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獣人の国
261:賢者の想い2【賢者SIDE】
しおりを挟む僕は悠子ちゃんを抱き上げて
ベットに連れて行く。
大きなベットでは無いけれど、
小柄な悠子ちゃんとだったら
引っ付いて眠れば問題はない。
部屋の明かりを消し、
ベット横にある小さな明りだけを残した。
僕は真っ暗でも問題ないが、
悠子ちゃんがもし暗闇を怖がっては
いけないと思ったからだ。
「さぁ、もう寝よう。
すぐに朝になりそうだけどね」
二人でベットに潜ると、
悠子ちゃんは僕にすり寄ってくる。
そんな些細なことさえ、嬉しい。
寝る前に絵本を読む約束をしていたけれど
絵本を準備する時間がなかったので
僕は即興で物語を作った。
ユウという名のお姫様が
愛されて幸せになる話だ。
悠子ちゃんはウトウトしていたから
聞いていないかもしれない。
それでも、悠子ちゃんはこの世界で
幸せになれるのだと伝えたかった。
背中をゆっくりトントンと叩きながら
僕は悠子ちゃんを見る。
勇くんの姿だったから、
僕は昔の勇くんと悠子ちゃんの
姿を思い出した。
そう、いつだって悠子ちゃんは
勇くんのそばにいて、彼を守っていた。
まさか、その命を懸けてまで
彼を守るなんて。
その理由が『愛されたい』であるのなら
僕の犯してしまった罪は、大きく、重い。
悠子ちゃんに、申し訳ないとか、
勇くんを助けてくれてありがとうとか、
そんな言葉を言うべきかもしれないけれど。
実際に口に出すと、
そんな言葉は物凄く軽く聞こえそうで
僕は悠子ちゃんの髪を撫でる。
そして
「悠子ちゃんは良い子だね」
と呟いた。
僕が感謝してるとか、
謝罪したいとかではなく、
悠子ちゃんを讃える言葉を紡ぐ。
きっと眠る悠子ちゃんには聞こえていない。
だけど、聞いて欲しい。
僕の、今の気持ちを。
「優しい子だ。
我慢強くて、皆を守ろうとする。
けれど、繊細で……。
僕は君を守れるだろうか。
今度こそ、守りたい。
僕の、可愛い愛する娘」
愛する娘。
ずっと言いたかった。
息子の嫁など気にせずに、
養子に迎えてあげればよかった。
赤ん坊のころから君を育てたのに、
僕は息子やその嫁に気を遣い、
君を捨ててしまったのだ。
だから償いたい。
君を幸せにしたい。
もう一度、僕の娘になって欲しい。
本当は、パパ先生、なんて言わず、
パパと呼んで欲しい。
パパ先生と言う呼び方は
息子の嫁が強要した呼び方だから。
そしていつか、
君に僕の名を付けてもらいらたい。
この世界で一緒に生きていくために。
僕は悠子ちゃんを抱き寄せる。
悠子ちゃんの身体はあたたかかった。
そのぬくもりが嬉しくて。
僕がさらに悠子ちゃんの髪に触れようとしたとき、
違和感を覚えた。
まだベットのそばにある明かりは
消していなかったけれど、
やけに悠子ちゃんの髪が、いや
髪だけではない。
身体が、淡く光り出したのだ。
「……悠子、ちゃん?」
どうなっているのかと呟くと、
悠子ちゃんが目を開けた。
眠そうに「パパ先生?」と
言われたけれど、何を言えばいいかわからない。
そんな状態の僕に
悠子ちゃんも自分の身体の異変に
気が付いたようだった。
「え?……っと、光ってる?」
僕と同じように焦る悠子ちゃんに
僕は我に返った。
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悠子ちゃんを不安になんか、させない。
「綺麗だね」
わざと何でもないというように笑って見せる。
それに本当に、綺麗だった。
勇くんは子どもの頃から可愛く、
整った顔立ちの子だった。
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夜だからだろうか。
勇くんの綺麗で、はかなげな顔と
淡い光が幻想的で、
確かに聖女とか言われても
納得しそうだ。
「夜だけど、悠子ちゃんが光ってるなら
部屋の明かりを消しても
きっと不安にはならないね」
上手な言い方が思い浮かばず、
そんなしか言えなかったけれど、
悠子ちゃんは笑った。
不安な表情がやわらいだ。
眠かったのもあると思う。
深く考える前に眠ってしまおう。
「じゃあ、明かりを消して寝よう」
そう言ってベットのそばにあった明かりを消すと、
いっそう、悠子ちゃんの身体は蛍のように輝いて見える。
悠子ちゃんの身体を抱き込むと、
暖かいけれど、熱くはない。
「体温は変わらないみたいだね」
不思議に思うが、
どうせあの女神が関わっているのだろう。
深く考えても仕方ないような気がする。
「明日の朝には消えてたらいいな」
悠子ちゃんはそんなことを言いながら
僕に体を摺り寄せてくる。
可愛いし、保護欲が湧いて来る。
「大丈夫。
僕が何とかしてあげるから
悠子ちゃんは安心して眠ったらいいよ」
そう言うと、すぐに悠子ちゃんから
寝息が聞こえて来た。
可愛い寝息を聞きながら僕は宣言する。
「この国も、この世界の歪みも、
僕がなんとかする。
女神との交渉も、僕がする」
その為に僕はこの世界に来たんだ。
「だから悠子ちゃんは自分の幸せだけを
求めていいんだよ」
誰かを守るのではなく、
欲しかった愛を手にして欲しい。
それは誰でもいいと求めるのではない。
君が本当に愛した人と愛し合う未来だ。
誰かのために遠慮するのではなく、
自分が何が欲しいかを考え、
その為に動いて欲しい。
自分の幸せだけを考えて欲しいんだ、僕は。
規則正しい寝息に僕も眠気を誘われる。
明日はきっと騒がしい一日になるだろう。
悠子ちゃんを好きすぎるあの男たちが
きっとやってくるだろうから。
僕はそんなことを考えながら
眠りに落ちた。
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