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新しい世界

132:決行

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 少し気まずい空気が流れた。
私は大丈夫だと笑顔を作る。

「じゃあ、今夜出発する?」

わざと軽い口調で言った。
決めたのなら早い方がいい。

この国に戻って来たその日に
出ていくなど、誰も考えないだろう。

「疲れてるだろうから今日はゆっくり寝てね」
なんてカーティスも言っていたし。

それにきっと国王陛下は
それを望んでいるのだと思う。

そうでなければ、
金聖騎士団の皆がいないのに
カーティスやバーナードが
2人そろって私のそばにいないのはおかしい。

今まで常に金聖騎士団の誰かは
必ず私のそばについていてくれた。

ましてや、あのカーティスが
長時間私から離れているなど、
誰かの思惑が無ければ無理だと思う。

そして第三王子であるカーティスに
それができるのは国王陛下だけだろう。

「よろしいのですか?」

マイクの言葉に私はうなずく。

「うん。余ったお菓子は持っていこう。
美味しかったから、マイクの分も残しておいたの」

そう言ったら、マイクは泣きそうな顔をして
…笑った。

「ディランもいいよね?」

「あぁ、このデカいベットで
ユウと寝るのも楽しそうだったが、
変な邪魔者がいなくなるならその方がいい」

にやり、とディランは笑う。

じゃあ準備しよう、と私は
ずっと持って歩いていたクマちゃんを
ディランに渡した。

「それも持っていくのか?」

ディランは不満そうだ。

「荷物になるし…ダメ?」

「ダメじゃねぇが、アイツらの代わりなんだろ?
面白くない」

嫉妬か!
これ、嫉妬してるってことだよね?

「そんな嬉しそうな顔をするな」

ディランがそう言って私の髪をぐじゃぐじゃ撫でる。

「ユウさま。
着替えなどはどれをお持ちしましょうか」

マイクが私のクローゼットを開けてくれたけど
持っていきたいものは無い。

だってこの国の人たちが準備してくれたものだから
全部、置いて行きたいのだ。

私は、隣国に行く。

「今まで持っていたので、いいよ。
最悪なんとかなると思うし。

ディランとマイクも準備…は
この部屋ではできないよね?」

「いえ、私も今まで持っていたもので
十分ですので」

「俺もそうだな。
必要ならまたどこかで仕入ればいい」

「うん、そうだよね」

女神ちゃんの力を貰った私は
最悪な事態に陥ったら、
なんでも創造できそうな気もするし。

そして私たちは、
夜が更ける頃までのんびり過ごした。

一応、マイクには
家族の人に会うように言って
事情は…どこまで説明するかは
マイクに任せた。

あとやっぱり着替えとか
必要なものもあるかもしれないので
それも持ってくるように言う。

マイクは旅の資金も調達してきます、と
頼もしい言葉を言って出かけて行った。

出発は夜更けだ。

警備の人たちの交代時間の隙間に
この宮を出ることにした。

国王陛下が関わっているのだから
おそらくだけど、護衛や警備の人たちにも
なんらかの指示が出ていると思うのだ。

私は…部屋に置手紙を置く。

金聖騎士団の皆へ1通と、
ヴァレリアンたち金聖騎士団の皆
一人一人にも手紙を書いた。

再会できた喜びと、
何も言わずに出立する謝罪と。

そして隣国の様子がわかったら
必ず戻ってくると書いて。

またバーナードには
もし結婚式に間に合わなかったら
ごめん、って一言、書いておいた。

だって私を待って式を挙げないなんて
申し訳ないし。

それから何かあったら
『大聖樹』に話しかけて欲しいとも書いた。

私が応じることができるかわからないけど
私と仲良くなった聖獣が
私がいない間『大聖樹』を守ってくれるので
その聖獣が私に知らせてくれるから、と。

レオはあれから姿を見せないけれど、
私が呼んだら来てくれると思うので
この国と『大聖樹』を気にしてもらうよう
お願いしようと思っている。

そうして私たちは夜が更けたころ
宮を出た。

案の定、いつもはきっちりと
交代する警護や警備の人たちが
時間になっても現れず、
何やら騒がしいことになっていた。

きっと国王陛下が手を回したのだろう。

誰にも気づかれずに出て行って欲しいという
意志が見える。

だから私たちは騒ぎと闇に乗じて
宮を出て、街へと向かう。

……誰にも会わなかった。

街はまだ酒場の明かりがついていたけれど、
人通りが少ない道を選んで通る。

マイクは国王陛下から旅の資金も貰ったらしく
それを使って街はずれで馬を2頭買った。

マイクとしては国王陛下からお金など
受け取りたくはなかったらしいが、
王命を受け入れた証として
必要なことだったらしい。

馬を買った家は夜中にもかかわらず
明かりがついていて、
マイクとも顔見知りだった。

なんでも以前、マイクの家で
御者として働いていた人らしく
マイクが先に馬を売ってくれるよう
お願いしていてくれたらしい。

いきなりの頼みだったのに、
その人は快く馬を売ってくれた。

しかもマイクが支払った馬の金額は
かなり多かったようで、
これで新しい若い馬が買えると
何度も頭を下げてお礼を言っていた。

ありがとう、はこちらなので
私は恐縮してしまう。

私はいつものフードのついた
コートを着ていたし、
ディランが私を守るように
立っていたので、その人は
なるほど、なるほど、と別れ際に頷いた。

「駆け落ち…ですかな?
いやぁ、羨ましい」

「は? いえ…」

「いいんですよ。
マイクぼっちゃん。
このことは誰にも言いません」

「いえ…、その、ありがとう」

マイクは困ったように呟いた。

この場合、私の駆け落ち相手が
マイクだと思った…ってことかな?

駆け落ちする二人と護衛?

確かに見える、と思ってディランを
見たら、不機嫌そうな顔をしているので
私は言葉にするのをやめた。

言ったらディランが拗ねてしまいそうだ。

案の定、馬を買い取ると
私は有無を言わさずディランと
同じ馬に乗せられる。

「俺が駆け落ち相手でもいいだろう」

耳元で囁かれ、やっぱり拗ねた、と
笑ってしまう。

「あの人はマイクの知り合いだったから
そう思っただけでしょ」

「私は…とても光栄でした」

隣を走るマイクはうっとりと言う。

「あはは。とにかく
出来るだけ遠くに行こう。

王様が指示してくれたんだから
すぐには見つからないと思うけど、
カーティスに見つかったと思ったら…
恐ろしすぎる」

どんなをされることか!

「なんだ?
やっぱりあいつはユウを脅してたのか?」

「違う、違う」
なにがやっぱり?

「ただ、カーティスは私の独占欲が強いというか…
その…」

「……わかった」
私のお言いたいことを理解したのか
ディランは短く言う。

「そんなことより、
隣国への道はわかるのか?」

隣で馬を走らせているマイクが
当然のことを訪ねてくる。
なにせ地図すらないもんね。

「わからん」

これもまた短く答えるディランに
マイクは目を見開いた。

でもこれも仕方ないのだ。
だって女神ちゃんは道を作ってないのだから。

「だ、大丈夫だよ、マイク。
きっとなんとかなるよ」

女神ちゃんが今、作ってるからね。

「ユウさまがそう言われるのであれば…」

「とにかく今は…マイクと最初に会った村に
向かおうよ」

この国の一番端にある村。

「そう…ですね」

ディランに初めて会ったのもあの周辺だ。
マイクも素直に頷く。

そうして私は、新たな冒険へと
旅立ったのだ。



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