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隣国へ

173:泉創造

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 目を開けて、私は思わず声を挙げた。

「うぉ!」
って、可愛くもなんともない声だったけど、
ほんとに、うぉ!って感じだった。

だって、目の前には絵画集で見た絵が
そのまま再現できていたからだ。

大きな泉が目の前にはあり、
遠くに口を開けた二枚貝がある。

その貝からは、光の魔素……だと思う。
光のぽわぽわが生まれて、周囲を
ぷよぷよと飛んでいた。

泉の水は澄んでいて、
私はおそるおそる手を伸ばす。

「あったかい!」

すごい!
あったかい。

これ、温泉なんじゃない?
いや、最初からそう言ってたっけ?

『ごしゅじん すごい!』

そばで見ていたホワイトが
急に私の前に飛び出した。

「え?
ホワイト!?」

待って、と言う前に、
ホワイトが泉に飛び込んだ。

「あ~~~っ」

いいのか?
女神の泉なのに、いいのか?

呆然とする私の前で
ホワイトは器用に水の中を
泳ぐようにバシャバシャと遊んでいる。

『ほぉ。強大な力を感じて来てみれば
なかなかではないか』

頭上から声がして顔を上げると
獅子の聖獣、レオが大きな翼を
はばたかせていた。

「レオ、来てくれたの?」

『ああ、心地よさそうだ』

レオはそう言うと、
翼を折りたたみ、泉の上へと降り立った。

『うむ。力が染みるな』

って、レオまで!
私を心配したんじゃなくって、
温泉に浸かりに来たわけ?

とはいえ、可愛い聖獣たちが
幸せそうに泉に浸かっているのを見ると
好奇心は湧く。

「そ、そんなに気持ちがいいの?」

『あぁ、愛し子も来るがいい。
女神の恩恵がある水は、我々の力も増す』

おそるおそるもう一度手を浸けて。
それからじっと見つめるレオに瞳に
勇気を貰って、私は足を泉に付けた。

「うひゃーっ、ナニコレ!」

水に触れる肌の面積が大きくなっただけ
体の中にあたたかいものが入ってくる。

さっき手を浸けた時は、ただ「あたたかい」
と思っただけだったけど。

違う。
あったかい……女神ちゃんの力が
浸した足の先から私の体に入っていく。

そしておそらく、私の魂にある女神の力に
反応しているのだろう。

暖かい力が、私の全身を巡った。

最初は激しく血流が流れる感覚に
酔いそうになったけど。
慣れてくると、それが気持ち良くなってきた。

疲れて腕の筋肉をのばした後とか、
肩をぐるぐるまわした後とか、
そんな感じの気持ち良さ。

私は泉に付けた足先をそのままに、
泉の中に、そっと入った。

足を入れただけで、
こんなのだからもっと入ったら、
もっと凄いことになりそうじゃない?

泉は海みたいに、浅い場所を作っていたから
まずは浅い場所からゆっくりと深い場所へと入っていく。

あったかいし、気持ちいい。
露天風呂の時も同じように感じたけれど
それよりももっと……『力』が湧いて来る。

体の中の『力』の濃度が濃くなる感じがする。

私は腰ぐらいまで水に浸かり、
水浴びをして満足そうなレオの毛を撫でた。

「水に濡れてもレオの毛は綺麗なままだね」

不思議なことに、レオの毛は濡れた感はなく
さらさらしている。

近くで泳いで遊んでいるホワイトを見ても
毛は輝いているけど濡れた様子はない。

聖獣だからか?

私はレオの首に腕を回して抱きついた。

「それに……なんだろう。
いいにおいがするね」

『女神の力が染みたのだろう』

レオがそんなことを言う。

「染みた? なんだか煮物みたい」
私は笑ってしまう。

と、そこにガサガサ、と
木々が揺れる音がした。

悪意がある人は泉には近寄れない筈なんだけど。

油断していたと振り返ると、
そこにはマイクとディランがいた。

「ユウさま!」

「ユウ!」

大きな声にレオとホワイトが反応する。

私はレオの背中を撫でて、
そに来たホワイトを抱き上げた。

「大丈夫。私の大切な人たちだよ」

と言うと、ホワイトもレオも
大人しく私に撫でられるままになった。

勝手に出てきたもんね。
心配させてしまったかも。

2人は泉に近づいたけれど、
聖獣がいるからか、
私に駆け寄ることはなかった。

「ユウ、心配したぞ」

「ご、ごめんね。勝手に出て行って」

「服はどうされたのです?
何故、このような森の中で裸に……」

「えっと、不可抗力?」

心配してくれたからか
怒っているディランとあからさまに
おろおろしているマイクに、
私はなんとか声を出す。

『ふむ。
なかなか良い泉だった。
愛し子よ、礼を言う。
今後も役立ちそうだ』

そんな私にレオはそういうと、
鼻先で私の体をディランたちの方へと押した。

『戻るがいい。
また愛し子が連れ去られるのではないかと
あの人間たちは警戒している』

そう言われて、私は確かに
いつもどこかに移動するときは
レオに連れ去られていたかも、っと思った。

私が離れると、レオは大きく翼を広げる。

それを見たホワイトが私の腕からぴょん、と
飛び出して、そのまま羽を広げた。

「ホワイトも行っちゃうの?」

『めがみ いう!』

「そうか、泉のことを女神ちゃんに
伝えてくれるのね? ありがとう」

ホワイトは頷くように何度も頭を動かして
レオと一緒に空へと舞いあがる。

何度見ても、聖獣が飛び立つ姿は壮観だ。

私はそれを見送って、
泉のそばに立っているディランと
マイクのそばへと移動する。

「ユウさま、こちらへ」

マイクが目ざとく、
木に掛けていたタオルを見つけて
準備してくれていたけれど、
タオルは小さいので、私の体を隠すことはできない。

マイクはそれでも私の腰から下にタオルを巻き、
優しく抱き上げてくれた。

「靴も履かずに……このような場所まで
このような姿で移動されるなど」

マイクは首を振って言う。
呆れられたかな?

「うん、ごめんね。
ホワイトが呼びに来てくれて、
焦っちゃって」

とマイクに抱っこされて……あれ?
ディランがいない。

こういう時、いつも「俺がユウを連れて行く」と
口を挟んでくるのに。

きょろきょろとディランを探すと
マイクが「あちらに」と短く私に言う。

ディランは、私がタオルを掛けてあった木の
そばで、何から茂みに向かって話している。

私が近くに行こうとマイクに言うが、
マイクは嫌がった。

「なんで?」

「ユウさまの肌を見せたくはありません」

「ん? ディランに?」

「いいえ、それもありますが、
そうではありません」

と言われて、どういうこと?と
ディランが話をしている茂みをじっと見る。

すると、また浮かんできた。

ーーー辻馬車の御者

ーーー愛し子に心を奪われし者

なんだ、それは。

もしかして、御者の人が
私の『力』に気が付いて様子を見に来たのかな?

どうしよう。
まだ泉に関してはナイショにしておきたかったな。

悪意ある人が入ってこれない結界も
ちゃんと機能してるか確かめたかったし。

あと泉の濃度も、
私は気持ちいいで済んだけど、
露天風呂のお湯にするには
女神ちゃんの力が強すぎる気がする。

心臓がバクバク動いて、
血流がドクドク言いながら
全身を巡っていくんだもの。

普通の人間だと、ビックリすると思う。
逆に激しすぎて、心不全とか
心臓まひとかになりそうで怖い。

「戻りましょう、ユウさま」

マイクがそう言い、ディランに背を向ける。

二人は私を守ろうとしてくれてるんだ。

だから私は素直に頷く。

ディランなら、きっとうまく話をしてくれるよね?

いや、もしかしたら交渉はマイクの方が
よかったのかも?

私はそんなことを思いながら
マイクに服が置いてある露天風呂まで
連れて行ってもらった。

良かった。
帰りは全裸で森を走らなくて済んだ。

なんて笑っていられたのは、
この時までだった。







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