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獣人の国

253:女神の提案

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 私は散々愚痴ったあと、
異世界に行ってからの話もした。

この時には、だいぶ冷静になっていて、
目の前のお茶を飲む余裕もあった。

私は喉を潤しながら、
金聖騎士団の皆と出会った時の話から
順番に話をする。

女神ちゃんのミスを言いつけるみたいで
躊躇したけれど、女神は全部話すように
強く言ったので私は口を開いた。

女神ちゃんは諦めたような顔をしている。

まずは男性しかいない世界で、
『幼女で聖女』の設定が残っていることを伝えた。。

おかげで聖女の試練というトラップが
あちこちで発動したし、
現段階でも残っているかもしれないことも
あわせて伝えた。

だってまだ残ってたら
危険だし、女神ちゃんは
どんなトラップをいくつ作って、
いくつ回収したのかも覚えてないんだもの。

これは素直に「助けて!」って言って
良い案件だと思うのよね。

次は見切り発車で『獣人の国』が生まれて
対応に困っていることだ。

『幼女で聖女』設定で国を創ったのに、
途中で獣人設定をがぶちこまれたので
ディランの国は大混乱だ。

人口多寡で、一応私が『聖樹』を
増やすことで解決しそうだけれど、
それは根本的な解決にはならないと思う。

それに今、あの世界にある
二つの国を繋ぐとしても
地図が無いので道を繋ぐことができないし、
獣人の国の周囲にあると言う
闇の魔素を消さないと道が作れないなら
その魔素を生み出している元を
取り除かないとダメだと思う。

そんなことを私は次々に言葉にした。

途中辛らつな言葉になったけど
許して欲しい。

そして最後に私の『力』のことを伝えた。

ことで『力』を
生み出していたけれど、
このままずっと誰かに抱かれる人生なのかとか。

私の体は死んだ勇くんのものだから
成長できるのだろうかとか。

ずっと愛されたかったから、
愛されるのは嬉しいけれど、
何故か満足できないことや、

「愛されたい」から
「愛してみたい」という気持ちになったけど、
私は多くの人に愛されて、
多くの人に愛を返す存在だから
誰かの特別になれても、
私の特別は、作ることができないことに
気が付いたことも。

そんなの最初からわかってたはずなのに、
ようやく私は『多くの人に愛される』という
意味に気が付いたのだ。

私には
持つことができないということに。

私は息を吐く。
大丈夫、ちゃんと冷静に言えてる。

感情的にならないように、
私は一旦、お茶を飲み、
それから女神ちゃんの視線を感じて、
口を開いた。

言わずにいようと思ったけれど、
最後まで、伝えよう。

私が勇くんの結婚式のホログラムを見て、
何故悲しくなったのかを。

私が最愛の人を作ってしまうと、
女神ちゃんの世界を救えない。

だから私は恋人や伴侶と言う存在を
諦めたのに、勇くんの結婚式の姿を見て。

私の体が、顔が、ずっと夢見ていた
ウエディングドレスを着て、
愛されて、幸せそうに笑っている姿を見て、
私は……嫉妬したのだ。

羨ましくて。
物凄く羨ましくて。

……もう元には戻れないのに、
女神ちゃんの世界に行ったことを
私は、一瞬だけど後悔した。

そこまで話すと、
女神ちゃんの顔は真っ青で
涙を浮かべて私を見ている。

ーーー言ってしまった。

女神ちゃんを傷つけた。

でも一人で抱えるには辛くて、
言わずにはいられなかった。

勇くんの幸せを壊す気なんてない。
後悔はしたけれど、
勇くんが幸せそうで
嬉しいと言う気持ちもある。

それに女神ちゃんとの出会いも、
異世界での出会いも、
嬉しいことだし、
愛されて満たされる感覚を
知ることができて喜ばしいことでもあった。

だから、異世界で生きることは
決して嫌ではない。

でも心の中に矛盾した思いが渦巻いて
苦しくて仕方がない。

そんな私を、女神は立ちあがり、
抱きしめてくれた。

『辛かったわね』

腕が背中に回され、
優しく撫でられる。

『もう大丈夫。私がいるわ』

その言葉に、ぽろり、と涙が落ちる。

それは今までの怒りや悲しみの
涙ではなくて。

ずっと言ってもらいたかった
『大丈夫、守ってあげる』の言葉への
喜びから流れたものだった。

女神の腕の中はあたたかかった。
ディランにもマイクにも。
金聖騎士団の皆にも抱きしめられたけど
こんなに安心して、
穏やかな気持ちになったのは
初めてだった。

お母さんってこんな感じなのかな、って
ふと思った。

そう思うと、私の頬には
女神のふくよかな胸のふくらみが当たっていて
女性に抱きしめられたのは
これが初めてだと気が付いた。

少し気恥ずかしくなったけれど、
甘えたい気持ちもあって、
私は素直に女神に子どものようにあやされた。

どれぐらい時間が経っただろう。

私の気分が落ち着いてきたころ、
女神は私から体を離して、
お茶を飲むように勧めてきた。

私は素直にお茶を飲み、
女神に言われるまま、手付かずだった
チョコレートケーキを食べる。

その隣で、女神ちゃんが
ものすごーく女神に叱られていた。

女神ちゃんは、しょんぼりしていて
もういいよ、と言いたくなるぐらい
辛そうな顔をしている。

助けてあげたいけれど、
優しかった筈の女神の顔は、物凄く怖くて
凄い迫力もあって、
とてもじゃないけど口を挟むなど
できそうにない。

だから私はじっと、女神の怒りが
収まるのを待った。

チョコレートケーキを食べ終えて、
お茶のお代わりをして、
ようやく女神が私を見た。

『ユウちゃんだったわね?』

……ちゃん?

「はい」

『状況は理解したわ。
この子の世界は、私がテコ入れします。
このまま私とこの子のを助けてくれるかしら?』

「もちろんです」

拒否するつもりは最初からない。

『そう、よかったわ。
この子はどうしても一度決めたことを
記録することが苦手で、
自分が決めたことを忘れて、
すぐに世界の理を変えちゃうのよね』

それって神としては致命傷だと思います。

言えないけど、心の中で言っておく。

でも女神だから、私の心の声だって
聞こえていたのかもしれない。

だって綺麗な顔が一瞬、歪んで
苦しそうな顔になったもの。

『ユウちゃん、あなたにこれを』

女神は1冊のノートを渡してくれた。

『これから私はこの子の世界の理を
ここに書き示していきます。

私が書いたことは、このノートに示されるので
あなたはそれを見て行動してくれればいいわ。

それにあなたが私に言いたいこと、
聞きたいことがあれば、このノートに
書いてくれればすぐに返事をしてあげる』

すごい。
女神との交換日記だ!

教会に行かないと女神ちゃんと話せないとか
いろんな制約がなくなって
もの凄く便利になった気がする。

『ただし、このノートの存在は
秘密にしておいてね。

あぁ、賢者にだけは見せてもいいわ。

それからノートに書く文字は日本語にしてね』

「日本語に?」

『えぇ、それならこの子の世界の人間には
読めない筈だから』

確かに。
異世界に行った当初は
言葉も文字も通じなくて困ったもんね。

『この子が与えたあなたの力や
祝福のことも、ちゃんと把握して
整理したいのだけど、
この子はあなたに何を与えたかも
覚えていないみたいだから、
時間がかかると思うの』

でしょうねー。
物凄くいい加減にもらったもんね。

『だからまずは、獣人の国の
問題解決と、隣国と道を繋げることを
最優先事項として動きましょう』

おぉ!
なんだか頼もしい。

今までとは違う
明るい未来が見えてきたような気がする。

『ユウちゃん。一緒に頑張りましょう」

「はい!」
私はいまだにしょんぼりしている女神ちゃんを
横目に、元気よく返事をした。


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