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獣人の国
288:完成
しおりを挟む最終の打ち合わせをしてから
一週間が過ぎた。
住民たちへの説明も済み、
避難する区画の順番も決まっている。
マイクの案と、一気にしてしまおうという
私の案を折衷して、東西の区画を午前に。
南北の区画を午後に広げることにした。
私が『力』を使う場所は
『聖樹』の前だ。
教会でも良かったけれど、
住民たちに広く認知されるように
公開できる場所ということで
『聖樹』の前に決めたのだ。
どんな街を創るのか、
私はずっとイメージトレーニングを積んできた。
だって私の想像力で
すべてが決まるんだもの。
地図を作り、どんな建物を作るのか。
デビアンさんは地図だけでなく、
小さなジオラマみたいなものも作ってくれて
私がきちんと想像できるようにしてくれたのだ。
ただ、いざ『力』を使う時に
ど忘れたら大変なので
そのジオラマは『聖樹』の前に並べている。
『聖樹』の前に集まる住民は、
新しく広げる区画の人たちだけ。
つまり、避難のために
『聖樹』の所に集まっていることになる。
それ以外の人たちは
自分たちの家で待機するように
お願いをしていた。
そして新しい区画に住む人たちは
お年寄りや子供などの人数や
家族構成を考慮し、
優先順位を付けた後に
希望者を募って役所で抽選にした。
もともと住民が溢れ余っていたので、
場所を広げて移住したとしても、
元々住んでいた家が空き家になることはない。
役所や図書館、教会など、
新しい区画には必要なものも配置するので
これからこの国は随分と住みやすくなると思う。
「悠……ちゃん」
パパ先生が私に声を掛けてくれた。
人前ではユウと呼ぶはずなのに、
パパ先生はいつも悠子という名で
私を呼ぶから、人前で私を呼ぶときは
なんとなく、ぎこちない。
「大丈夫かい?」
『聖樹』の前は住民たちが
入ることができないように
ロープが張られ、その中に
私やパパ先生、マイクやディラン、
デビアンさんが率いる王宮関係者の
人たちがいる。
私は聖女っぽい白いローブを着て
『聖樹』の前に立っていた。
「大丈夫です。
人が多くて緊張はしてますけど、
女神ちゃんの『力』を使うだけですから」
すでに女神が教会に
「セイジョに力を貸し与える」と
ご神託は降りている。
あとは、自分のすべきことをやるだけだ。
私のそばにパパ先生はいるけれど
ディランもマイクも、一歩下がった場所で
私を見つめている。
パパ先生が私の気が散るからと
二人を、というか、すべての人を
私のそばから遠ざけたのだ。
カーン、カーンと教会の鐘が鳴る音がする。
時間だ。
パパ先生は私の背中にそっと触れた。
「もし間違ってもやり直せばいいだけだから
気負わなくても大丈夫だよ」
「……そう、ですね」
確かにそうかも。
女神ちゃんの『力』は無限みたいなものだし。
そう思うと、プレッシャーがかなり減った。
「じゃあ、いきます」
私は深呼吸をした。
パパ先生が私のそばから離れる。
目を閉じて、体の中を巡る『力』に
意識を集中させる。
女神ちゃんの『力』。
「無から有」へ。
生みだす力だ。
そして頭の中で今から作る街並みをイメージする。
ちらりと、ジオラマを見ることも忘れない。
ただ街を創るというだけでなく、
私は自分がその新しい街を歩いている姿を想像した。
ジオラマを見ながら想像していたように、
大通りを歩いて、左右にお店、奥に図書館、
真ん中に公園、と思い描く。
私の体が淡く光、それに呼応するように
『聖樹』も光りはじめた。
おぉ!って観衆の声が聞こえたけれど
私は夢中で頭の中で新しい街を歩いて行く。
そして街の隅から隅まで歩き終わった時、
よし、と私は手を叩いた。
瞬間、まぶしいほどの光が、
私と聖樹から放たれた。
そして、次第に光が無くなった後、
デビアンさんが傍にいた人に何か指示を出すのが
横目に見える。
パパ先生が私に駆け寄り、
お疲れ様、と肩を抱いて『聖樹』のそばに
準備していた椅子に座らせてくれた。
すぐにマイクが冷たい水を出してくれて
ディランが心配そうに
タオルを渡してくれる。
上手くいっただろうか。
緊張がその場を支配していて
誰も何も言わない。
が。
デビアンさんが指示した人が
走って戻って来た。
「新しい街、できてました!」
その叫び声に、周囲にいた人たちは
大きな歓声を上げた。
俺んち、見に行こう!
引っ越ししなくっちゃ!
なんて声が聞こえてくる。
これで住民たちがこの場から去り、
落ち着いたころ、次の区画を広げる。
あと3回、同じことをすれば完了だ。
「ユウさま、さすがでございます」
マイクが地面に膝を付き、
私に微笑みかけてくる。
「疲れてないか? 何か食うか?」
とディランも身をかがめて私と
視線を合わせて来た。
「大丈夫、ありがとう。
もっと疲れると思ったけど
全然、へーきだった」
強がりでは無くて、本当にそう思った。
さすが女神の『力』だけある。
<愛>をエネルギーにしている『力』は
使ったらすぐに減るのがわかったけれど、
女神の『力』は減った感覚もないし、
疲れたと言う感じもない。
これが神の力か。
万能感とでも言えばいいのか、
何でもできそうな気になってしまう。
いや、そんなことしたらダメなんだろうけど。
悪い人がこの『力』を手に入れたら
絶対良くないことに使うよ、と
私は心の中で女神ちゃんに呟いた。
考えなしに何でも突っ走っちゃう女神ちゃん。
私がこの世界で生きていくことを決めたって
この件が終わったら報告しよう。
きっと喜んでくれると思う。
よし、頑張ろう。
私は気合を入れ直すと、
次の区画のジオラマと地図を
マイクとディランに言って持って来てもらった。
いくらやり直せるからと言って、
間違えないようにしなくっちゃね。
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