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新しい世界

131:裏切り?

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夕食の時間になるころ、
ようやくマイクが戻って来た。

私たちの食事は、侍従さんが
私の部屋に準備してくれている。

あの後、カーティスが私のクマちゃんを
持って来てくれて、私はディランに
クマちゃんの着せかえをして
見せてあげた。

でも、私がずっと持っていたクマちゃんは
金聖騎士団の制服のままだ。

なんだかお守りみたいに思えて
着替えさせる気にならなかったのだ。

その後、甘いお菓子とお花のお茶が届いた。

カーティスとバーナードはその時に
なにやら侍従さんに言われて、
この部屋から出て行ったきりだ。

ディランは二人っきりだ、と
嬉しそうに言われ、
照れながらお菓子を食べた。

それから、もう一度
女神と愛し子と、そして聖女の話をした。

ディランも聖女のことは
あまり理解していないようだったけど
愛し子との共通点を見い出したみたいだ。

まぁ、どちらも女神ちゃんが考えて
配役はどちらも私なので
そんなに違いは無いと思っていたけれど。

そんな話をしていたら
疲れた顔のマイクが戻ってきて
一緒に夕ご飯を食べる…のだが。

マイクの様子がおかしい。

夕飯を食べ終わり、
マイクに入れて貰ったお茶を
飲みながら、私はマイクを見た。

「マイク、大丈夫?
何かあった?」

私の言葉に、マイクは、いえ、と
言葉を濁す。

「言ったよね?
一人で考え込んだり
何かを決めたりしないでって」

私は飲んでいたカップを置き、
マイクの手を握った。

マイクは私を見つめ…
申し訳ありません、と呟いた。

「何があった?」
ディランもさすがに不審に思ったようだ。

「じつは、この宮に着いてすぐに
枢機卿に呼び出されたのです」

マイクはうなだれた。

マイクの話では、最初、枢機卿は
愛し子わたしのそばにいることが
できる神官は貴重だと
かなり褒めちぎったらしい。

そしてなんとか愛し子わたし
神殿に引き込めるよう
手配をしろと命じたという。

マイクは無理な命令には
従うつもりはなく、
神官も辞するつもりだったらしい。

そこへ…国王陛下の側近の一人が
勅命書を持ってやって来た。

勅命書には、愛し子わたしの護衛と
世話役を務めるように。

そして、隣国に旅立つのであれば、
何があっても私をこの国に戻すようにと、
そう書かれていたらしいのだ。

王命を拒否することはできない。
もし拒否した場合は
一族全員が処分される。

マイクは自分だけが神官を辞めれば
それで済む話だと思っていたが
一族全員を巻き込む決断などできやしなかった。

そこでマイクは黙って、勅命書を受け取り、
この部屋に戻って来たらしい。

「しかも…彼はこう言ったのです。
金聖騎士団が揃うまでに
できるだけ早く発つように、と」

つまりヴァレリアンたちが戻ってくる前に。
それどころか、金聖騎士団の皆に
知られないように出ていけ、ということか。

確かに知られたら
簡単には出ていくことなどできないだろうけど。

「やっぱり王様なんだねー」

「ユウさま?」

叱られる、もしくは責めらされるか、
国王たちへの不満を言われるか。

そんなことを思っていたのだろう。
私がしみじみと呟いた言葉に
マイクはその言葉の意味を
知ろうとするかのように私を
じっと見つめて来た。

「だって王様、優しそうだったし。
ヴァレリアンのお父さんも…
きっと、息子のことが可愛いんだろうな、って
そんな瞳をしてた。

だから、私に欲しいものとか
聞いてくれたと思うし。

でも、それと、国のことは別なんだよね」

この国の人間を
隣国の問題に巻き込むわけにはいかない。

私はそう思っていた。

逆に、国王陛下は隣国の問題に
首を突っ込みたくない。

もしくは、息子がまきこまれるのを
防ぎたいと思っていたのだろう。

友好な関係が築けるかどうかも
わかっていないのだ。

下手をしたら国際問題…
この国の王子を人質に取られる可能性だってある。

あらゆる可能性を考えて
この国は愛し子わたし
一旦、切り捨てることを決めたのだ。

ただし、息子たちのために
マイクと言う枷を付け、
私が必ずこの国に戻ってくるようにした。

優しいだけの国王であれば、
こんな真似はしないと思う。

国と愛し子わたし
天秤にかけて、私を落としただけのこと。

そしてそれを知った息子たちが
後を追うことが無いように
私に釘を刺した。

容赦ないと思ったが、
当たり前のことだとも思う。

よくわからない愛し子より
そりゃ、国や家族の方が大事だろう。

理解できるし、
怒ることでもない。

ただ、なんだろう…
ちょっとだけ、そうちょっとだけ
落胆した。

カーティスやヴァレリアンの
お父さんなら、
私も家族みたいになれるかな、って
思ってたから。

私が思っていたように
隣国の問題に巻き込まれたくないからと
言うのであれば、直接、私に
話をしてくれるかと思っていた。

だって、挨拶には来てくれたから。

勝手に私の知らないところで
権力を使って、嫌な思いをする人まで
生み出して。

無理やり私を縛り付けようなんて
そんな真似をされるとは思ってもみなかった。

会話もまともにしたことがなかったのに、
表面上、優しくされただけで
私は何を期待していたのかと、
そう思う。

元の世界では馴染んだこの感覚を
私は思い出した。

元の世界で私は
勝手に期待して、勝手に裏切られて
人と接するのが嫌になったのだ。

そのことを思いだし、
はは、って私は笑った。

心のどこかで私はまた期待していたのだ。

この世界に来て、出会った人たちは皆、
私に好意的で愛してくれたから。

私に出会った人は皆私を愛してくれると
心のどこかで傲慢になっていた。

そんなわけないのに。

この世界で私は随分と
自分勝手で傲慢な人間になっていたようだ。

それに気づかせてくれて、
国王陛下たちには感謝だ。

「出会った人たち皆が私を愛してくれる」なんて
ふわふわした気分で隣国に行っていたら、
誰かに騙されたりしていたかもしれない。

気を引き締めないと。

私はそう思った。




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