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獣人の国

233:国王との話し合い

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 お泊りの話はまたあとで。
と、パパ先生と二人で何とか
ディランとマイクを宥めて、
私たちは王宮に向かうことにした。

マイクたちが乗って来た馬は
2頭しかいなかったけど、
パパ先生は大丈夫、と言って
何やらピーと口笛を吹く。

すると、どこからか馬が走ってやってくる。

「え? すごい。
パパ先生、どうやったの?」

と聞くと、近くに住んでいる野生の馬に
余った野菜などを食べさせていたら、
懐いたらしくて、必要な時に呼べば
街まで乗せてくれるようになったらしい。

帰りも口笛を拭いたら
迎えに来てくれるんだって。

凄い、すごい!

でも、それって馬が凄いのか、
それとも女神ちゃんが勝手に
パパ先生に与えた能力なのか悩むところだよね。

知らないうちに、勝手に何かの力を
授かっているなんてこと、
あの女神ちゃんだったらあり得るし。

私が微妙な顔をしたからか
パパ先生は「使えるものは使えばいいんだよ」
なんて明るく笑う。

そう言うものかと思うようにして
私はパパ先生の馬……ではなく、
ディランの馬に乗せられて王宮に向かった。

パパ先生の馬は鞍が付いてなかったし、
乗れるとは思っていなかったけど
ディランの独占欲は酷かった。

ディランの前で馬にまたがったけど
ディランはギューギュー私を抱きしめて
なんなら、首や肩に鼻を擦りつけて、
飼い犬にマーキングをされている気分だ。

王宮に着くと、パパ先生の馬は
「また迎えに来てくれよ」という
パパ先生の言葉に頷くように嘶き、
どこかに去っていく。

それを見ている私は
ディランに抱っこされた状態だった。

マイクが何やら文句を言っているが
ディランは無視している。

私はディランの腕の中でマイクを宥め、
苦笑するパパ先生に声を掛け、
ディランを促し、なんとか王宮へと入る。

王様に会う前から、ぐったりだ。

とりあえず侍従さんに
客間に案内してもらって、
王様たちと会える時間を調整してもらう。

ディランは謁見と言う形ではなく、
内密に会合できるようにすると言って
私をソファーに下した後、
どこかに行ってしまった。

私とパパ先生、マイクはのんびり
おしゃべりをしながら
淹れてもらったお茶を飲んだ。

と言っても、
マイクは座らずに、私の後ろに立って
会話に加わっていただけだけど。

マイクは私の友達枠だし、
護衛じゃないのだから隣に座って、と
言ったのだけど、私と、
愛し子の父の前で座ることなどできないと
頑なに辞退したのだ。

「女神への信仰心が強いんだね」

なんてパパ先生は言っていたけど、
絶対に女神への信仰心、と
心の中で思っていたに違いない。

でもマイクは女神ちゃんの正体は
知らないから仕方ないんだよ、と
パパ先生には、あとで教えてあげよう。

「この宮殿は……いや、王がいるから
王宮というのだろうけど、
なんだか不思議な様式だね」

パパ先生が部屋を見回しながら言う。

「イスラム建築とギリシャ建築と
ローマ様式?
ごちゃごちゃしていて楽しいけれど、
統一した方が僕は落ち着くな」

それ、言ってはいけないことです、
パパ先生……。

女神ちゃんの趣味だと思うもの。

「賢者殿は建築にも詳しいのですね」
とマイクが目をキラキラさせている。

私はなんと返事をすべきだろうか。

と悩んだけれど、大丈夫だった。
私が何かを言う前に
侍従さんが私たちを呼びに来たのだ。

私たちは侍従さんの後ろをついて
階段を降り、王宮の地下の部屋まで歩いた。

人口密度が高くて、
王宮ではすぐに誰かとすれ違ったのに、
地下に続く階段あたりから
まったく人気が無くなった。

階段も地下の廊下も、
なんだか薄暗くてドキドキする。

「こちらです」

と侍従さんが地下の部屋の扉の前で
立ち止まり、軽くノックをする。

中から声が聞こえてから
侍従さんは扉を開けた。

「どうぞ、お入りください」
と言ったけれど、
侍従さんは部屋には入らなかった。

私たちが部屋に入ると
侍従さんは扉を閉める。

「ようこそ、ユウ殿」

と、ディランの長兄の
デビアンさんが笑顔で声を掛けてくれた。

が、何故かディランに首を絞められている

苦しくないのだろうか。
何故、笑顔?

「ディラン、何してるの?」

首を絞めるのはダメでしょう、と
声を掛けると、ディランは嫌そうに
デビアンさんから手を離した。

そして、どさ、っと音を立てて
椅子に座る。

目の前には大きな長テーブルと
椅子が8脚。

ディランとデビアンさんは
入口から見て奥の椅子に座っていて
いわゆるお誕生日席には誰もいない。

私とマイク、パパ先生は
ディランとデビアンさんの前に座った。

「もうすぐ父も来るだろう」

デビアンさんはそう言うと、
空席の後ろ……部屋の壁を見た。

私もつられて視線を部屋の奥に向けると、
いきなり壁が開いて、王様が入って来た。

「忍者屋敷みたいだね」
なんてパパ先生が小声ていう。

ほんと、この宮殿は何を目指して
作ったのだろう。

和洋折衷すぎる。

国王陛下の姿に、一応私も
マイクもパパ先生も立ち上がったけれど、
王様はそのままで、と手で合図をする。

「堅苦しいことはなしだ。

ここは人払いをしているので
心配はいらん。

ただしここで話をしたことは、
他言無用とする」

王様はそう言い、
あたらめて私と、そしてパパ先生を見た。

「報告は聞いている。
ただ、今はこの国の王として名を
名乗ることは控えておく。

ただそこの息子たちの父とだけ言っておこう」

「助かります。
僕もこの子の父なので」

パパ先生は笑って、私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。

「では、僕とこの子。
そして女神の話を踏まえて
この国に起こっていることをお話します。

すぐに信じることができない内容かもしれませんが、
すべて真実だと、先に言っておきます。

そしてすべてを聞いてから、
この国の王が、国民たちへどう働きかけるのか。

この国がどのような変化をすることを
望むのかを、僕は知りたいと思います」


パパ先生がそう前置きをすると、
王様は、わかった、と頷いた。

それを合図に私たちは全員、
椅子に座り、パパ先生の話に耳を傾けた。






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