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愛があるれる世界

295:出発

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 私の言葉を聞き、
パパ先生は目を見開いた。

「帰る?
隣国へ……?」

戸惑うような声に、
私は言い直した。

「帰る……のは違う?かな?
じゃあ。戻る、かな?」

帰るのはパパ先生のところだもんね。
そう言うと、パパ先生は
少しだけ表情をやわらげた。

そして、どういうことか
説明してくれる?と
言いながら私を椅子に座らせる。

そして目の前にあった大きなケーキを
切り分け、お茶を淹れてくれた。

その間、私はどう説明しようかと
必死で考えた。

だって、たぶん。
私がになれるのは
今しかない。

ディランもマイクもいない。
まぁ、パパ先生はいるけれど、
二人みたいに私にベッタリではない。

あの二人がいないところで、
ヴァレリアンやカーティス、
スタンリーたち金聖騎士団の皆と
ちゃんと話がしたいと思ったのだ。

あの時。
あの国を出る時私は
ヴァレリアンたちに会わずに
国を出ることを選んだ。

それが一番良いと思ったし、
国王陛下だってそれを望んでいた。

だって国王陛下はマイクに
金聖騎士団の皆を置いて国を出ること。
そしてマイクの家族を人質にして、
必ず国に私を国に戻すようにと
命じたのだ。

王命を拒否すれば、
一族すべてが処分される。

あの時私は、まさか
ヴァレリアンたちの家族から
そんなことをされるとは
思っていなかったから、
物凄く傷ついた。

私は『女神の愛し子』だから
無条件で受け入れて貰えると
なんとなく思っていた。

だって国王陛下はカーティスのお父さんだし。

でも違った。
国王陛下は息子と女神の愛し子わたしを天秤にかけて
私を切り捨てた。

頭では仕方ないと理解していた。

他国のことに
金聖騎士団の皆を関わらせては
いけないと思っていたから。

でも私はどこかで私は甘えていた。

『女神の愛し子』と呼ばれ、
この世界に来た時から皆に
大事に、大切に愛された私は
この世界の全ての人が
私を受け入れてくれると漠然と思っていた。

誰もが私に甘く、
親切にしてくれると
そう思っていたのだ。

でも違った。

<闇の魔素>を取り込んで
利用しようとしていた人間たちと
争った後だからかもしれない。

その時の私はとにかく
愛されたかったと言うか
甘えたい気分だった。

そんなふわふわした気分の時に
『大聖樹の宮』に戻り、
ヴァレリアンたちのお父さんに会って
家族というか、親戚の人おじさんと
出会ったような気分になって。

それなのに、すぐに「出ていけ」と
言われて私は拗ねた。

そう、拗ねたんだ。

だから置手紙だけ置いて
マイクとディランを連れて城を出た。

こっそり隠れて、
見つからないように、
金聖騎士団の皆から逃げた。

あの時の私は、きっと
国王陛下たちに言われた言葉を、
ヴァレリアンたちに
言われたと感じたんだと思う。

そんなことないのに、
ヴァレリアンたちは絶対に
そんなこと言わないのに。

私はヴァレリアンたちにも
拒絶されたような気がした。

だから意地になって隠れて、
皆に見つからないように
必死になった。

皆が他国のことに関わることは
避けた方が良いとは思っていたし、
最初から皆を置いて行くことは決めていた。

でも、もっと違った形で
出ていくつもりではあった。

ちゃんと説明して、
互いに納得する形で出て行きたかった。

あの時は国王陛下たちに
怒ってたし、拗ねてたから
何も考えずに行動できたけれど。

冷静になった今は、
正直、金聖騎士団の皆の所に
戻るのは、少し怖い。

もしみんなが私に対して
怒ったり失望したり、
嫌ったりしていたら、と思ってしまう。

それに国王陛下の態度で
私もあの国に対する印象が
随分と変わってしまった。

だからこそ、私は皆に会い、
話をしたいと思ったのだ。

そしてそれは一人でなければならない。

マイクやディランがそばにいたら
二人は絶対に私を庇い、
守ろうとしてくれると思うけど、
それでは、私の言葉は
ヴァレリアンたち金聖騎士団の皆には
ちゃんと伝わらないと思うから。

私はずっと誰かに嫌われることが怖くて
行動することができなかった。

でも今は違う。

一人で金聖騎士団の皆に
会いに行こうと思うことができる。

それはマイクと
生まれた勇気だった。

そう、のではない。
んだ。

ただ快楽を追うのでもなく、
一方的に愛されるのでもない。

私は愛され、そして自分から愛したのだ。

誰に嫌われ、拒否されたとしても。
女神ちゃんでさえも管理できないところで
私はマイクに愛されたことで、
そして自分から心を開き、受け入れ、
愛したことで「嫌われる」恐怖から
解放された。

私はすべてをパパ先生に
説明することはできなかったけれど
パパ先生は私の変化に気がついたようだった。

「あの時、悠子ちゃんと彼を
二人っきりにしてあげたのが
良かったのかな」

なんてチョコレートケーキを食べながら言う。

「パパ先生、ありがとね」

私もケーキを食べながら言った。

目を見てお礼を言うのは恥ずかしかったから。

そんな私の気持ちだって
パパ先生はわかってるよ、と言いたげに
手を伸ばして髪を撫でてくれる。

「いい子だね、悠子ちゃん。
わかった。
じゃあ、行っておいで。
ただし、必ず帰ってくること」

「うん、ありがとう、パパ先生」

私はケーキを飲み込み、
お茶を飲む。

「そうそう、もしできたら
女神の地図を持って行って
隣国からこちらに続く道を作れるか
聞いてきてくれるかい?

こちら側から道を伸ばすのは
今の段階だと難しいしね。

すぐに道を作るのが難しいのであれば、
獣道のような……人が数人だけでも
通れるようなものでもあれば、
まずは交流はできるだろうし。

できるだけ友好関係を築きたいのは
お互い様だろうけど、
この国の状況を伝えて、
隣国がこの国のことをどう考えて
どうしようと思っているのかを
調べてきて欲しい」

え?
なんかそれ、物凄く重要な役割なのでは?

私にできるかな。

パパ先生に「頼んだよ」と言われれば、
私は頷くしかない。

おかしいな。
金聖騎士団の皆と仲直りしたいとか、
なんかそう言うことを
解決するために行くつもりだったのに、
重大な、国を動かす情報を掴む任務を
得たような感じになっている。

大丈夫かな?

私は不安になりつつ、
残っている紅茶を飲み干した。






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