないようだったし」

その隣で、ケインが呟くように言う。

いや、食器棚は関係ないんだけど、と
言おうと思ったけれど、
「俺、また食器棚が、女神の道になるの
めちゃくちゃみたい!」
と嬉しそうに言うエルヴィンの声に
口を開くのをやめた。

食器棚から行かないと、
申しわけない気がしてきたからだ。

「じゃあ、行くのなら、
何か持って行きたいものはあるか?」

ヴァレリアンが聞いてきた。

「ない……かな。
逆にこの国も何も決まってないだろうし、
国同士の話合いをするために
パパ先生に来てもらうようなものだから」

「どれぐらいで帰ってくるの?」

エルヴィンが不安そうに言う。

「バーナードの結婚式は3日後だから
それまでには絶対に戻ってくるよ。

パパ先生にこの国に
一緒に来るように誘って、
その準備が終わったらすぐに戻ってくる」

「わかった」

ヴァレリアンが頷いた。

「よし」

私は立ち上がる。

スタンリーとバーナードにも
話をしてから、と思ったけれど
早めに出発した方が、
早く戻ってこれると思う。

「じゃあ、今から行ってくる」

私がそう言うと皆は驚いたように
目を見開いだ。

「早く行った方が、早く戻ってこれるから」

でも私がそう言うと、
皆は納得したように頷いてくれた。

朝ご飯は食べたし、着替えもしている。

女神の地図を見た限りでは、
この世界はそんなに広くないので
時差があるような感じではない。

つまり、今すぐにパパ先生の所に行けば
パパ先生の所も朝だということだ。

……あの長い『空間』をまた歩くのかと
うんざりしてしまうけれど。

いや、待てよ?

私は『力』のコントロールが出来なかったから
今まではあんな感じになってしまっていたけれど。

私がちゃんとイメージできたら
『空間』の距離も縮めることができるかも?

私の『力』は創造力が重要だ。

今までは、パパ先生の家のキッチン、とか
『大聖樹の宮』の私の部屋とか
そんな感じでイメージしていたけれど。

もっと詳細にイメージしたらどうだろう。

たとえば、パパ先生の家のキッチンの扉。
朝起きて、顔を洗って、そのドアを開けたら
必ずパパ先生がお茶を淹れながら待っていてくれて、
「おはよう」って言ってくれる、あの扉。

私は何度も何度も開けた扉を思い浮かべた。
ずっと無意識に触れていただけの、
金属製の扉の取っ手や、扉の木の感触。
ドアを開けた瞬間の空気まで思い出す。

そして私は食器棚の前に立つと、
わざと軽い調子で「行ってきます」と言って笑った。

皆は慌てたように立ち上がって
私のところに来ようとしたけれど
私は大丈夫、とそれを手で制した。

あまり『空間』を見られたくないからだ。

私は体を巡る『力』に意識を集中させる。
そして、扉だ。

開けたら、パパ先生の笑顔があるあの扉。

開けたら、
「おはよう、悠子ちゃん」って
暖かい湯気の出る紅茶のポットを持って
笑いかけてくれる、あの扉。

私はパパ先生を思い出しながら
『力』を発動させる。

指先から、淡い光が出て来た。
きっと光は全身に巡るのだろう。

よし。

私は深呼吸をして、勢いよく扉を開けた。






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