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新しい世界

114:聖樹の街へ

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 激しくマイクに抱かれた翌朝、
私とマイクは宿を引き払い、出発した。

いよいよだ。

朝までマイクにひっついて眠っていたので、
愛情で満たされたせいか
心も『器』も満タンだ。

『聖樹の街』までは、馬車で移動するらしい。

マイクが宿で馬車と御者を借りてくれていた。

タクシーみたいなものか。

ただし『聖樹の街』は屋台の人が
言っていたように、外部の人は入れないので
馬車は街の門の前まで。
街に入ったら徒歩になるらしい。

って、わざわざ申し訳なさそうに
御者のおじさんから言われたけど、
元々歩くつもりだったから、
問題ない……けど?

首を傾げると、
御者の人の話では
『聖樹の街』はかなり大きいらしい。

というのは、街を囲む外壁が
物凄く大きいらしい。

歩きなれていない高貴な方は
街で馬車を探す必要があります、と
御者のおじさんは、何度も頭を下げた。

私は高貴でもなんでもないけど、
高級宿に迎えに来てもらったから
きっと誤解されてるんだろうな。

…マイクは貴族だと思うけどね。
『聖樹の街』は街を出て半日ぐらいで着くらしい。

距離的にはもっと短く、
早く行けるらしいのだけど、
馬が歩くには、道が困難らしい。

崖とかあったら嫌だな。

マイクは『聖樹の街』でどうなるのか
予測がつかないので、
水や簡易食を宿で購入していた。

まだ早い時間だったせいか、
街中を馬車で通っても、
誰の邪魔にもならない。

私たちは街を出て、
『聖樹の街』へ進む。

馬車は貴族用の馬車らしく、
クッションもあり、
なかなか快適だ。

「ユウさま、お膝に乗られますか?」

と、向かいに座っていたマイクが気を遣って
聞いてくれたけど、
大丈夫だ。

いつもは辻馬車とか、荷馬車での
移動だったのでお尻が痛くなったけど
この馬車は乗り心地が良いもんね。

そう言って笑ったら、
マイクは何故か、寂しそうな顔をした。

あれ?
もしかして、膝に乗って欲しかったとか?

じゃあ乗る?

って乗せてもらうのに、
物凄く偉そうだな、私。

どうしようか迷っていたら
マイクが私に声を掛けて来た。

「隣に座ってもよろしいでしょうか」

「うん」

それなら即答できる。

「到着まで時間がありますし、
この時間に仮眠を取っていただいても
構いませんよ」

「うん、ありがとう」

確かに朝は起きるのが早かったし、
眠たいと言えば、眠たい。

でも、とうとういわくつきに
『聖樹の街』に行くかと思うと
緊張しているのか
眠る気になれなかった。

そこで私は窓の外を
見ることにした。

風景を見ていれば
気もまぎれると思ったのだ。

馬車の窓にはカーテンが
かかっていたので、
私はその隙間から外を覗いてみる。

窓の外はまだ街を出たばかりだからか、
踏み固まった大きな道の両側に
旅の人たちを相手にしているのだろう
宿屋や、食事処がぽつぽつある。

マイクの話では
街の中心にある宿よりも安いので
平民の間では利用する客も多いのだとか。

建物が徐々に無くなってくると
徐々に道が狭くなっていく。

もちろん、馬車は通れる程度はあるけれど
窓から手を出したら、両脇に生えている木や葉を
掴めそうな感じだ。

私たちは途中、道の脇にある小さな小屋で
馬車を止めて休憩した。

ちゃんとした休憩所で
馬が飲む水もあったし、
木で作ったイスとテーブルもあった。

少し早いけれど、
私とマイクはそこでお昼ごはん代わりに
簡易食を食べ、御者のおじさんは
お弁当を食べた。

御者のおじさんは、年配の、
人が良さそうな人で
『聖樹の街』の話もしてくれた。

なんでも、御者をして何年にもなるが
あの街の通行書を持っている人を乗せたのは
私たちが初めてらしい。

「昔は、通行書なんて必要なかったんだよ」

おじさんは、そう言った。

「だけど『聖樹』が枯れかけた事件があったろ?
あのあたりから、あの街は封鎖的になってしまって、
中で何が起こっているのか、
さっぱりわからないんだ」

奇妙と思うけれど、
探りに行った人は一人も帰ってこなかった、
なんて噂もあるし、
通行書を持って入った行商の人たちも
中で何があったかは、絶対に話そうとしないらしい。

だから心配だ、とおじさんは言ってくれた。

「もしかして…生贄とか、
そんなんじゃないか、って思ってね」

「大丈夫ですよー」
私は笑って見せた。

『聖樹』が生贄って、ありえない。

私が手を振って大きく笑ったせいか
おじさんは、真面目な顔をして首を振った。

「いや、ここだけの話だが…
最近、あの街から来た神父が、
貧乏な平民の子どもを
買い取っていると言う噂もあるんだ」

え?
それって、人身売買では!?

「しかも、一人や二人じゃない。
あの街の『聖樹』は、王都にある『大聖樹」が
枯れかけた時も、青々とした葉を付け、
実を生らしたと言う。

それは…その子供たちを
生贄にしたんじゃないか、と
言われているんだ」


怖っ。
なにそれ。

この世界は、BLエロの金字塔であって
ホラーではない筈だ。

だからそんなことない、って
笑い飛ばしたかったけど。

正直、そういう幽霊とかホラー系は
私はめっぽう弱いのだ。

思わず隣に座っていたマイクの服の裾を掴んだ。

「お、ごめんよ。
怖がらせてしまったかな」

私の仕草に気が付いたおじさんが謝る。

「でも、あくまでも噂だから」

なんて言ってくれたけど、
あそこまで話をされては、
笑い飛ばせなくなってきた。

マイクはおじさんの話に何か
考え込んでいて、
出発の時間になり、馬車に乗っても
塞ぎ込んでいるようだった。

「マイク、どうしたの?」

気になり過ぎて、
私はマイクの服の袖を引っ張る。

「あ、いえ、申し訳ありません」

「何か気になる?」

「いえ…思い過ごしでなければ良いのですが。
まだユウさまにお話しできる段階ではありませんので」

マイクは首を振る。

そんなことを言われたら、
知りたくなる。

「怖いこと?」

「そう…ですね」

マイクが頷いた。

そう言われると、聞きたくない気もするけど
でも、やっぱり聞く。

怖い話は嫌だけど
何も知らずに怖い街に行くのや嫌だ。

「じゃあ、教えて」

私は無理やりマイクの膝に乗った。

御者のおじさんに聞こえないように
小さな声で話ができるように配慮したのだ。

マイクはいきなり膝に乗ったので
驚いたようだったが、
すぐに嬉しそうに…そう、何故か
嬉しそうに微笑った。

「ユウさまが自ら私の膝に
乗ってこられるとは。
嬉しくて仕方ありません」

そっと背中から腕をお腹に回されるけど
これは、私が落ちないように、だよね?

そういう甘い空気じゃないからね?

早く話を聞かせて、マイク。








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