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隣国へ

148:闇と光のまざりもの

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 淡い光はくるくると舞い、
岩の裂け目に吸い込まれていく。

そして光が吸い込まれると
今度はその裂け目から
闇の魔素が大量に吐き出された。

それは…最初は少しの量で
闇の魔素を感じると思った程度だったけど、
光が吸い込まれる度に
吐き出される量も増えた。

今では岩の周囲が黒くなっているのが
目で見てわかるほど
濃い闇の魔素が岩をおおっている。

ただ、異様な光景ではあるけれど、
岩は……岩だったので、
私たちに攻撃をしてくることはなかった。

生命を感じられない静かな森で
大きな岩だけが闇の魔素を生み出している。

私だけでなく、マイクもディランも
動くことができなかった。

どう行動していいかわからなかったのだ。

せめて攻撃を受けたのであれば
反撃することができる。

だが、岩はただ闇の魔素を吐き出すだけだ。

闇の魔素を浄化することはできるが
闇雲にただ浄化して良いのかも、
迷うところでもある。

大気中の魔素はバランスが大事だ。
闇の魔素をすべて浄化すれば良いと
いうことではないし、

逆に闇の魔素を生みだす何かであれば
それを調べてみる必要がある。

ただ…そう、ただ。
物凄くあの岩には近づきたくない。

私はそれだけは思った。

あの岩から禍々しい、
呪いのような気配を感じるのだ。

正直、怖い。

井戸を浄化したときは、
例の黒いムシと同じように思えて
ただ気持ち悪いというだけだったけど。

今は違う。

私の心にあるのは、恐怖だ。

正直、見なかったことにして
来た道を戻りたい。

でも、できないことも理解している。

「ユウさま、いかがいたしましょう」

マイクが緊張をにじませた声で言う。

マイクもきっと感じているのだ。
あの岩から溢れる闇の匂いを。

「ユウ、
あの岩、叩き割ってみるか?」

ディランがそんな提案をしてくる。

「いや、ちょっと無理無理」

「無理? なんでだ?」

「あの真っ黒い中に突っ込むの?」

岩の周囲を闇の魔素が取り囲んでいる。
とてもじゃないけど、近づける気がしない。

「嫌な感じがする。
こういうのは、先に動いた方が良い」

ディランはそんなことを言う。

言いたいことはわかる。
わかるけど…。

迷って、目の前の岩を見る。
何か…行動を決める決定打は無いだろうか。

「ひゃっ!」

私は咄嗟に一番近くにいたディランの
背中にしがみつく。

「ユウ?」

「ユウさま、如何なさいました?」

しがつみつかれたディランは
視線は岩に向いたまま。

マイクは視線を岩に向けたまま
私に手を伸ばして
強張り、ディランのシャツを握っていた指を
丁寧にほどいてくれた。

ディランは剣を構えていたけれど、
マイクは基本的に魔法攻撃なのだろう。

手に何も持っていないので、
私はマイクにほどかれた指で、
今度はマイクの手を掴んだ。

誰かのぬくもりは、安心する。

私は短く呼吸をしながら
なんとか平静を保った。

「あの割れ目から……何か、見えた」

私はもう一度、岩の裂け目を見る。

そう、見えたのだ。
巨大な……井戸の時に見たよりも
もっと大きくて長い、触覚のようなものが。

ヤダヤダ、それだけはやめて?

普通に恐怖しかないのに、
生理的な嫌悪感まで感じるモノが
あの裂け目から出てきたら、
正気を保てる自信がない。

「なんだ? あれは…」

ディランも気が付いたようだ。

黒いもやような中に、
長い棒のような……言いたくないけど
触覚みたいな何かが動いている。

岩を覆う黒いもや
目を凝らしても良く見えないけれど、
逆に、見たくない、って思ってしまう。

「魔獣…魔物でしょうか」

マイクが私の身体を支えてくれた。

「そう…かも。
でも、ちょっと違う気もする」

正直、よくわからない。

鳥肌が立つほど嫌なのに、
じっと見ていると純粋な<闇>とは思えない。

何か……いると感じる。

……混じっている?
何と何が?

が。

淡い光の群れと、吐き出される闇が。
確かにあの黒いもやには混じっている筈だ。

じゃあ、あの黒く長いものは、

光? 闇? それとも
浄化……できるだろうか。でも。

「マイク」

「はい、ユウさま」

「浄化してみる。
できるかどうかわかんないけど。
何かあったら、お願い」

「はい。防壁魔法を展開致します」

「ディラン」

「おう」

「あんなの、見たこと無いから
浄化をしたらどうなるかわかんないの。
もしかしたら苦しんで攻撃してくるかも」

「まかせとけ」

2人の頼もしい言葉に勇気付けられる。

私はマイクから少しだけ離れた。

イメージが固まらない。
どうすればいいか私が迷っているからだ。

私が今できること。

それを考える。

あの黒いもやを消し去る。
浄化する。

空気が……綺麗になる。

この森に息吹が戻る。

鳥の声に、木々が風で揺れる音。
小さな動物たちが駆けまわるような
そんな森になる。

よくわからない岩のことを
考えることはやめた。

イメージできないことは、
私の『力』にならない。

だから私は今、できることをーーーー。


私の身体が熱くなり、光が帯びる。

「消え去れ!」

森を本来の姿に!












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