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隣国へ

163:暗闇

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 夢だ、と私は唐突に思った。
真っ暗な空間に私はいる。

真っ暗で何も見えないけれど
怖くはない。

何も聞こえないけれど、
どこか安心感がある。

手を伸ばせば、何か透明の
ガラスのようなものにぶつかった。

「え? なにこれ」

恐る恐る手を伸ばすと、
やはり透明の壁があるようだった。

どこまで続いているのだろう。

異様な空間に驚いたけれど、
夢だと思ったからか
以外と冷静に考えることができた。

私は壁に手をつけて、歩いてみた。

どこかに抜け穴があるかもしれないと
思ったからだ。

だが残念ながら抜け穴はなく、
私は半径数メートル程度の暗闇を
おそらくだけど、ぐるりと回っただけだった。

何故同じ場所に戻って来たことが
わかったかというと、
最初に立っていた場所の足もとに
小さく光る点のようなものがあったからだ。

あの蓮の池で見た蛍のような淡い光と
同じようなものだった。

私はしゃがんで、その淡い光を見た。

蓮の花から生まれて飛んでいた光は
ふよふよと浮かんでいたけれど、
この光は飛ばないのだろうか。

指先で突いてみると、
なんとなくぬくもりが伝わってくる。

私はそれを摘まんで、
手のひらに乗せてみた。

すると、真っ暗な空間が
少しづつ明るくなる。
淡い光が、徐々に大きくなったからだ。

最初はピンポン玉ぐらいに膨らみ、
次は野球ボール。

それからサッカーボールぐらいになった。

重たくはなかったけれど
どんどん大きくなっていくので
私はその手を離した。

すると光は私の手から離れて空間に
ぷよぷよと浮いている。

そして光は大きく……
人が入れるぐらいに大きくなった。

私は光を避けて後ろに下がったけれど
そんな私を追い詰めるように光りは膨らんでいく。

「え? ちょっと待って?」

まぶしくて目が開けれない程ではないけれど
光は驚くほど大きくなった。

私の背中には透明な壁があり、
これ以上後ろに下がれないところまできている。

光は温かかったけれど、
大きくなるにつれ、熱く感じるようになっていた。

冬場にあまりの寒さに、工場のバイト先で
電気ストーブの傍に座ったことがある。

その時はわからなかったけれど、
あまりにも電気ストーブと密着していたから
自宅に帰ってからよく見ると、
足が低温やけどをしていたのだ。

この光はあの時と同じような熱さだと思った。

こんなの肌に触れたらやけどするかも。

と、思うけれども逃げ場がないので
どうすることもできない。

絶体絶命のピンチだから
夢らならそろそろ覚めて欲しいのだけど。

頬が熱くなってくる。

「まだ膨らむの!?」

ほんと、無理ーっ!

と両手をかざして光から目をかばった。

パリン、と静かな空間に、
何かが割れる音が響く。

音は上から聞こえて来た。

咄嗟に上を向くと……どうやら上にも
透明な壁があったようだ。

光に照らされて、透明な何か……
恐らく壁、いや、天井だったものが
割れて落ちてくるのが見える。

ただ、それはガラスとは違い、
上から降ってきても私に当たることはなかった。

パシっと音がして、
私の背中にあった壁も突然、割れる。

背中の支えが急になくなり、
私はバランスを崩してこけそうになった。
それをなんとか踏ん張って周囲を見ると
光に照らされた壁が
大きく亀裂が入って割れ、
消えていくのが見える。

目の前で壁が消えていくのと同時に、
淡い光は膨れるだけでなく
輝きも増してきた。

まぶしいぐらいだ。

「ダメ!」

壁が無くなり、光はさらに大きくなる。

光がどんどん膨らみ、とうとう私は
光に飲み込まれそうになる。

あまりのまぶしさに、
私は咄嗟に目を閉じてしゃがんだ。

どれぐらい時間が経っただろう。

熱いほど感じていた光の気配が消えた。

私はおそるおそる顔を上げる。

と、そこは真っ白い空間に変わっていた。

淡く光る白い空間だ。

ここは、知ってる。
女神ちゃんがいるいつもの空間だ。

そう思った途端、声を掛けられた。

『ユウ。紅茶でも飲むか?』

「女神ちゃん?」

すぐ近くで女神ちゃんが
アンティーク調のソファーに座っていた。

木目調の大きなテーブルの上には
アフタヌーンティーの準備がされている。

ケーキスタンドに、紅茶のカップ。
ポットもあった。

『ユウが好きそうなものを用意しておいたぞ』

そう言われて、私は女神ちゃんの
そばに近づいた。

言われるままにソファーに座る。

「女神ちゃんが助けてくれたの?」

『助ける? いいや』

「でも、さっき夢で……」

そういうと、女神ちゃんは笑った。

『あれは夢ではない』

「夢じゃない?」

『そうじゃ、あれは試練じゃ』

いやな単語、聞いちゃったぞ。

私は思わず顔をしかめる。

『いや、落ち着け、ユウ。
どうじゃ? まずはこれを食べてみろ。
そなたの世界の勇が美味しいと言っておったぞ』

「勇くんが!?
元気してるの?」

『あぁ、愛する人間と楽しそうにやっておる』

「そっか、良かった」

それを聞いただけで、
私と体を交換した意味があると思えてくる。

私は素直にテーブルの上にあったポットから
紅茶をカップに注ぎ、
ピッチャーからミルクを注いだ。

それからケーキスタンドに並んでいる
サンドイッチやスコーン、小さなケーキを
お皿に乗せて食べる。

どれもこれも初めて食べる美味しさだった。

あの量販店のぺコリンちゃんケーキよりも
物凄く、物凄く、物凄く、おいしい。

お腹いっぱいだったけど、
コーヒーゼリーまで手を伸ばしてしまった。

美味しすぎる!

美味しいものを食べたからか
苛立ちや不安もすっかり消えてしまった。

そんな私を見計らって
女神ちゃんは話を始める。

『さっきのはな、『器』と『魂』を
融合させたのじゃ』

は?

私はぽかん、と口を開けたまま
女神ちゃんを見た。

スプーンに乗せたゼリーが
ぽとり、と落ちる。

「えっと、よくわかんないから
説明してくれる?」

冷静に言えただろうか。
抑揚もなく冷淡に聞こえたかもしれない。

『も、もちろんじゃ!』

笑顔で言ったつもりだったけど
私が怒っているのがわかったのだろう。

女神ちゃんは慌てたように言うと、
手ぶり身振りを付けて離し始めた。









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