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隣国へ

151:幼い?聖獣

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 言い争うような声と、
ふわふわした感触に私は目を覚ました。

あれから私、寝てしまったんだよね。

私は毛布に包まっていて、
腕の中にはすぴすぴと息をして眠る
可愛いぬいぐるみ……いや、ホワイトがいた。

うん、可愛い。

すりすりして、その感触を楽しむ。

子どもの頃、
ずっと欲しかったぬいぐるみが
このホワイトにそっくりなウサギだった。

……そのぬいぐるみに翼は
もちろんなかったけれど。

当時はまだ私も小学生ぐらいで
欲しいものを我慢をするは辛かった。

小学校の同じクラスの子供たちは
誕生日やクリスマスに色んな
プレゼントをもらっているみたいで
休み時間になると嬉しそうに
大きな声で自慢していた。

私はそんな子たちの友達ではなくて
ただ自分の席に一人で座っていただけだけど
それでも、その自慢する子の
幸せそうな顔を見て、羨ましく思った。

私もそんなプレゼントが欲しくて。
施設の皆へのプレゼントではなく、
私だけのプレゼントが欲しくて。

でも、贅沢だってわかってたから
欲しいなんて言えなかった。

施設の弟妹達がやたらと
「新しいおもちゃが欲しい」と
施設の職員さんたちにねだって
困らせているのを見ていたからだ。

それを見ている私まで
我がままを言うのはさすがに憚られた。

むしろ、そんな弟妹達を宥め、
落ち着かせるのが
小さなころから私の役目だった。

だって、生まれてすぐに捨てられた私が
年齢に関係なく、施設で一番の
『先輩』だったから。

そんな時に見かけた
うさぎのぬいぐるみは
可愛くて、私は胸をときめかせた。

抱っこしてみたいって思った。

もし施設の寄付の中に
こんなぬいぐるみはがあったら、
一番にぎゅってしたいって思って。

でも結局、ぬいぐるみも人形も
私は手にすることは無かった。

だって、施設での優先順位は
たいてい年下から、だから。

私が手にするのは、
下の子たちがいらなかったものや
飽きたものばかりだった。

仕方がないことだと思っている。
でも、今になって私は
「欲しい」って言えば良かったかな、って
思うようになっていた。

本当は修学旅行も遠足も行きたかった。

お金がかかるのを知っていたし、
施設が貧乏なのもわかってたから、
施設の弟妹達にお金を回して欲しいと
大人ぶって言っていたけど。

でも、本当は行ってみたかった。

お金がかかる学校行事の時は、
私は施設に引きこもっていたけれど、
じつは行事に参加できなかったとしても
勇くんと一緒に近所の公園でもいいから
お弁当を持ってお出かけしてみたいと
思っていた。

勇くんはずっと施設で引きこもっていたけど、
私には懐いてくれていたから、
誘えば一緒に行ってくれたと思う。

でも、私はそれすら言えなかったのだ。

勇くんを誘うことも、施設の職員さんに
お弁当を作って欲しいと
言うこともできなかった。

ずっと職員さんたちに遠慮をして
私は生きていたから。

赤ん坊のころからお世話になってるから
我がままを言ってはいけないと思っていた。

当時はそれが正しいと思っていたけど、
私は「行きたい」「やりたい」って
言えば良かったって、今は思う。

それができたかどうかは、
わからないけど。

でも、そうやって「主張する」って
大事なんじゃないかって、
この世界に来て思えるようになった。

だって、この世界では
私がやりたい、って言っても
嫌な顔をする人はいなかったから。

私を心配して止めることはあっても
ちゃんと私の意見を聞いてくれた。

それはこの世界だけでなく、
元居た世界でも同じなんじゃないかって
思うようになったのだ。

私が一歩踏み出していれば、
違った人生だったのかもしれない。

「両親にも捨てられて、
どうせ愛されないから」なんて拗ねて。

同じ境遇の勇くんを巻き込んで、
世界でふたりぼっち、なんて勝手に思い込んで。

手を伸ばしたら、
あの世界も。

もしかしたら違った世界に
見えたのかもしれないのに。

だって。
私のことを、こんなに好きだって
言ってくれる人がいるのだから。

元の世界にだって、
私のことを大切に思ってくれた人が
いたんだと思う。

私が目を向けなかっただけでーー。

「だから、ユウを支えたのは俺で
ユウが大事だっていったのは
俺のことだ」

「ええ、ユウさまが言われていましたね。
大切な仲間だと。

それはあなたのことでしょう。
ユウさまは、私のことを言おうとしたとき、
あなたの存在を思い出し『仲間』と
言い換えただけ。

それにユウさまをお支えしたのは
私の右手が先でしたよ?」

「俺が先に足を出したんだよ」

「ユウさまの身体を足で支えようなど
なんて不届きな」

「とっさに足が出たんだよ。
ユウの体が傾くから」

「では、身体をお支えしたのは
私が先ということですね」

そんな不毛な会話が、延々と続いている。

どっちが先私の身体を支えたか
なんてどっちでもいいと思うのだけど。

でも、そんなことで喧嘩をする二人の気持ちも
嬉しいと思ってしまうのだから、
私の「愛されたい」欲はなかなかなものだと思う。

元の世界で、ちゃんと愛情を受け取っていたら
こんな欲深くはならなかったのかな?

でも、今はこれはこれで嬉しいし
幸せだから、別にいいのかな。

そんなことを考えていると
腕の中のホワイトが私の胸に鼻を押し付けて来た。

「ふふ、起きた?」

ホワイトに声を掛けると、
「ユウ!」
「ユウさま!」
と二人が勢いよく私に駆け寄ってくる。

「お身体は?」

「大丈夫か!?」

一番近くにいたマイクが私の傍で膝を付き、
手を握ってくる。

そのすぐ後にディランが
私の横に到着し、肩を抱き寄せた。

「二人とも、心配かけてごめんね。
連れて帰ってきてくれてありがとう」

ほんとに。
本当に。

私はこの世界に来て。
私を好きだと言ってくれる皆の出会えて、
本当に良かった。

この二人に会えてよかった。

私は愛されているという嬉しさに
マイクとディランの手を取ると、
一緒にいてくれてありがとうと、
2人の手の平を自分の頬に押し当てた。

驚く二人の顔も嬉しくて。

私はクスクスと笑ってしまった。






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