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新しい世界
125:喧嘩は終わり
しおりを挟む険悪な空気を私とバーナードが必死で
とりなし、全員でお茶を飲むことにした。
今は不敬とか関係ないから、ね。
と、ヴァレリアンたちとマイクの確執を
無かったことにして、
むりやり全員でお茶を飲むことにしたのだ。
と言っても、お茶を淹れたのはマイクだし、
椅子に座っているのは私とディランとホゴシャーズ。
バーナードもマイクもヒヨコの二人も
立ったままお茶を飲んでいる。
まぁ、ソファーの数が足りないから
仕方がないんだけど。
しかも私は、何故かディランの膝の上に乗っていた。
空気は痛いが、仕方がない。
座る椅子が無いのだし、
さすがにこの国以外の人間に
ヴァレリアンたちも命令をすることは
できないと察したようだ。
できれば仲良くして欲しいと
願いを込めて、私はディランとマイクとの
出会いを『大聖樹』の元から連れ去られた
経緯と共に説明をした。
バーナードに出会ったことや
『聖樹』のことも。
そして女神に会い、
この国の『聖樹』を巡って欲しいという
依頼を受けていたこと。
そして今回の、この教会の件もまた
女神に頼まれていたのだと説明する。
本当は違うけど、
「幼女が聖女」の設定の名残だから
似たようなものだろう。
そしてディランと一緒に
ディランの国に行くことも伝えた。
マイクは驚いていたが、
これも女神に頼まれたと言うと、
分かりました、お供します、と
マイクは笑顔で言う。
さて。
ここからどうするべきか。
「ユウはこの後はどうするつもりだ?」
ヴァレリアンが口を開いた。
「女神ちゃんの話では、
残りの『聖樹』はもう心配ないみたいだけど
一応、見ておこうかと。
それが終わったら、
ディランと…」
マイクが、私をじっと見た。
「……マイクと一緒に
隣の国に出発かな」
マイクがうんうん、と
満足そうにうなずいている。
「行けそうか?」
と、ヴァレリアンが主語も入れずに
スタンリーを見た。
「一旦、王宮に戻って
調整した方がいいだろう。
だが、たぶん、全員で隣国へ、と
言うわけにはいかないだろうな」
「私はユウと行くから、
ヴァレリアンは王家を頼む」
「何を勝手に決めてやがる」
カーティスの言葉に、
ヴァレリアンが不機嫌そうに言う。
「ユウちゃん、俺!俺!
俺も一緒に行く!」
相変わらず元気にエルヴィンが
手を上げているが、
その隣でケインは険しそうな顔をしていた。
バーナードもまた
何も言わずに考えるような仕草をしていた。
「えっと…私は皆に付いて来て
貰おうとかは思ってなくて」
「ユウは私とまた離れ離れに
なってもいいのかい?」
カーティスが手を伸ばし、
私の指に触れようとした。
が。
ディランがさりげなく
私を抱き上げてソファーから立った。
「あんたたちのことも
ユウの事情もわかった。
だが、ユウはあんたたちだけのものじゃねぇし、
コイツは…」
「おまえだけのものでもないがな」
ヴァレリアンが低い声で言う。
なんだかもう、ややこしいことになってる。
これ、どう収拾つけるつもりよ、
女神ちゃん。
妙な祝福のせいで
恋愛もしたことない私が
いきなり二股愛人ドロドロ劇場みたいな
ことになってるじゃない!
どうしよう。
みんな大好きー♪と
子どものふりして頑張ってみる?
イタイ女子みたいになるけど。
私がオロオロしていると、
持っていたカップをテーブルに置いて
バーナードがそばに来てくれた。
私の安全地帯!
愛しのお兄さま、バーナードだ。
私はディランに抱っこされたまま
腕を伸ばしてバーナードに抱きついた。
ディランは不満そうな顔をしたが、
私が自分から移動を望んだので
拒否はできなかったようだ。
「とにかく金聖騎士団は
この街の復興の任務がありますし、
すぐにユウと一緒に
旅にでることは無理でしょう」
バーナードはヴァレリアンを見た。
「どうです?
思い切って、王宮に一度戻り、
ユウのこととこの街のこと、
『聖樹』の問題もありますし、
陛下に話をして仕切り直してみるのは」
「そう…だな」
ヴァレリアンはカーティスと
スタンリーを見た。
2人も頷いている。
「では、仕方がない。
2班に分かれる。
カーティス、お前は…」
「私はユウと行くよ」
カーティスが笑う。
「そうだよね?
王弟の息子と第三王子、
どっちが偉いのか考えてみて欲しいなぁ」
「俺は…団長だが?」
「ユウが絡むと別なんだよね」
と、カーティスが笑う。
ヴァレリアンはこめかみを押さえた。
「じゃあ、カーティス、
バーナードはユウと一緒に
他の『聖樹』を確認しながら
王都へ向かってくれ。
俺とスタンリー、エルヴィン、
ケインはここに残り、
この教会に復興に力を注ぐ。
スタンリーは教会と街が最短で
うまく機能できるよう策を練ってくれ。
ケインは神官たちとのつなぎ役だ。
お前の顔は広く知られているから
年寄りたちでも、一応、敬意は払うだろ」
「団長、俺は?」
エルヴィンが手を上げる。
「おまえは、わかってるだろう?」
「えー、もう早馬は嫌だ~」って
子どものように言えるのは、
この金聖騎士団が、家族のように
気やすい関係だからだ。
上下関係はあるけれど、
ちょっとしたところで、
身分や階級など関係なく
このような冗談も言いあえる。
他の騎士団では恐らく無理だろう。
少人数で、なおかつ特別な身分の
人間が集まる金聖騎士団だからこそだ。
「ユウが『聖樹』を巡っている間に
こちらの街が調ったら、すぐに追いかけるし
無理だった場合は、『大聖樹の宮』で待っててくれ」
最後は私を見てヴァレリアンは言った。
私は頷く。
正直…待ってるかどうかはわかんないけど
出来る限りは要望に沿おうとは思う。
そんなこんなで、
出発は私の体調が万全になってから。
そう言うことで話はまとまった。
もちろん、マイクとディランは
私と一緒に行動する組になる。
バーナードは、この二人と
カーティスの間に挟まれて胃が痛いと
出発するまでひたすら呟いていた。
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