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新しい世界
128:世界のことわり
しおりを挟む私は改めて、2人を見た。
座って話をした方が
良かったかもしれないけれど、
じつは二人は体が大きくて
立ったままの方が視線が合いやすいのだ。
「私がこの国に来た理由と、
『聖樹』と魔素の関係をお話します」
私は改めて、人間の負の感情により
『聖樹』が枯れていったこと。
つまり国が乱れ、争う心が国に蔓延したことで
『聖樹』が枯れたことを伝えた。
それを打開するために
私が異世界から連れて来られたのだ。
そして<闇>の魔素を操ろうとする人間が
いたことを例に挙げ、決して魔素は
人間たちでは扱うことができないことも伝える。
何故なら、女神は人間の感情にまで
干渉することができないから。
自然の魔素は空気中に普通に漂っているものだけど
<闇>の魔素は違う。
ただし<闇>の魔素も含め
様々な魔素が溢れているからこそ
世界はバランスよく動いているのだ。
<闇>の魔素だけを排除することはできないし
逆に、排除すればいいというものでもない。
大切なのはバランスなのだ。
それが崩れると『聖樹』は枯れていく。
女神は世界の運命も、人間たちの運命も
何一つ、操作することはできない。
すべては、この世界に生きる人たちの
感情と意志が絡み合い、
運命は決まっていく。
その話に、目の前の二人だけでなく
バーナードもカーティスも。
ディランでさえも固まっていた。
そりゃそうか。
災害とかも「すべては女神の意志で」とか
解釈してそうだもんね。
それに、個人的な不幸に関しても。
女神が定めた運命だとか
そういう形で納得していたのかもしれない。
でも、違うのだ。
私は話しを続けることにした。
信じる信じないか、個人の自由だと思う。
私は女神ちゃんの話を聞いて
このことに気が付いたけれど、
否定するのであれば
それでもいいと思う。
ただ、このことを知っておいてもらえれば
今後『聖樹』や<闇>の魔素を使って
暴走する人間がいなくなればいいと
そう思っただけだ。
「次に、隣国の話ですが…」
「ちょっと待ってくれ」
ヴァレリアンのお父さんが
私の言葉を遮った。
「運命とは、女神が決めることではないのか?」
何か…過去にあるのかもしれない。
でも、私は頷くしかできないのだ。
「たとえば…私は、
この世界に女神の意志でやってきました。
これは運命かも、しれません。
でも…あまり詳しくは言えませんが
私は元の世界で、女神にこの世界の現状を聞き、
どうするかを、自分の意志で選択しました」
勇くんの魂を見捨てるか、
この世界を救うか、という
究極の二者選択だったけど。
「私がそれを拒絶していれば、
この世界は滅んでいたかもしれません。
それもまた、運命です。
私の意志と、女神の意志と。
そしてこの世界の状況が、運命を創ったのです。
もちろん、私の意志だけで
この運命が生まれたわけれはありません。
この世界の人たちの嘆きや祈りが
絡み合い、女神を突き動かし、
私…異世界の人間に助けを求めようと
思ったのかもしれませんし」
つまり、様々な感情や意志、
思考が絡み合って、運命とやらに
なっていくのだ。
ヴァレリアンのお父さんは
苦しそうな顔をしたが、すぐに
わかった、と頷いた。
「話を続けてくれ」
「はい」
私はディランの国の話をした。
一応はディランの許可を取って、
ディランの国でも『聖樹』に関して
問題があることを告げる。
まさか「幼女で聖女」の話はできないけれど
『聖樹』が絡む問題なので
女神から、何とかして欲しいと頼まれていること。
そして、金聖騎士団の皆がいてくれるのは
心強いけれど、隣国がどのような状態なのかも
わからない今、大人数で移動しようとは
思っていないこと。
何があるかわからないので
もちろん、王族であるカーティスたちを
連れて行くつもりはない。
ただ、もしこの国が
協力をしてくれるのであれば
状況を確かめた後、ここに戻ってくるので
手を貸して欲しいことを告げた。
「それに、バーナードの結婚式は
ぜひ出席したいですし」
バーナードは私のお兄ちゃんだもんね、と
バーナードを見ると、嬉しそうな顔が見れた。
「なるほど。
愛し子様の気持ちは理解した」
国王陛下が言う。
「さて、我が息子はどうする?」
「私はユウと一緒に行きます」
カーティスが意気込んで言う。
「おそらく、俺の息子もそう言うだろうな」
ヴァレリアンのお父さんが肩をすくめた。
「まぁ、まだ結論を出すのは早い。
今日はのんびりされるといい」
国王陛下はそう言うと立ち上がった。
ヴァレリアンのお父さんも席を立つ。
バーナードがドアに駆け寄り
扉を叩いた。
そして頭を下げる。
「そうだ。愛し子様。
何か欲しいものはあるか?」
ヴァレリアンのお父さんが部屋を出るときに
言ってくれた。
でも、とっさには浮かばない。
だって、欲しいものはもう持ってるもの。
「あの、花の形をしたお茶が飲みたいです。
甘くて、綺麗な…」
折角言ってもらえたので、
辞退するのも申し訳ないと思い、
私は一度、この部屋で飲んだことがある綺麗で
美味しいお茶を思い出してそう言った。
「あの、私…甘いものが好きなので」
お茶が欲しいと言った時の
目を見開いた顔が怖くて、
私は誤魔化すように言った。
「あぁ、そうか。
いや、すまない。甘いものだな。
菓子と一緒に用意させよう」
「ありがとうございます!」
やったー、久しぶりの高級お菓子だ!
小躍りしたくなるのを押さえ、
私はお礼を言う。
それに頷き、2人は部屋の外へと出た。
「バーナード、高級お菓子だよ!
この国の王様がくれるんだから、
きっと美味しいよね!」
振り返って言うと、
苦笑したバーナードと
満足そうなディランと。
そして、物凄く不本意そうな
カーティスが見えた。
「ユウ、なんで私と一緒に行くのが
嫌だとか言うかな?」
カーティスが優しい仕草で
私を抱っこする。
「だ、だって、
カーティスは王子様で
この国にとっても大切な人でしょ?
何があるかわからないのに、
一緒に来てなんて言えないし」
「何があるかわからないから
私がユウを守るんじゃないか!」
苦しそうに言われ、
でも、と思う。
隣の国のことは、
隣の国の人たちが解決すべきことだ。
カーティスたちを巻き込みたくない。
「カーティス、落ち着け。
ユウの今の気持ちはそうだ、ってことだろう」
バーナードが私とカーティスの間に入ってくれる。
「ほら、座って。
ユウも…疲れてるなら休むか?
それとも、陛下が言っていたお茶菓子が
届くまで何かで遊ぶか?」
「遊ぶ…」
私は考える。
「そうだ。クマちゃん!」
私はカーティスの腕から逃れて
テーブルの上の箱を手に取った。
くまのぬいぐるみは2体あったハズだ。
「もう一つのくまちゃんは?」
バーナードに聞く。
「あれは…ヴァレリアンの執務室だな」
カーティスが言う。
「そっか…着せ替えしてあげようと
思ったけど、しょうがないか」
なんで執務室に?と思ったけど、
まぁ、いいか。
「いや、私が取ってこよう」
カーティスはそう言うと
私の頬に口づけた。
「私はユウのためなら
何でもしてやりたいからな」
そう言って早足で出ていくカーティスに
バーナードは息を吐いて
まずはお茶を淹れよう、と
嫉妬するような目でカーティスを追う
ディランを見てから
私をソファーに座らせた。
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