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新しい世界

109:乙女の言い分<マイクSIDE>

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 今朝もユウさまは、
何と、可愛らしいことか。

私は朝食をテーブルに並べながら
ユウさまを盗み見る。

食事は時間と料理を指定しておけば
宿の者が準備をして部屋に持ってくる。

それを私がテーブルに並べるだけなのだが
ユウさまは、私が紅茶を淹れる間ですら、
ちらちらと、私の様子をうかがうように
視線を向けているのだ。

昨夜、肌を重ねた時のことを思いだし、
恥ずかしがっているのだろう。

あまりにもユウさまが可愛らしい反応をするので
私は毎晩、ベットだけでなく
ユウさまが腰かけているソファーや
厚手の絨毯が敷いてある床でさえも
ユウさまを求め、抱いてしまった。

それもこれも、朝、目覚めたユウさまが
昨夜愛し合った場所を見るたびに
頬を染め、困ったように俯いたり
視線をそらせたりする姿を堪能したいがためだ。

ただ、いざ食事が始まると
ユウさまは、なぜか私を見る。

私がユウさまより大量に食事をする姿が
珍しいのか、見ていると楽しいと言われるのだ。

だが、ユウさまが私を見てくださっている。
それだけでも、嬉しい。

ユウさまを私ごときが抱くなど、
大それた夢だと思っていた。

このような肉欲など、
ユウさまに見せるべきでは
なかったと思っていた。

けれど、ユウさまは違った。
私のすべてを受け入れてくださったのだ。

それでも二人きりの宿で
私はユウさまとの距離を考えた。

ユウさまのお世話をしながら、
愛し合う時以外では、どのような距離で
ユウさまと接すればいいのかを
考えたのだ。

拒絶されれば、そこまでにしようと
最初は紅茶のカップを渡すときに
ユウさまの手を取った。

ユウさまはビックリされたようだが
笑顔で、ありがとう、と言われた。

嬉しくなり、着替えをお手伝いする際に
背中から…抱きしめたくなったが
それは我慢をして。

後ろからユウさまの胸のボタンを
留めるふりをして、首筋に唇を落とした。

ぴくん、とユウさまは可愛く反応したが
何も言わなかった。

それどころか、頬を赤く染め
俯いてしまわれたのだ。

可愛らしくて愛しくて。

ずっとこのまま、
この宿でユウさまと過ごしたいと
そんなことを思って浮かれていた私を、
例の街からの封書が叩き落とした。

この宿での生活も今日で終わりだ。

残念すぎて、
無言で朝食を食べてしまう。

だが、そんな私をユウさまが
じっと見つめてくる。

私の落胆に気づかれたのだろうか。

「……あの、ユウさま」

「え? あ、なに?」

だが、私の心配は杞憂に終わった。
ユウさまは、ただ私を見ていただけらしい。

それはそれで、幸せなことだが。

「いえ、あまり見つめられると…」

誤魔化すように言うと、
「あ、ごめん」
とユウさまは謝罪の言葉を口にする。

私のような下の者にも
ユウさまはこうして謝罪の言葉を
口にすることをためらわない。

その優しさと公平さに、
私はいつも敬意を感じる。

「ユウさまに見つめられるのは光栄ですが、
少し照れてしまいますね」

私が少し笑って言うと、
ユウさまも微笑えまれた。

見つめ合って笑いあう。
そんな関係をユウさまと築けるなど
思いもしなかった。

なんて光栄で幸せなことだろう。

「こうしてユウさまと一緒にいると
封を…開けたくないとわがままを言いたくなります」

だから、言ってしまった。
封筒に視線を向け、

ユウさまの小さな手に
自分の手を重ねて。

「ずっとこのまま、
2人だけで過ごせたらと…
夢を見てしまいます」

可愛らしいユウさまは
すぐに頬を真っ赤に染めた。

「ユウさま」

その顔を見たくて、ユウさまの顔を
覗き込んだが、白い額が見えて
つい、唇を押し当ててしまった。

ユウさまは、ますます俯いてしまう。

けれど、ユウさまはそのまま…
頬を私の胸に寄せて来た。

あまりの嬉しさに
一瞬、動揺してしまったが
私はいまだにテーブルの上で
重なり合っていた手を動かした。

性急にならないように。
ユウさまを傷つけないように。

ユウさまの指に、私は自分の指を絡めた。

いきなりこのまま抱きたいと、
口にすることは憚れたので。

ユウさまの手の甲を指で擦る。

私が触れるほど、
ユウさまは恥ずかしいと
頬を染めるにもかかわらず、
私の手は拒まない。

それどころか、私の指に
自ら指を絡めてくる。

口づけても構わないだろうか。

こんなとき、いつも私は
ディランを思い出す。

あいつは乱暴で強引で
何故ユウさまが懐いていらっしゃるのか
理解に苦しむところだが。

何も言わずにユウさまを抱き寄せたり、
膝に乗せたり…口づける姿を
羨ましいとも思う。

私はこうして、ユウさまに
拒絶されないかを確かめなければ
触れることさえできないのに。

それでも口づけたくて
ユウさまに頬を寄せたが、
勇気が出ない。

ユウさまと頬と頬が触れ、
やわらかい感触を頬に感じる。

と、それに驚いたのか
ユウさまが私を見た。

瞬間、唇が重なる。


ユウ様が目を見開き、真っ赤になった。

なんて。
なんてユウさまは…。

「ユウさまは、本当に可愛らしい」

この愛しいという想いを
どう抑えればいいのかわからない。

惹きつけられるように
もう一度唇を重ねて、
私はユウさまを引き寄せた。

情欲にまみれた顔を見せたくなくて
ユウさまを抱きしめ、
その肩に顔を寄せる。

「明日出立するために、
今日はこのまま…宿で過ごしましょう。
体調を調えておかなければ…」

せめて今日は一日中ずっと
このまま一緒に過ごしたい。

そう思うのは過ぎた望みだろうか。

「マイクは…ゆっくりしたい?」

私の意志を確認するように
ユウさまが問う。

それは肌を重ねたい?って
聞かれたのだと思う。

ユウさまの頬は
真っ赤に染まったままだったから。

「はい。明日に備えて今日は一日
このままで」

ユウさまが私を受け入れてくださっている。
それが、嬉しい。

「うん。じゃあ、ゆっくりしよう」

その言葉を聞き、私はユウさまの身体に
指を這わせる。

「ゆっくりなら、触れても…?」

それでも、ユウさまに私は問うた。
最後まで、拒絶しないかを確かめたかった。

けれど、私が少し白い肌を撫でただけで
ユウさまの肌は赤く染まり、
瞳が潤んだ。

あぁ、ユウさまも私を望んでいるのだ。

身体が熱くなる。

「ユウさまも私を欲しがってくださるのですね」

たまらない。
けれど、乱暴にはできない。

そっとユウさまの身体を
ソファーに倒す。

性急になり過ぎていないか、
ユウさまに負担になっていないか
私は探るようにユウさまの顔を覗き込んだ。

するとユウさまは優しく笑い、
私の首に腕を回す。

そして、私の身体を引き寄せると
互いの心臓を合わせるように
深呼吸をした。

まるで私を堪能するかのように。

指先が、身体が、歓喜で震える。

優しくして差し上げたい。

私の肉欲が、激しく醜悪だからこそ、
ユウさまに知らないように
優しく、快楽に溺れさせたい。

けれど、そう思うその裏で、
私はユウさまを乱暴に組み敷きたいという
欲望が牙をむいている。

ディランのように。
あの男のようにユウさまを乱暴に抱いても
ユウさまは私を求めてくださるだろうか。

ユウさまの快感など無視して、
白肌を無理やり羞恥に染め、
可愛らし秘所を解すことなく
私の欲棒で貫いたとしたら…

ごくり、と私は喉を鳴らした。

試してみたい。

愛し子のユウさまの愛情を試すなど
恐れ多いことではあるが、
私は…どうしてもユウさまに
と確認したかった。


『聖樹の街』に行くことへの
警戒心や不安もあったのだろう。

どうしてもユウさまが
私が何をしても、
私を求めてくださるのだと
そう確信を持ちたかった。

だから…私は。

いつになくやや乱暴に、
ユウさまのシャツを脱がし、
ユウさまの樹幹に触れる。

このように性急に私が
ユウさまの樹幹に触れたことは無い。

だから驚かれたのだろう、
ユウさまが私を見る。

けれど、ユウさまは何も言わない。

だから私は。
試したくなった。

ユウさまがどこまで私を受け入れてくださるのか。
何をしても私を求めてくださるのか。

それを知りたくなったのだ。

だから私は乱暴にユウさまの樹幹を扱く。

ユウさまの手が私の腕を掴んだ。
黒い瞳が、甘く潤んでいる。

「お慕いしております、ユウさま」

手は乱暴に、けれども口調は丁寧に。

私はソファーの上で乱れ始めるユウさまを
ただ愛しいという気持ちで見つめていた。





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