上 下
257 / 355
獣人の国

256:後悔と女神ノート

しおりを挟む





 私はお風呂からあがって、
パパ先生のベットまで着て、
ようやくカバンの存在を思い出した。

寝間着を着ようと思って
鞄を取り出して、
ようやく思い出したのだ。

私は裸で、パパ先生のシャツを
一枚、羽織っただけだったので
パパ先生がどうしたんだい?と
声を掛けて来た。

「着替えを忘れたのかい?」

「ううん。そうじゃなくて
色々忘れてたの」

「着替えがないなら
僕のシャツを着て寝たらいいよ」

「ううん。着替えはあるの」

じゃあ何を忘れたのかと
不思議そうな顔をするパパ先生に
私はどう説明しようか迷った。

明日の朝に話をしてもいいけど、
ディランがきっと押しかけてくるだろうから
やっぱり今、話しておきたい。

「あのね、寝るのはもう少し後でもいい?」

私が聞くと、パパ先生は頷く。

「えっとね。
まずは、これ! じゃじゃーん」

と効果音付きで、
ぬいぐるみのクマちゃんを見せる。

「ほら、私が以前言っていた
金聖騎士団の皆の色が入ったクマちゃんなの」

そう言って私がクマちゃんを差し出すと
パパ先生は丁寧にそれを受け取った。

「可愛いね。
悠子ちゃんは可愛いものが
大好きだったから、
きっとすごく嬉しかったんだろうね」

なんて言われて、恥ずかしくなる。

パパ先生とは施設に行ってから
あまり接点がなかった筈なのに、
私が可愛い物が好きだって
知ってくれていたんだ。

可愛い物は施設の妹たちに
いつだって譲っていたのに。

嬉しくなって私は
パパ先生にベットの横にある
小さなソファーに座ってもらって、
クマちゃんの話を沢山してしまった。

でも待って。
そんな話をしている場合じゃない。

「それとね、クマちゃんも
見て欲しかったんだけど、
もう一つ見て欲しいものがあるの」

私はパパ先生のそばから離れて
鞄から女神ノートを取り出した。

「それは?」

「女神と交換日記ができるノートです」

これこそ、じゃじゃーん、の
効果音を付けるべきだった。

とっておきのアイテムだったのに。

「女神と交換日記?」

女神と?

というパパ先生に、私は慌てて
女神ちゃんじゃないんです、と言う。

そして私は地球の先輩女神と
出会ったことを、
手ぶり身振りで話をした。

物凄く頼りになりそうな女神だって
パパ先生にも伝わったらいいな。

私が話し終えると、
パパ先生は考えるような仕草をして
私の頭をよしよしと撫でた。

「沢山話をして喉が渇いただろう。
飲み物を持ってくるから着替えて待っておいで」

パパ先生はそう言って
寝室から出ていく。

何かまずかっただろうか。
話しすぎた?

でもパパ先生には隠し事は
しない方が良いだろうし、したくない。

どうしたら良いのかと不安になって、
それでもなんとか着替えると、
パパ先生がホットミルクを持って来てくれた。

「眠る前だから、少しだけね」

なんて不器用なウインクをするから
私の心も落ち着いてくる。

ベット横の小さなテーブルの上に
パパ先生はミルクカップを2つ置いて、
ソファーに座る。

そして「おいで」と言ってくれたので
私は素直にパパ先生のお膝に乗った。

ディランたちが私を膝に乗せるのとは違い、
ちょっとだけ恥ずかしいけれど、
っぽくて、
パパ先生の膝に乗るのは大好きだ。

「悠子ちゃんは頑張ってばかりだね」

そう言って、優しく腕をお腹に回される。

「……辛かっただろう。
勇くんの……いや、結婚式の姿を見るのは」

ドキっとする。

「元の世界に帰りたいかい?」

素直な気持ちは、わからない、だ。

でも私が戻ることで勇くんの幸せが
壊れてしまうのなら、戻るつもりはない。

「一瞬だけど、後悔は、しました。
誰かの最愛になって、
私もたった一人の最愛を見つけて
寄り添って生きていくのが夢でしたから。

でも、少し時間が経って、思ったんです。

もしあのまま私が元の世界にいても
きっと勇くんのような幸せは掴めなかった。

私はこの世界に来たから
沢山のことに気が付いたし、
多くのことを学びました。

だから、こうしてパパ先生に会って
甘えることもできる。

これはこの世界に来た私だからできることで
あのまま……元の世界にいたとしても
私は変わることはできなかったと思うから。

だからきっと、今が一番いいんです」

そう、今が最善の選択の結果だと思う。

「そうか。
じゃあ、君もこの世界での最愛を見つけて
寄り添って生きる方法を探してみよう」

できるわけがない、って思って
パパ先生を見たけれど、パパ先生が
柔らかく笑っていたので、
私は言葉を飲み込んだ。

「大丈夫だよ、悠子ちゃんには
僕も、この世界と僕たちの世界の
女神もいるんだ。
不可能なことなんか、何もないよ」

嘘も、ごまかしもない笑顔に、
何の根拠もないのに、
私の心は軽くなった。

だって、私の父が言うのだから
絶対に間違いはない。

私はパパ先生にもたれかかる。

今なら、言えそうな気がする。
私の隠している気持ちを。

「私ね、パパ先生。
皆が私を愛してくれている今が
嫌だっていうんじゃないの。
むしろ、嬉しい」

「うん」

「もし私が、誰か一人だけを
愛せるようになったとしたら、
それは私がことにも
なるでしょう?

今は、できないって理解してるから
たった一人を愛することに
憧れるし羨ましいって思う。

でもそれができるようになったら?

私はのが、怖い。

もし私が誰かと共に生きる人生を選んだら
それ以外の人たちは?
もう一緒にいられない?」

一人の人を愛したい。
一人の人に愛されたい。

でも、それ以外の私を愛してくれる人は?

今まで私を愛してくれる人なんて
一人もいなかったから、
今の状況は嬉しい。

そしてそれを失うのは怖い。

矛盾した感情が私の中で渦巻く。

それに反応するように
私の体内で巡る『力』も
渦巻いているように感じる。

そんな私を安心させるように
パパ先生は優しく抱きしめてくれる。

「誰もが、そうやって生きてるんだ。
誰かを愛し、誰かに愛され、
もし、共に生きることができない相手に
想いを寄せられたら、その人のために
伸ばされた手を拒んであげる」

「その人のために?」

「そう、だって一番愛することができないのに
その人を自分に縛り付けてしまったら、
その人はこれから先ずっと、
新しい恋も愛しい人との出会いも無くなる。
それって酷いと思わないかい?」

そんなこと、考えたことも無かった。
目の前のことばかりに意識が向いていて。

もし私が誰かを選んだら、
それ以外の人たちが私と一緒に入れなくて
可哀そうだ、ぐらいに思っていた。

なんて傲慢な考えだったのだろう。

私は恥ずかしくなって、
俯いてしまった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]

ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話! ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡ 売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆ その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山! **** 攻め、天然へたれイケメン 受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん な成人済みカップル♡ ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡ 性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡ 手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆ pixivランクイン小説が盛り沢山♡ よろしくお願いします。

誰にもナイショ♡ -つばめ組のけーし先生(20)とすずめ組のまひろ先生(35)のらぶらぶあまあませっくすたいむ♡♡♡

そらも
BL
とある保育園で日々忙しなく働く新人保育士くん(20)とベテラン保育士さん(35)は、昼間はおドジな新人けーし先生をしっかり者のベテランまひろ先生が指導兼お世話するという一見怒り怒られな関係なのだが、しかし夜になった途端、そんな二人の先生たちは『らぶらぶあまあませっくすたいむ』なるモノを発動し合う関係に様変わりしてしまうようで――…♡♡♡  な、保育園関係者にはナイショで毎夜らぶらぶする絶倫バカップル先生たちのお話です♪ 成人大人同士のカップルのお話は久しぶりかもですなぁ。でも相変わらず、というか今まで以上に年の差のある関係となっておりますのでそこのところどうぞよろしくです! ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

擬似父子セックスしてくれるパパが大好きな頭ゆるゆるDCの話

ルシーアンナ
BL
頭緩めのDCが、同級生の父親に洗脳されるまま始めた不特定多数の中年男性との擬似父子セックスを嬉しがる話。 パパたち×桃馬 DC,父子相姦,未成年淫行,パパ活,洗脳,メス堕ち,肉便器,おねだり,雄膣姦,結腸姦,中出し,白痴受け,薬物表現, 全編通して倫理観なし ♡喘ぎ濁音喘ぎ淫語

おっとり少年の異世界冒険譚

ことり
BL
兄が変態なせいで、貞操観念がおっとりしている少年、玲は、ひょんな事から愛と自由の異世界、バインディーディアへと転移してしまう。 愛が力になる世界で、どんな冒険が玲を待ち受けているのか─。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ショタ、総受、3ぴーなど、苦手な方はご注意ください。 本編は完結しました。 思いつくままに番外編をちょびちょび上げています。現在短編2本。 でも本編から離れちゃうと総受のあばずれ感すごいので、この辺で打ち止めにしたいと思います。 感想くださった方、読んでくださった方、ありがとうございました!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

精癒師のお仕事~このSランク冒険者パーティがアホでエロすぎる~

全裸パンチ
BL
精癒師として日々Sランク冒険者パーティの一員として冒険者稼業に勤しむ男の物語。 4人パーティのアホエロ系ゲイ向け、なんでも許せる人向け。 基本低IQでオラついてる。だいたい1話完結型の4コマっぽい感じで展開予定。 気に入っていただけたらお気に入り登録&感想お待ちしております。 ・主な登場人物 レオ / 金髪マッチョ 回復補助の後衛サポーター マックス / 赤髪マッチョ 大楯の前衛タンク ヒューゴ / 青髪マッチョ 長剣の前衛アタッカー ブリッツ / 黒髪マッチョ 魔導書使いの後衛アタッカー

処理中です...