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獣人の国

215:賢者の家

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 私は結局、散歩は諦めて
デビアンさんと別れた後は
マイクと一緒に与えられた部屋に戻った。

マイクと一緒に御茶を飲み、
デビアンさんから聞いた話をまとめてみる。

女神ちゃんのことを知らないマイクは
ひたすら「不思議ですね」と言っていたけれど
私にしてみれば
「うちの愚妹がやらかしてばかりですみません」と
言いたくなることばかりだ。

そうこうしているうちに、
昼食の時間になり、
私たちはまた、マイクの部屋に
準備をしてもらって、
マイクの部屋で二人で食べた。

肉ばかり、野菜ばかり、と言った
偏ったメニューじゃなくて良かった。

食事が終わり、
侍従さんに食器を下げてもらっても
ディランが戻ってこない。

賢者のところに行きたいのにと
思っていると、ようやくディランが
私の部屋をノックした。

けれど、私は隣のマイクの部屋にいる。

ノックの音がして、
隣の……私の部屋の扉が
叩かれていると気が付いたのだ。

「ユウ」とディランの声がする。

私がマイクを見ると、
マイクは頷いて、扉を開けた。

「ユウさまならここにいる」

「なんでお前の部屋にいるんだよ!」

物凄く不機嫌なディランの声が
廊下から聞こえて来た。

「一緒に昼食を食べたのだ」

「俺だって一緒に食べたかった!」

子どもか、って思う。
でも、ディランは子どもなんだ、って
思い直すのも、いつものことだ。

「ディラン、おかえり」

だから私は扉まで移動して
ディランに声を掛けた。

途端、ディランは不機嫌な顔から
笑顔になり、おう、と言う。

「賢者さんのところに
連れて行ってくれるんでしょ?」

そういうと、ディランは頷く。

「昨日は一緒にいれなくてごめんな。
弟妹達がうるさくて、離宮に行ってたんだ」

「ユウさまは私と一緒に
就寝しましたので、問題はありません」

と、マイクが言う。

「一緒にだと?」

「はい。
ユウさまが寂しいと言われたので、
一緒に、手を繋いで就寝しました」

いや、そうだけどね?
ほんとのことだけど、
その情報、今いる?

「ユウ、ほんとか?」

どうこたえるのがいいのかわからず、
曖昧に笑うと、ディランは
また不機嫌な顔をして
強引に私を抱き上げた。

「今夜は俺が一緒に寝てやる」

「必要ありません」

私を抱っこして歩き出すディランに
何故かマイクは返事をしながら
すぐそばをついて来る。

「俺がいなくて寂しかったんだろう?」

「初めての国で心細かったのです」

「だからなんでお前が答えるんだよ、
俺はユウと話をしたいんだ」

「私はユウさまの御心を
理解しておりますので、
代わりに応えたまで。

ユウさまの手をわずらわせないように
先回りするのも、私の役目ですから」

二人の言い合いがすごくて、
口を挟めない。

でも、二人の足は確かに王宮の
外に向かっていた。

どこまで行くのだろうと
不安になっていると、
門のあたりで侍従さんが2頭の馬を
準備して待っていてくれている。

ディランは礼を言い、
マイクに1頭の馬を渡して、
自分は私を抱き上げて同じ馬に乗せた。

「森に馬車は無理だからな」

そう言ってディランは馬を走らせる。

この国の地理はわからないが、
離宮とは別の方向に向かっていることだけはわかった。

街を抜けて少しすると
徐々に草木が増えていく。

街道が細い獣道になってきて、
ようやくディランは馬の足をゆるめた。

「この辺りだって聞いたんだけどな」

ディランが呟く。

マイクも私も、馬の上から周囲を見回した。

「あ、あれ、なんかある」

私は視線の先に、
木々に隠れた赤いとんがった屋根を見つけた。

「家のようですね」

マイクも頷き、ディランもあそこだな、と
言って馬を歩かせた。

細い道を進むと、
小さな可愛い白い花が一面に出て来た。

シロツメクサだろうか。

その先には、子どもの頃に施設で読んだ
絵本の中に出てくる妖精の家に
そっくりの家があった。

赤いとんがり屋根に、小さなえんとつ。

そのえんとつからは、
煙がでている。

その絵本は何年もかけて
子どもたちが読んでいたので
あちこち手垢で汚れて、
折れややぶれもあったけれど、
私はその絵本がお気に入りだった。

たしか妖精と女の子が森で出会い、
仲良くなっていく話だった。

私は最初は互いに警戒したり、
怖がったり、相手を傷つけてしまいながらも
友情を芽生えさせえていく主人公たちが
大好きでだった。

小さなころは、
何度も施設の先生に
読んで欲しいとせがんで困らせたほどだ。

もっとも、すぐに自分で文字を覚えて
一人で読めるようになったけど。

私は女の子と妖精の友情が
羨ましかったのだ。

そして絵本のラストでは
その友情が大人たちの意識を変え、
妖精国と人間の国との交流へと繋がる。

それがとても素敵に思えた。

まだ子どもだったから、
世の中はそんな簡単なものではないと
わからなかったのだ。

「ユウ?」

私がじっと家を見つめていたからか
ディランが心配そうに声を掛ける。

「あ、ごめん。
可愛い家だなと思って」

「そうだな、あんなにとんがった屋根を
見るのは初めてだ。

あそこは塔のようになってるのかもな」

ディランはそう言って、
馬から下りて私を抱き上げた。

マイクも同じ様に馬から降りる。

私は自分で歩くと
ディランに体を下してもらう。

「行こう」

私は二人に声を掛ける。

知らない人に会いに行くのは
気後れするし、本当は嫌だけど。

二人がいれば大丈夫。

いつまでも他人が怖い
人見知りの私ではないんだ!

っで自分を叱咤して。

私は足を進めた。


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