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獣人の国

270:力と愛と【賢者SIDE】

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 僕は突然、真っ白な世界に呼び出され驚いた。
何が起こったのかわからなかったが、
咄嗟に悠子ちゃんの腕を掴み、
離れないように抱き込む。

だが、悠子ちゃんにとっては
この白い世界は馴染みのある世界のようで
僕の腕に中で声高らかに
あの女神に対して何やら文句を言っている。

それでこの世界は女神の世界なのだと認識した。

それから、あれよあれよと女神の茶会という名の
報告会に参加することになった。

地球の女神だという神は美しく、
聡明な印象を受けた。

だが、あの女神を指導しているからだろう。
どこか疲れている雰囲気もある。

大変そうだな、と他人事のように思っていたが、
その地球の女神の話を聞いて
僕は呆然とした。

そして同情した。

地球の女神に。
あの世界の人々に。

悠子ちゃんも、あの女神には
振り回されてばかりだと苦笑していたが
そんなことは可愛いものだ。

誰が、自分が生きている世界が
と思うのか。

獣人の国の周囲は、魔素とやらで
人間たちは移動できないように
なっているらしいが、
もし頑張ってその先に進んだとしても
何もない白い空間が広がっているに違いない。

今僕たちがいるこの世界のように。

そっと悠子ちゃんを見ると、
さすがに呆れたような顔をしていた。

でも怒っている様子はない。

いつものように「仕方がない」と
受け入れているのだろう。

それにしても、あの女神は
本当にでいいのだろうか。

あまりにも無計画すぎる。

こうなってくると、悠子ちゃんが
この世界に来る意味があったのかどうか……。

いや、そこまで考えてしまうとダメだ。
良くない結論がでてしまうにちがいない。

僕が内心、葛藤していると、
女神が僕たちに、あの国の人間たちが
不安や疑問を起こさないように
周囲の魔素を消す方法はないかと聞いてきた。

あるにはある。
というか、僕はもともと
女神に提案しようと思っていた案があった。

だからそれを話したのだけれど。
折角だ。

もう少し深い話をしたい。
悠子ちゃんと、あの世界について。

僕は思い切って地球の女神を
正面から見据えた。

相手は神様だからとか、
そんなことは思わない。

だって、神だからと言って
ということは
あのメイド女神で充分、理解している。

だからこそ、聞いておきたいのだ。

「あの世界が正常通りに動くようになったら
悠子ちゃんの『力』はどうなりますか?」

そう聞くと、地球の女神は
何がいいたいのか? と言う顔をした。

だから僕はもう少し話を掘り下げる。

「悠子ちゃんの『力』は
あの世界を救うためのものでした。

多くの人間から愛されることで
悠子ちゃんは『力』を使う。

けれど『力』を使う必要が無くなれば
彼女は多くの人間から愛される必要はない。

彼女に与えられた『祝福』も必要ない。

元の世界にもどらないのであれば、
あの世界で、ただの人間として
平穏に過ごすことができると思うのです」

悠子ちゃんが息を飲む音がした。

そっと悠子ちゃんに視線を送り、
大丈夫だと笑って見せる。

「すべてが終わったら
彼女の『力』を引き取ってもらえますか?」

沈黙が、流れた。

地球の女神は何やら考える素振りをする。
けれど。

『嫌じゃ!』

返事をしたのは、あのメイド女神だった。

『嫌じゃ!
ユウはわしが初めてできた友だちなんじゃ!
『祝福』や『力』が無くなったら
もうわしと会えなくなる。
そんなの嫌じゃっ』

子どものようにわめき、
メイド女神は涙目で悠子ちゃんを見た。

『ユウ、ユウはわしの友達じゃろ?
一緒にお茶を飲んで、おしゃべりしたじゃろ?
そして、国を創る手助けをしてくれるんじゃろう?』

必死な様子に、さすがに僕も驚いた。

悠子ちゃんは気に入られているとは思ったが
これはかなりのものだ。

いいのか?
神様が、ただの人間にそんなに依存して。

僕は地球の女神を見たが、
どうやら彼女もこの反応は想定外だったらしく
驚いたように固まっている。

こんな流れになったら、
優しい悠子ちゃんは絶対に
「ずっと一緒にいようね、友達だもの」
なんて言い出すに違いない。

と思ったら、案の定、悠子ちゃんは
「女神ちゃん、そんなに私のことを……」
と目をうるうるさせている。

ダメだ。
これ以上、悠子ちゃんに
しゃべらしたら、良くない方行に
話が向かってしまう。

「女神ちゃ……」

「悠子ちゃん!」

僕は悠子ちゃんの声を遮るように
大きな声を出した。

驚いて悠子ちゃんが僕を見る。

「悠子ちゃんは、愛する人と。
ただ一人の最愛の人と愛し愛される
そんな人生をおくりたいんだよね?」

確認するように言う。
今ここで、それを言わなければ
なし崩しに女神たちに利用されてしまう。

僕はそう思い、必死だった。

「悠子ちゃんは、本当の姿も、性別も、
過去も、すべてを捨ててあの世界に行ったんだ。

ならば、すべてが終わったら
君がやりたかったこと、欲しかったものを
手にしてもいいと僕は思う。

……違いますか?」

最後は女神たちを見て言った。

女神たちだって、悠子ちゃんを
犠牲にしていることは気が付いている筈だ。

『そう、ね』

地球の女神は頷いた。

『あなたの言うことはもっともだわ。
ただ、神の『力』を人間に与えた前例は
今まで一つもないの。

だから『祝福』は外せるかもしれないけれど
それ以外のことは今はわからないとしか
言えないわ』

「それは『力』を外す努力は
していただけるという意味でしょうか」

うやむやにならないように、僕は念押しする。

『ええ、努力はするわ。
それは約束する。
それに……気になることもあるしね』

「気になること?」

僕が聞き返すと、地球の女神は
首を振った。

『なんでもないわ。
とにかく今は、あの国のことを
考えましょう。

あなたの案を採用するから
詳細はまたあのノートに書くわね』

僕は頷いた。
とにかく悠子ちゃんの『力』に関して
曖昧にし続けることが無くなったので
とりあえずはよしとしよう。

『あとは……そうね』

女神は悠子ちゃんを見た。

『ユウちゃん。
あなたの『力』のことは
今は置いておいて。
あなたは何か望むものはある?』

一拍置いて、悠子ちゃんは
地球の女神を見た。

「望むものですか?」

『えぇ、あなたには迷惑をかけてるから
何かしてあげたいのだけれど』

そう言われて悠子ちゃんは
戸惑った顔をする。

そして僕の顔を見て、
小さくつぶやいた。

「……これ以上何かを貰うなんて
嫌な予感しかしません」

あまりにも小さな声だったので、
その言葉は、すぐそばに座っていた僕しか
聞こえなかったようだ。

『え? なぁに?』

もう一度言って、と地球の女神は
悠子ちゃんはに聞き返したが、
悠子ちゃんは曖昧に笑うだけだった。




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