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新しい世界

107:特別な聖樹の街

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 翌朝、私は内心悶えながら
マイクと一緒に宿で朝ご飯を食べていた。

マイクが買ってきてくれたパンと
紅茶を飲んでいる。


何故悶えているかと言うと…
昨夜、ベッドでマイクに愛された後、
喉が渇いてしまって、
マイクにお願いして水を飲ませて貰ったのだ。

その流れで…というか、
雰囲気にのまれてしまって
今座っているソファーの上でも
マイクに抱かれた。

ソファーの背にしがみついて
マイクが後ろから私の中に挿入したときは
あまりのキモチイイに、
私は樹幹から蜜を何度もソファーに
零してしまったのだ。

喘ぐ私が、ずるずると床に座ると
マイクはまだ私の中の欲棒を入れたままで
床の上で背中から多いかぶさるように
私を揺さぶり、私の中を貫いたのだ。

性欲などなさそうな顔をしているのに
マイクは獣のように私を求めた。

それが…愛されている証拠だと思えて
嬉しい反面、恥ずかしくて仕方がない。

このソファーも、どことなく
甘い匂いがするような気がするのだけれど
気のせいだろうか。

私が恥ずかしがっていることに
マイクは気が付いている筈だけど
何も言わずに、にこにこしている。

マイクは恥ずかしいとか無いのか
通常運転だ。

そんなマイクは今、私のそばに立って、
執事のように紅茶のおかわりを
淹れてくれている。

「ユウさま、今日はどうされますか?
街を散策しても構いませんし、
『聖樹』を見に行かれるのでしたら
手配致します」

「え? 『聖樹』ってこの街にあるの?」

現実的な話に、
恥ずかしさが吹き飛んだ。

「この街ではありませんが、
このすぐそばの街に『聖樹』はあります。

ただ、残念ながらすぐに行くことは
出来ませんので、使いを出すことに致しましょう」

「すぐ近くにあるのに、すぐには行けないの?」

「はい。その…」

マイクは言い淀む。

「ややこしいこと?」

私は嫌な予感を感じつつ、
マイクに私の前に座るように言った。

「ゆっくり聞かせて?」

「……はい。
教会内部のことですので、
あまり言いたくは無いのですが」

マイクはそう前置きしながら
私の前に座った。

マイクの話では、
この街のすぐ近くに『聖樹』を
中心とした街があるらしい。

この『聖樹』は、『大聖樹』から
初めて接ぎ木をして移植した
由緒正しい(?)『聖樹』らしい。

そのせいか、他の『聖樹』よりも
力があると言われていて、
多くの信者が集まっているんだとか。

つまり街とは言っても、
そこに住んでいるのは『聖樹』を崇拝する信者ばかり。

街全体が教会みたいな状態だというのだ。

そしてその街は、自分たちの崇拝する『聖樹』が
一番だという考えから、王都の大教会を
軽んじる者も多いらしい。

つまり「よそ者」は嫌われる街であり、
神官であるマイクさえも、
街の人たちにとっては「よそ者」もしくは
大教会の回し者であり、
敵認識されている可能性があるらしい。

何それ、権力争いってやつ?

でも、しょせんは分家なんじゃないの?

って思うけれど、
『大聖樹』が枯れ始めた時、
その街の神官たちは、自分たちの街の『聖樹』が
次代の『大聖樹』だと大喜びしていたんだって。

ただ、その街の『聖樹』が実際に枯れそうだったのか
それとも被害が全くなかったのかは
大教会にも報告がなくわからなかった。

だから今回、私と一緒に
その街に行くことができるマイクは
こっそり視察をしたいと思っているらしい。

「でも、大教会のことも無視しているのに
私が行っても聖樹、見せてくれるかな?」

むしろ、邪魔者扱いになりそう。

「さすがに愛し子であるユウさまを
無視することは無いと思いますが」

「うーん、だったらいいけど」

ちょっと気が引ける。
でも行かないわけにはいかないし。

バーナードが先にその街に
私が行くという知らせを送ってくれていて
あとはマイクが「私が行くよ」と言う連絡をすれば
街に入れる手筈になっている…らしい。

らしい、というのは
相手が拒絶しなければ、ということだ。

嫌だなー。
嫌な予感がする。

だって、女神ちゃんの話では

ちょっと『聖樹』を見て回るだけでいいから。
もうこの国は全然大丈夫。

って感じだったのに。

こんなところで不穏な話が出てきたら
不安になってしまう。

また女神ちゃんとは関係なく
何かが動いているのだろうか。

以前、人間たちが<闇>の魔素を使い
魔獣や魔物を操ろうとして
多くの人が犠牲になった事件があった。

あの事件は女神ちゃんが感知していないところで
人間たちが勝手に起こした事件だ。

あの事件を知った時、私は女神ちゃんを
責めてしまったけれど。

その後、時間が経ってから
責めるべきではなかったと反省した。

何故なら、「人の運命というのは
人間たちが考え行動した結果」なのだ。

悲惨な結果も、苦しい事態も、
多くの人間たちの思考や感情が絡み合い
行動した結果なので、そこに女神ちゃんが
口や手を挟むことはできない。

そんなことをしてしまっては
人間は女神ちゃんの「あやつり人形」になってしまう。

だから女神ちゃんは人間たちに
自由に考え、行動する力を与えているのだ。

それで人間たちが自滅するのであれば
仕方がない…けれど、それでこの世界が
滅びに向かっていたから。

女神ちゃんは私をこの世界に連れて来た。

そう考えると、
女神ちゃんが人間たちに介入できるのは
人類が滅亡するとか
そういうレベルのことだけで、
それ以外は放置…良い言い方をするのであれば
人間たちの自主性に任せているんだと思う。


女神ちゃんは人間たちの思考を
支配したりはしない。

だからその『聖樹の街』も
人間たちの思考や思惑が
詰まった結果生まれた街なんだと思う。

その『聖樹』を崇拝している街の人たちは
まさか…女神まで拒絶しているとは思わないけど。
大丈夫かな。

この世界を破滅に導くような
妙なこと、してないよね?

私は早くディランの国に
行かないとダメなんだからね。

「わかった、じゃあとにかく
その街に連絡してみてくれる?」

「かしこまりました」

マイクはそう言うと失礼します、と
席を立ち、何やら手紙を書いて
宿の人に渡していた。

これで返事が来たら出立になる。

『聖樹の街』に入るのは
通行書が必要で、それを送ってもらうらしい。
通行手形みたいなものだろう。

今まで普通に街を行き来していたから、
勝手に通行書とか作ってもいいの?って聞いたら。

この国は通行書や通行税などは
各土地の領主の采配に任されているらしい。

ただ、あまりにも酷い場合は
国王が裁く場合もあるけれど、

この国の王さまは独裁を好まず、
できるだけ各領主が自主的に話し合い
領地を治めるようにと言っているんだそうだ。

とってもいいことだと思うけど、
今回はそれが裏目に出たってことか。

私とマイクはそれから、街の散策を楽しんだ。

街は活気があって、裏の路地は暗くて怖そうだから
入らなかったけど、大通りでは皆笑顔でお店の
呼び込みしていたり、子供が走り回っていたり。

ただ、ジュースの屋台でマイクが
『聖樹』がある教会で祈りを捧げたいと
観光客を装って聞くと
ジュースを売っていたおじさんは
マイクにジュースのカップを渡すのを
一瞬、止めた。

「あんた、まさかあの街に
行くつもりじゃないだろうな」

「無理なんでしょうか」

何も知らないふりをして
マイクが聞く。

「知らずに来たのか…。
あの街は、よそ者は入れないんだ。
旅行者なんてもってのほかだ」

おじさんは手を離して
マイクにカップを渡した。

「ですが、教会は誰にでも開かれ、
どのような者にも手を差し伸べるのでは?」

「あの街は、別だ。
街の周囲を高い塀が囲っててな、
まるで要塞のようだ。

それに、限られた者しか入れない。

行商でさえ、通行書が必要だし、
街に住むのはすべて神官と神父だけだと
言われているんだ。

つまり、神官と神父以外は
女神様への祈り妨げるから
街には入っちゃダメなんだとさ」

女神の祈りを妨げるって、
妨げるものがあってもなくても
女神ちゃんとは話せないよ?

女神ちゃんは好き勝手にやってるから。

って思ったけど、もちろん言わない。

しかも、その街の高い塀は
魔法も遮断するとかで、
外からの攻撃は一切効かないらしい。

ということは、私が井戸で
ぶちかました『力』は届いてないかも。

なんてこった。

女神ちゃんがどこまでわかってたのかは
知らないけれど。

これ、私に「その街のことを何とかしてね」
って言ってるんだよね?たぶん。

まさか、これも『幼女が聖女』の
設定のために作った試練とか言わないよね?

以前、この世界は女神ちゃんの
「幼女が聖女になって溺愛される世界って
いいよねー」という発想で創られようとしていた。

けれど途中で「やっぱり美少年が愛されるのが素敵」
と路線変更をしたために、
男性しかいない世界になったのだ。

本来ならば、完璧に『幼女が聖女』のための
設定は排除されていなければならないのだけど
そこは、いい加減な女神ちゃん。

そんなことはすっかり忘れて
『BL愛の金字塔』の世界に突っ走ってしまった。

おかげで私は、金聖騎士団の皆と
一緒に行動していた時、
私は聖女でも何でもないのに、
聖女になるための試練とやらに
巻き込まれたことがある。

巨大な魔獣に襲われ、
バーナードが死にかけたのだ。

ほんと、勘弁して欲しい。

あの時、さすがにめちゃくちゃ怒って
女神ちゃんに聖女の試練は回収するように
厳命したのだけれど。

もしかして、まだ試練が残ってたのか言わないよね?

あぁ、そうだった。

女神ちゃんは、そういえば
聖女の試練をいくつ作ったのか、
そして、いくつ回収したのかもわからないとか
言ってたっけ。

あぁ、ダメだ。

嫌な予感しかない。

あの行き当たりばったりの
ダメダメ女神を、誰か指導してやって欲しい。


……いや、誰も指導できなかったから
この世界は滅びそうだったのか。

なーるほど、はっはっは。

って、笑ってる場合じゃないけど
笑うしかないわーっ。







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