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獣人の国

280:可愛らしい私のユウさま2【マイクSIDE】

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 私は自分に何が起こったのか
理解できずに固まった。

ユウさまが私に口づけされたのだ。

今まで何度も唇を重ねたことはある。
肌も重ねた。

けれども、そのどれとも違うと
私は感じた。

情事でのユウさまは、
我を忘れたように快楽に流され
私を求めて下さったが、
それとは違う。

ユウさまは意志のある瞳で
私を見つめて、口づけたのだ。

今はユウさまの甘い蜜の香りもしない。

あの甘い香りを嗅ぐと、
ユウさまだけでなく、私もまた
理性を無くしてユウさまを求めてしまう。

だが、今は。
ユウさまが、私を求めているのだと。

快楽に溺れ、流されるのではなく
ユウさまの意志で私を求めたのだと
そう自惚れても構わないだろうか。

私が惚けていたせいか、
ユウさまが私の腕の中から離れようとする。

私は慌ててユウさまを抱きしめた。

「ユウ……さま」

赤く染まったユウさまの頬に触れた。
恥ずかしそうに染まる頬は、
私のためだと思いたい。

「このまま……触れても?」

指先だけでなく、声も震えてしまった。

だがユウさまは、優しく頷いてくださった。

あぁ、女神よ。

あなたの愛し子を、
狂おしいほど愛した私をお赦しください。

優しく、誰よりも慈しもうと誓ったのに。

私は我慢できずに、
乱暴ともいえる仕草でユウさまに口づけた。

いつも私の前であやつがするように。
ユウさまの全てを奪うような口づけを。

ユウさまの唇を舐め、吸い、
うっすらと開いた口の中に舌を潜り込ませる。

唾液が垂れても気にならない。

ユウさまの舌に、舌を絡め、
口内をまさぐり、
ユウさまの唾液をすすった。

そんな私の乱暴な口付さえも
ユウさまは受け入れたかのように
私の背に腕を回してしがみついた。

そんな姿も愛おしく、嬉しくて。
私はユウさまが、息継ぎが出来ずに
ぐったりとするまで、ユウさまの舌を味わった。

唇を離しても私はユウさまの髪を撫で、
頬に触れ、そのぬくもりを味わう。

するとユウさまが私から少しだけ離れて
私の瞳を見つめた。

「1つだけ、聞いていい?」

「なんなりと」

ユウさまの不安そうな声に、
できるだけ優しく頷く。

「もし私が……この世界を
救うことが出来なかったとしたら。

それでもマイクは一緒にいてくれる?」

そんなことか、と思った。
そしてそんな不安など無くなるぐらいに
もっとユウさまを愛したいとも思う。

「この命が尽きるまで、
赦されるのであれば、命が尽きてもなお、
どうぞお傍に」

頭を下げると、ユウさまは涙で瞳を潤ませた。

「私は……マイクに甘えてるんだと思う」

ごめんね、と言われ私は首を振った。
甘えでもなんでも構わない。
私はユウさまのお傍で、愛し、お支えしたいのだ。

もちろん、私だけを愛して欲しいという欲はある。
けれど、その愛を求めることで
ユウさまと離れなければならないのであれば、
私はいくらでも、我慢できる。

愛を押さえ込み……そう、あのディランと共に
ユウさまを愛することさえ、
私はできるのだ。

そんな私にユウさまは言う。

「私は……マイクと同じ気持ちを
返せないかもしれない。

マイクにそばにいて欲しいと思うけれど、
この気持ちが何なのかわからない。

でも、マイクは私にとって特別……なの。
ヴァイオリンたち金聖騎士団の皆とも
ディランとも、パパ先生とも違うから」

その気持ちは、愛、ではないのか。
自覚はないだけで、ユウさまは
私を愛してくださっている。

そうにしか聞こえない。

「私が今、自分から触れたいと思うのは、
マイクだけ」

もう、どれほどの言葉で、
私を喜ばせるというのか。

こんな言葉をユウさまから聞くことができるとは。

「もう……死んでも構わない」

私はユウさまを強く抱きしめたる。

このままユウさまを愛したい。
抱き合いたい。

だが、いくら肌に触れる許可を
頂いているとはいえ、
いきなりそんなことはできない。

雰囲気というのもあるだろうし、
私からユウさまをお誘いするなど……

ディランであれば、たやすいのだろうが。

だが、抱きたい。
この可愛らしい肌を味わいたい。

そう思っていたからか、
ユウさまが私の体から驚いた様子で離れた。

私の醜い欲を知られてしまったのかと
内心焦りながら、平静を装って
「どうされましたか?と聞いてみる。

だが、ユウさまは何も言わない。

心配になり、ユウさまのお顔を
下から覗き込むと、ユウさまの顔が
真赤になった。

「あ、あの、あのね」

狼狽えたように、ユウさまが
私の顔を見て言う。

「こ、ここ……が、なんか変……で」

ユウさまが小さな手をお腹に当てた。

「何もしてないのに、
その、急に……」

「お腹が痛いのですか?」

まさか、先ほど飲んだお茶のせいで!?

と思ったが、ユウさまは違うという。

そして私の手を取ったかと思うと、
なんと、ユウさまは私の手を
自身の樹幹に触れさせたのだ。

布越しでも、そこが反応し、
固くなってきているのがわかった。

「な、なんか、変、でしょ?」

ずい、っと私の手を押し戻したユウさまは
真赤な顔で俯いてしまう。

可愛らしい反応だが、私は驚きを隠せない。

何故ならユウさまは何度も情事を
重ねてきたはずだ。

私とだけでも、何度も、だ。
なのに、今初めて性を知ったかのように
ユウさまは頬を染めて狼狽えている。

「その状態になったこと……いえ、
自覚されたのは、初めてでしょうか」

まさかと思って訪ねてみたが、
ユウさまは頷いた。

「いつもは、よくわからなくなるから」
とユウさまは言ったが
おそらくは、快楽に流され
わけがわからなくなるということなのだろう。

つまり、誰かを意識して、
のは
初めてだということになる。

初めて。
ユウさまが意識した人間は、
私が初めてなのだ。

「そうでしたか」

私はユウさまを立ち上がらせた。

こんな嬉しいことはない。
そして、ユウさまを安心させることが
できるのも、私しかいない筈だ。

「初めてのことで不安になってしまったようですね」

私がユウさまに閨事をお教えしよう。

私も閨事は学んだことはあるが、
実践するのはユウさまが初めてだった。

だから、知識ばかりで感情が先走り、
実際にはうまくいかないことも多いが、
それでも、ユウさまにお教えできることはあると思う。

どのような内容であっても、
知識を学ぶことに置いて私の右に出るものは
いなかったのだから。

「では、不安を私が取り払いましょう」

私はユウさまが不安に思わないように
あえて笑顔で言う。

「知らないから不安になるのです。
知識があれば、今後、同じようなことが
起こっても不安になることは無いはずです」

真面目に言うと、
ユウさまは納得したような顔になる。

あまりにも素直な様子に
私以外の誰かに騙されないかと心配にもなるが、
そんなことが起こらないよう
私がしっかりとお守りしよう。

私はそう誓い、
ユウさまを湯殿へとお連れした。


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