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獣人の国
255:甘えとハチミツ
しおりを挟む私は教会の控室で休ませてもらっていたらしい。
女神ちゃんの世界での時間と、
この世界の時間では流れる早さが違うらしく
いつも凄い時間が経っていることが多いのだけど
マイクの話では、私が倒れてから
1時間ぐらいしか経っていないらしい。
なんで?
あの女神のおかげ?
じつは凄い力がある女神なのかもしれない。
私は一旦、宮殿に戻って、
それからパパ先生の所に行きたいと言うと
ディランもマイクも頷いてくれた。
教会を後にするときには
私を対応した神父さんが走ってきて
何やら私の前で跪いて拝んでくれたけど、
私を拝んでもご利益なんてないよ、と
笑って立ち上がらせた。
神父さんは何かを言いたそうだったけど、
ディランが気を利かせて王子様の権力を
使って強引に私を馬車に乗せてくれたので
会話をせずに助かった。
私は服の下にノートを隠していたので
馬車の中で二人にバレないかドキドキだ。
そんな私を二人は見ていたけれど、
女神ちゃんが絡んでいると思ったのだろう。
何も聞かずにいてくれた。
感謝しかない。
王宮に戻ってから
私は少しだけ休むことにした。
服を着替えて、ディランに言って貰ったカバンに
ぬいぐるみのクマちゃんと女神ノートを入れる。
あと着替えと寝間着も入れた。
マイクはその間に軽食の準備をしてくれていて
チョコレートケーキを食べたばかりだったけど
マイクに心配を掛けたくなくて
頑張って食べた。
ディランもマイクも女神ちゃんと
何を話したのかを知りたがっていたけれど、
パパ先生と相談してからでないと
話せないと素直に言うと、
二人ともすぐに引き下がってくれる。
ただし、パパ先生の所に泊ると言うと
ディランが物凄く反発したけれど。
駄々っ子のようになったディランに
思わず苦笑すると、
ディランが悲しそうな顔をする。
でもディランの頭を撫でて、
「明日は迎えに来てね」というと
ディランは嬉しそうに頷いた。
ほんと、子どもみたい。
「マイク、マイクはディランと一緒に
デビアンさんに獣化のことを
この国の人たちにどう伝えるか
考えておいて欲しいの。
ディランの様子を見たら、
早ければ早い方がいいかもしれない」
私がそう言うと、マイクもそうですね、と頷く。
「お願いね、二人とも。
私はパパ先生と相談したいことがあるから
もう行くね」
「では、馬を……」
というマイクに私は首を振った。
「いいの。ひとりで行けるから」
「ユウは一人で馬には乗れないだろう?
俺が……」
「ううん。馬じゃなくて
ドアから行くから」
「ドア?」
ドアってなに?
みたいな二人に私は笑って
浴室の扉を指さした。
「あの扉とパパ先生の家の扉を
今だけ繋げようと思うの」
「え?
じゃあ、俺が明日迎えに
行く必要はないんじゃないのか?」
「じゃあ、勝手に帰ってきていい?」
「ダメだ!
俺が迎えに行く!」
焦って言うディランに
私は「待ってるね」と笑う。
そしてマイクにこっそり、
ディランのことをお願い、と頼んだ。
すぐに感情的になるみたいだから
暴走しないか心配だ。
「お任せください。
ユウさまのお戻りをお待ちしております」
「うん」
私はカバンを持って、浴室の扉の前に立った。
体内を巡る『力』に意識をして
パパ先生の家の扉を思い浮かべる。
そしてドアを開けたら、
驚いた顔をして、でもすぐに
笑顔で私を迎え入れてくれるパパ先生の姿まで
私は想像できた。
だから、大丈夫。
もう、繋がっている。
そっと扉を開けると、目の前には
真っ暗な空間が広がっている。
私は振り返って、
心配そうな二人に手を振った。
「行ってきます」
そう言って、二人の返事を聞いてから
私は扉を閉めた。
真っ暗だけど、大丈夫。
不安はない。
少しすると目が慣れてきて、
進むべき方向がわかってくる。
勘みたいなものだけど、
間違ってない筈。
そう思って少し進むと、
あっという間に扉が見えた。
この暗闇は、やっぱり
繋ぐ場所と場所との間の
距離と関係あるのかな?
そんなことを考えつつ、
私は目の前の扉を開ける。
と。
すぐ目の前には
大きく目を見開いて
驚くパパ先生がいた。
でも、パパ先生はすぐに
笑顔になって「いらっしゃい」って
手を広げてくれる。
だから私は扉から飛び出すと、
パパ先生に抱きついた。
「不思議なところから来たね」
パパ先生に言われて、
私は振り返る。
「うん?」
どうやらここはキッチンみたいだ。
キッチンの扉から来てしまったのかと
私は開いたままの扉をそっと閉める。
「あれ、食器棚?」
扉を閉めたら、
そこには食器棚があった。
そりゃ、パパ先生も驚くよね。
私が最初に、驚いたパパ先生を
思い浮かべたから、
ここと扉がつながったんだろか。
何を想像するかも重要な要素かもしれない。
私が唸ると、パパ先生は笑う。
「あの女神の仕業なんだろう?
何があっても、もう驚かないよ」
「私は女神ちゃんには
いつだって驚かされてます」
私が肩をすくめると、
パパ先生は声を出して笑った。
「さぁ、おいで。
お茶を淹れてあげよう。
ハチミツ入りのミルクがいいかな?」
それは私を甘やかすときの
パパ先生特製の飲み物だ。
私の中の、とっておき。
「うんと甘いのがいい」
私はもう、パパ先生には遠慮なんかしない。
だって、親子だもの。
親子って、そういうものだよね?
甘えてもいいんだよね?
わがままみたいに、
ミルクは甘いのがいい、って言ったけど、
ちょっとだけ不安になって
パパ先生をそっと見る。
するとパパ先生は
「かしこまりました、僕の可愛いお姫さま」
と言って、また笑う。
私は嬉しくなって、
パパ先生にじゃれついた。
「僕の可愛い娘は
次に何をおねだりする気かな?」
そんなことを言われたら、
おねだりするしかない。
私は少し考えて
「今日は朝まで一緒にベットでおしゃべりする」
と言ってみた。
パパ先生は「起きてられるかな」なんて
言ったけれど、しないとは言わなかった。
そんなことも嬉して。
私はパパ先生の腕にしがみつき、
ダイニングのソファーまで
エスコートしてもらった。
この時私は、お姫様気分になって
パパ先生の可愛い娘にもなって、
私は嬉しすぎて女神ノートのことを
すっかり忘れてしまっていた。
それに気が付いたのは、
朝までおしゃべりすると言って
ベットに入ってからだった。
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