上 下
289 / 355
獣人の国

288:完成

しおりを挟む


 最終の打ち合わせをしてから
一週間が過ぎた。

住民たちへの説明も済み、
避難する区画の順番も決まっている。

マイクの案と、一気にしてしまおうという
私の案を折衷して、東西の区画を午前に。
南北の区画を午後に広げることにした。

私が『力』を使う場所は
『聖樹』の前だ。

教会でも良かったけれど、
住民たちに広く認知されるように
公開できる場所ということで
『聖樹』の前に決めたのだ。

どんな街を創るのか、
私はずっとイメージトレーニングを積んできた。

だって私の想像力で
すべてが決まるんだもの。

地図を作り、どんな建物を作るのか。
デビアンさんは地図だけでなく、
小さなジオラマみたいなものも作ってくれて
私がきちんと想像できるようにしてくれたのだ。

ただ、いざ『力』を使う時に
ど忘れたら大変なので
そのジオラマは『聖樹』の前に並べている。

『聖樹』の前に集まる住民は、
新しく広げる区画の人たちだけ。

つまり、避難のために
『聖樹』の所に集まっていることになる。

それ以外の人たちは
自分たちの家で待機するように
お願いをしていた。

そして新しい区画に住む人たちは
お年寄りや子供などの人数や
家族構成を考慮し、
優先順位を付けた後に
希望者を募って役所で抽選にした。

もともと住民が溢れ余っていたので、
場所を広げて移住したとしても、
元々住んでいた家が空き家になることはない。

役所や図書館、教会など、
新しい区画には必要なものも配置するので
これからこの国は随分と住みやすくなると思う。

「悠……ちゃん」

パパ先生が私に声を掛けてくれた。

人前ではユウと呼ぶはずなのに、
パパ先生はいつも悠子という名で
私を呼ぶから、人前で私を呼ぶときは
なんとなく、ぎこちない。

「大丈夫かい?」

『聖樹』の前は住民たちが
入ることができないように
ロープが張られ、その中に
私やパパ先生、マイクやディラン、
デビアンさんが率いる王宮関係者の
人たちがいる。

私は聖女っぽい白いローブを着て
『聖樹』の前に立っていた。

「大丈夫です。
人が多くて緊張はしてますけど、
女神ちゃんの『力』を使うだけですから」

すでに女神が教会に
「セイジョに力を貸し与える」と
ご神託は降りている。

あとは、自分のすべきことをやるだけだ。

私のそばにパパ先生はいるけれど
ディランもマイクも、一歩下がった場所で
私を見つめている。

パパ先生が私の気が散るからと
二人を、というか、すべての人を
私のそばから遠ざけたのだ。

カーン、カーンと教会の鐘が鳴る音がする。

時間だ。

パパ先生は私の背中にそっと触れた。

「もし間違ってもやり直せばいいだけだから
気負わなくても大丈夫だよ」

「……そう、ですね」

確かにそうかも。
女神ちゃんの『力』は無限みたいなものだし。

そう思うと、プレッシャーがかなり減った。

「じゃあ、いきます」

私は深呼吸をした。

パパ先生が私のそばから離れる。

目を閉じて、体の中を巡る『力』に
意識を集中させる。

女神ちゃんの『力』。
「無から有」へ。
生みだす力だ。

そして頭の中で今から作る街並みをイメージする。
ちらりと、ジオラマを見ることも忘れない。

ただ街を創るというだけでなく、
私は自分がその新しい街を歩いている姿を想像した。

ジオラマを見ながら想像していたように、
大通りを歩いて、左右にお店、奥に図書館、
真ん中に公園、と思い描く。

私の体が淡く光、それに呼応するように
『聖樹』も光りはじめた。

おぉ!って観衆の声が聞こえたけれど
私は夢中で頭の中で新しい街を歩いて行く。

そして街の隅から隅まで歩き終わった時、
よし、と私は手を叩いた。

瞬間、まぶしいほどの光が、
私と聖樹から放たれた。

そして、次第に光が無くなった後、
デビアンさんが傍にいた人に何か指示を出すのが
横目に見える。

パパ先生が私に駆け寄り、
お疲れ様、と肩を抱いて『聖樹』のそばに
準備していた椅子に座らせてくれた。

すぐにマイクが冷たい水を出してくれて
ディランが心配そうに
タオルを渡してくれる。

上手くいっただろうか。

緊張がその場を支配していて
誰も何も言わない。

が。

デビアンさんが指示した人が
走って戻って来た。

「新しい街、できてました!」

その叫び声に、周囲にいた人たちは
大きな歓声を上げた。

俺んち、見に行こう!
引っ越ししなくっちゃ!

なんて声が聞こえてくる。

これで住民たちがこの場から去り、
落ち着いたころ、次の区画を広げる。

あと3回、同じことをすれば完了だ。

「ユウさま、さすがでございます」

マイクが地面に膝を付き、
私に微笑みかけてくる。

「疲れてないか? 何か食うか?」
とディランも身をかがめて私と
視線を合わせて来た。

「大丈夫、ありがとう。
もっと疲れると思ったけど
全然、へーきだった」

強がりでは無くて、本当にそう思った。
さすが女神の『力』だけある。

<愛>をエネルギーにしている『力』は
使ったらすぐに減るのがわかったけれど、
女神の『力』は減った感覚もないし、
疲れたと言う感じもない。

これが神の力か。

万能感とでも言えばいいのか、
何でもできそうな気になってしまう。

いや、そんなことしたらダメなんだろうけど。

悪い人がこの『力』を手に入れたら
絶対良くないことに使うよ、と
私は心の中で女神ちゃんに呟いた。

考えなしに何でも突っ走っちゃう女神ちゃん。

私がこの世界で生きていくことを決めたって
この件が終わったら報告しよう。

きっと喜んでくれると思う。

よし、頑張ろう。

私は気合を入れ直すと、
次の区画のジオラマと地図を
マイクとディランに言って持って来てもらった。

いくらやり直せるからと言って、
間違えないようにしなくっちゃね。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。 同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。 挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。 リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。 一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。 「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」 甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!

運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。 おっさんα✕お馬鹿主人公Ω おふざけラブコメBL小説です。 話が進むほどふざけてます。 ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡ ムーンライトノベルさんでも公開してます。

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

絶頂の快感にとろける男の子たち【2023年短編】

ゆめゆき
BL
2023年に書いたものを大体まとめました。セックスに夢中になっちゃう男の子たちの話 しっちゃかめっちゃかなシチュエーション。 個別に投稿していたものにお気に入り、しおりして下さった方、ありがとうございました!

処理中です...