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隣国へ
193:新しい力
しおりを挟む私は大広間で毛布に包まっていた。
女神ちゃんの空間と同じ状態だった。
ただし、下着とシャツは着せられていたけれど。
いきなり目が覚めて
状況が掴めずに呆然としてしまったので、
マイクとディランは、焦ったように
私の世話をしてくれた。
体の不調はないか、
苦しくないかとディランが私を抱き上げ、
マイクは水を飲むか、
食事はできるかとキッチンへと走る。
そんな二人を見ながら、
私は体を巡る『力』に意識を向けた。
今までは気が付かなかったけれど、
確かに、私の中には、錘のような、
冷たく重いものがある。
でも、気づけるぐらい成長したと思えばいい。
私は前向きにとらえることにした。
私はディランに夢見が悪かったと言い、
キッチンへと連れて行ってもらう。
抱っこ移動には、恥ずかしいとか
重たいのに申し訳ないとか思うけれど、
疲れている時は便利だということに気が付いた。
もう、めんどくさいし、歩かなくていいや。
キッチンではマイクがスープを用意してくれていた。
御者さんの買い出しが無いので
具は少なかったけど、あったかくて美味しい。
私はスープを飲んで、
落ち着いてから二人の顔を見た。
ディランもマイクも、
並んで私の正面に座っている。
「隣国に続く道が
新しくできたみたい」
「ほんとうか!?」
ディランが大きな音を立てて
椅子から立ち上がった。
「それは……女神さまからの
ご神託でしょうか」
マイクの言葉に私は頷く。
ご神託なんて厳かなものじゃないけどね。
「マイクと最初に会った村から
女神ちゃんが繋いでくれたみたいなんだけど、
私が行くまでは、騒ぎにならないように
隠してあるって」
隠すように言ったのは私だけれど
そのあたりは適当に説明する。
「すげぇな、女神は。
わざわざユウのために道を作ってくれたのか?」
ディランの言葉に、曖昧に笑ってごまかす。
「ディランの国のことも、
早くなんとかしてあげたいみたいだったよ」
その言葉に、ディランの瞳が嬉しそうに輝く。
「では、あの場所に向かわねばなりませんね」
マイクはディランと私を見て言った。
「じゃあ、いつ出発する?」
ディランは身を乗り出す。
二人とも、すぐに出発する気満々で
話をしてくるので、私もすぐに
出発してもいいような気がしてきた。
「えっと、今は何時ぐらい?」
随分と寝てしまったかもしれない。
マイクの話ではまだ昼前とのことだった。
「街の噂は明後日あたりから
広まる予定ですので、今日にでも出立すれば
問題はないかと」
「うん。じゃあ……行こうか」
もう心残りは無い。
というか、露天風呂にはまだまだ入りたいけど
それは今すべきことじゃないもんね。
待てよ?
女神ちゃんは、私が知っている場所であれば
どこにでも道を繋げることが
できるって言ってなかったっけ。
じゃあ、この露天風呂にも……と思って、やめた。
むやみやたらに力は使わない方がいい。
本当に必要になったら使おう。
私は力のことはディランやマイクにも
内緒のまま、身支度をすることにした。
泉の水は一応、水筒に入れて持っていく。
昨夜購入した食料は、すべて持っていけそうな
簡易食ばかり残っていたし、
もともと長居するつもりはなかったので
大した荷物もない。
ただ、ゴミだけは残さないようにと
マイクが魔法で処理していた。
村を出る前に、
マイクは私とディランに地図を見せてくれた。
「ここが王都から来た時に
辻馬車に乗った街です。
そして、今が、ここ。
噂が広まることを考えると、
こちら側の……以前立ち寄った街とは
逆方向の街を目指した方が良いでしょう」
マイクはこれから進むルートを説明して
よろしいでしょうか、なんて聞いてくるけど、
私は頷くしかできない。
だって何もわかんないんだもん。
ディランはディランで、
やっぱりこいつがいると便利だな、
なんて小声で言うし、私もそう思うけど
そういうのは本人がいる場所で言うべきではないと思う。
辻馬車の御者さんが来るのを待っても良かったんだけど、
私たちは徒歩で村を出ることにした。
この村の周辺は、悪意のある人は
たどり着くことができないようにしたし、
のんびり散策しながら歩くのも良いと思ったのだ。
そう、思った、その時は。
でもさ。
よく考えると、
舗装されていない森の中を歩くって、
かなりしんどい。
魔獣に襲われる心配はないとはいえ
木や石はあちこち落ちてるし、
木々が生い茂ってるところは視界が悪い。
楽しいハイキング気分だったのは
歩いて一時間ぐらいまでだった。
しかも私は抱っこ移動が多かったので
体力もない。
マイクが気を遣ってくれて
大きな樹木のそばで休憩を提案してくれた。
「随分歩いたつもりだけど、
どれぐらいだろう?」
とマイクに聞くと、
マイクは私に水筒を持たせてくれてから
地図を広げた。
「先ほどの村がここで、
今は……おそらく、この森でしょうか」
……って、短っ!
まだこんなにしか進んでないの?
この地図の尺図ってどうなってんの?
「馬か何かあったら良いんだろうが、
この森じゃ、逆に邪魔だろうしな」
ディランも私の隣に座って地図を覗き込む。
水筒の水は三人とも泉の水なので
飲んだら体力は回復する。
でも、気がめいってきた。
そもそも私、アウトドア派じゃないし。
「あ!」
「うお、なんだよ、ユウ」
「どうされました? ユウさま」
私が思わず叫んだからか
二人は体を揺らして驚いている。
「え、あ、ごめん。
物凄いこと、ひらめいちゃった」
だってさ。
知ってる場所になら道を繋げることができるんでしょ?
じゃあ、私、あの村のこと、知ってるもの。
あ、でもいきなり道が生まれたら
他の人が見たら驚くよね?
じゃあ、道を繋いで、すぐに消したらいいか。
できるかな?
いや、できる。やるぞ!
もう歩くのは嫌だ。
なんだか私、随分と軟弱になった気がする。
甘やかされ過ぎてるからかな。
「えっとね、物凄くズルしてると
思うかもしれないんだけどね」
私は二人におそるおそる言う。
「私、あの村とこの場所を繋げることが
できるかもしれない」
「は?」
「それは空間を歪めて、ということでしょうか」
「そ、うなのかな? よくわかんないけど、
女神ちゃんが、道を繋げることができるとか、言ってた……から」
自信は無いので、最後は小声になる。
「できるかどうかわからないけどね、
試してもいいかな、って。
いい?」
と二人に聞くと、ディランは私がすることに
異論はないと言い、マイクは何も言わずに
うやうやしく頭を下げた。
よし、やるか。
とりあえず、イメージが大事なんだと思う。
だからこそ知っている場所でないと
道を繋ぐことはできないんだと思うから。
だから私は、マイクと出会った村を思い浮かべた。
と言っても、私が鮮明に思い出せるのは
小さな教会だ。
マイクとディランと三人で過ごしたあの教会。
小さな礼拝堂と、マイクの私室。
私はその私室にあるベットで夜は寝ていた。
教会にベットはそこしかなかったからだ。
そういえば二人はどこで寝ていたのだろう。
思えば出会った時から、私は随分と
二人に甘えさせてもらっていた。
そんなことを考えながら私は小さな教会の
大きな扉を思い浮かべる。
大きな、外から礼拝堂に入るための、扉。
小さな村だったけど、その扉だけは
大きく荘厳だった。
分厚くて重たい扉は、体重を掛けて開けると、
一気に、厳かな雰囲気に包まれる。
扉は閉まると、外の喧騒など何一つ聞こえない
静かな空間になった。
外界と女神を敬う空間を繋ぐ扉だ。
その扉と……目の前の大きな樹木の幹を繋ぐ。
道を繋ぐ、という感覚がよくわからないので
私は扉でつなぐ、とイメージした。
扉、扉、と思いながら、身体を巡る力を
指先の乗せる。
「よし!」
イメージできた!と手のひらを樹木に当てると
大きく樹木は輝く。
「うわっ」
と声が聞こえたけれど、
それは私が発した声だったかもしれない。
何にせよ光が収まり、樹木を見ると
そこには身をかがめれば通れるかも、
というぐらいの、こじんまりとしたドアが
生まれていたのだ。
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