上 下
191 / 355
隣国へ

190:異質なモノ

しおりを挟む


寝ころび湯でどろどろになるまで二人に愛され、
私はマイクに抱っこされて
露天風呂に浸かった。

あったかい。

そして女神の泉の水が混じっているからか
疲れが癒されるような気もした。

ディランは喉が渇いたと言って
最初にお酒などを準備していたテーブルで
何やら飲んでいる。

しばらく湯を堪能していると、
ディランが水を持って戻って来た。

「飲むか?」
とカップを渡されたので、
私は素直にそれを受け取る。

ディランの手にはカップが二つ。
ディランは何も言わずにマイクにも
カップを差し出している。

私も、マイクも驚いた顔をしてしまったが、
マイクはそれを受け取った。

「ありがとうございます」

というマイクに、ディランは
何も言わなかったが、
照れているようにも見えた。

もしかして、仲良くなった、とか?

理由はわからないけど、
良いことのように思えた。

「食い物もまだ残ってるぜ、ユウ。
お腹空いてないか?」

と言われ、私はマイクを見た。

そんなに空いてないけれど、
マイクはお腹空いたかな?

「行きますか?」

マイクが私を見る。

私はカップの水を飲んで、
マイクの膝から下りた。

「ううん、ここで見てる」

「見る、ですか?」

「うん、マイクと、ディランが
あそこで食べてるところ」

私がテーブルを指さすと
マイクとディランが顔を見合わせた。

「二人が仲良くしているところを
見たいの」

二人はバツが悪そうな顔をしたけれど
嫌がることはなかった。

「では、少しお傍を離れます」

「うん、ここにいるから」

私は露天風呂の淵に肘を置き、
二人がテーブルに行くのを見た。

二人には会話がなかったけれど、
離れてみると、緊張してるのだろうか。

今までになかった空気が漂っている。

あ、ディランがマイクにお酒を渡した。
勧めてるんじゃなくて、渡した。

強引じゃないのかな。

でも受け取ってる。

会話は弾んでる様子はないけど
でも、おしゃべりしてる。

時折、ちらちらと二人の視線が
私に向けられていたけれど。

二人が仲良くしてくれるのは嬉しい。
一緒にいるんだもの。

それにね。
二人が会話をしている時は
二人ともすました顔をしているけれど、
そっと私を見る視線は、とても、優しい。

それが「特別だよ」って言われてるみたい。

幸せだなって思う。

愛されるのも、愛するのも、幸せ。

こんな気持ち、知らなかった。

だって誰かに愛されるなんて
今まで思ったこと無かったから。

誰かを愛したいなんて、
そんな気持ちになったことなかったから。

でも今は違う。

嬉しい、愛しい、幸せ。

色んな感情を知ることができた。

ふわふわした気分で、
私は二人を見る。

けれど。
私はそんな温かい感情の中に、
冷たいものを見つけた。

そんなもの、あるはずがないのに。

私は自分の中の感情を探る。

元の世界にいた時はできなかったけど
今は女神ちゃんの力がある。

『器』は壊れてしまったけれど、
体を巡る力がある。

だから、自分の意識を、
体を巡っている力に乗せた。

与えられた<愛>で満ち溢れる力に
何故、陰りがあるのか。

体を巡る血液のように、
力もまた私の体を巡っている。

それに沿って意識も巡る。
と、『器』があったと思われる場所に
何かを見つけた。

意識なので、触れることは叶わない。
けれど、どこか冷たく、固い雰囲気がした。

決して大きくはなかったけれど、
まるで鉄の塊のようにも感じる。

なんだろう。

私の意識の中のものだろうけど、
何が入っているのかを知るのがとても怖い。

「ユウ」

「ユウさま」

急に二人の声が聞こえてきて、
私は意識を戻した。

「大丈夫か?」

「のぼせてしまいましたか?」

「え、あ、うん、大丈夫」

私の様子に二人は心配して
来てくれたようだ。

「そろそろ終演にしましょうか」

マイクがそう言って手を差し出してくれたけど、
触れた指先は冷たかった。

「うん、じゃあ二人とも、
一緒に入って」

私はマイクの手を引く。

「二人の身体がぬくもったら、
一緒に出よう」

私はマイクの手を引いた。

「そうだな、じゃあ今度は
俺の膝に乗れよ、ユウ」

ディランは素早く湯に入ったかと思うと
マイクの手をまだ掴んでいた私の腰を持ち
あっという間に膝に座らせてしまった。

「強引ですね」

マイクは私がバランスを崩さないように
咄嗟に手を離してくれていた。

私の……というか、
ディランのそばで、
湯に浸かったマイクは
呆れたような声を出す。

「いいだろう、さっきは
お前がユウを抱っこしてたんだし」

なんだろう。
ディランの口調がやわらかくなってる?

拗ねたような、親しい人に向けるような
口調になっているような気がする。

いいな、こういうの。
うん。

さっきの冷たい塊は気になるけれど、
今は二人につつまれていたい。

私はディランの胸に頬ずりする。

「どうした?」

「眠くなってきた」

「いいぜ、寝ても。
連れて帰ってやる」

「うん」

優しく髪を撫でられる。
でも、この指の動きは、きっとマイクだ。

背中を優しくとんとんと叩かれる。

これは、ディランかな。
少しだけ、力が強い。

でもなぜか、心地よく感じてしまう。

あったかいし、嬉しいし、心地よい。

今はこのまま眠ってもいいよね?

私は体の力を抜いた。

「ユウさま、お傍におりますので
どうぞ、お休みください」

マイクの声がする。

私は二人の気配に安心して、
そのまま眠りの世界へと足を踏み入れた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

異世界で二人の王子に愛されて、俺は女王になる。

篠崎笙
BL
水無月海瑠は30歳、売れない役者だった。異世界に跳ばされ、黒と白の美しい兄弟王子から見初められ、女王にされてしまうことに。さらに兄弟から自分の子を孕めと迫られ陵辱されるが。海瑠は異世界で自分の役割は女王を演じることだと気付き、皆から愛される女王を目指す。  ※はじめは無理矢理ですが愛され系。兄弟から最後までされます。 ※「生命」、「それから」にて801妊娠・出産(卵)がありますが詳細な表現はありません。

異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

ことり
BL
悪い男に襲われている最中に、もっと悪い男に異世界召喚されてしまう、若干Mな子のお話です。 気晴らしに書いた短編でしたが、召喚されっぱなしのやられっぱなしで気の毒なので、召喚先で居場所ができるように少々続けます。 山も谷もないです。R18で話が始まりますのでご注意ください。 2019.12.15 一部完結しました。 2019.12.17 二部【学園編】ゆったりのんびり始めます。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

処理中です...