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新しい世界

95:聖騎士

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 ようやく、街にたどり着いた。
私も馬たちもヘロヘロだった。

元気なのはディランとマイクだけだ。

回復魔法を私は使えるとは思うのだけど、
マイクからは使用を禁止されている。

私が、魔力の力加減が分からないから、
力を使った後の結果が予想できないことが
理由だ。

確かに、たかが組紐で、
あんなチート級のお守りができたんだもの。

そう言いたくなる理由はわかる。

着いた町は、もともとバーナードから
指示を受けて街だった。


マイクはバーナードのメモに書かれた
住所にを見ながら、
私たちを案内する。

「ここ…だと思うのですが」

小さな家の前でマイクは立ち止まった。

「なら、行くか」

バーナードがこの家を訪ねろと
言うのであれば、必要なのだろう。

ディランが家の呼び鈴を押すと、
中から屈強な、と言いたくなるような
大きな白髪の老人が表れた。

老人と言っても、
おじいさん、ではない。

年は取っているとは思うけれど、
騎士と言うか戦士と言うか。

とにかく目つきが鋭い怖そうな人だった。

マイクが丁寧に挨拶をしたので、
私もディランもそれに続く。

そしてマイクがバーナードの
話をする前に、入れ、と家の中に通された。

こじんまりとした家で、
居間のようなところに私たちは案内された。

ソファーに座るなり、
「何をやった?」と聞かれる。

まだ老人の名前もちゃんと聞いてないのに
いったい何の話をしているのか。

「申しわけありません。
いったい何の話をされているのか
分かりかねるのですが。

私たちがここに来たのは
金聖騎士団のバーナード殿から
ここに立ち寄るように言われたから。

咎めだてされるような真似は
したつもりはありません」

マイクが言うと、
老人はそうか、と大きく頷いた。

「すまん。疑ってしまった。
ではそなたが、バーナードの愛し子だな?」

老人の鋭く光っていた茶色い瞳が、
優しく緩んだ。

ドキっとした。

バーナードは私の正体を
老人に話していたのか。

「良い良い、わしもバーナードと
同じ元聖騎士でな。
バーナードはわしの教え子みたいなもんじゃ」

私の緊張を察したのか、
老人は、大きな声で笑った。

「え、バーナードの先生?」

「そうじゃ、わしも盾役じゃったから、
バーナードに盾役を指南したのはわしじゃ」

凄い!
だから体が大きかったんだ。

目がキラキラしてしまう。

バーナードの先生は、ガリュさんと言った。
本当はもっと長い名前だけど、
ガリュでいい、と言われた。

そして物凄い勘違いをしていた。

「バーナードが愛し子と言うぐらいじゃから
どんな子かと思ったが、
確かに可愛い顔をしておる。

その髪は染めておるのか?

バーナードがジュリと結婚すると
言っておったが、そなたが
2人の子として養子に入るんじゃな」

「いえ、あの、えっと…」

「恥ずかしがらんでもいい。
養子に入る前から、愛し子と呼ばれるなんぞ、
よほど愛されていると見える」

私はちらり、とマイクを見た。

どうする?って思ったけど、
マイクが頷いたので
このまま勘違いさせておくことにした。

「そうそう、この街で療養したいそうじゃな。
わしの離れの家を貸してやろう」

「いいんですか?」

マイクがガリュさんから鍵を受け取った。

「かまわん。どうせ使ってないからな。
馬屋もある。

困ったことがあれば、何でも言ってくれ。

ただし、掃除は頼む」

「はい、ありがとうございます」

話はマイクとガリュさんで
どんどん進んで行く。

ディランはじっと黙って
ガリュさんを見つめていた。

「なんじゃ? 若造。
わしに言いたいことでもあるか?」

とうとうガリュさんがディランに
声を掛けた。

「手合わせをお願いしたい。
そうとう強いとお見受けした」

ディランが敬語を使ってる!

私だけでなく、
マイクも目を開いて驚いていた。

「かまわんが…手加減はできんぞ」

「助かる。
守るもんができて、強くなりたいと
思っていたところだ」

ガリュさんは、嬉しそうな顔をした。

「いい面構えじゃ。
気に入った!」

庭に出ろ、と二人で話が進むので
私とマイクは申し訳ないけど
先にガリュさんの離れの家に行くことにした。

離れはガリュさんの庭を挟んで隣側にあり、
すぐに行き来できそうだ。

離れの家に着くと、
埃っぽい匂いがしたので
とにかく窓を開けて換気をする。

家の中のものは勝手に使っていいと
言われていたので、食器や家具、
ベットやシーツなどをマイクと手分けして確認した。

窓の外からは、ガリュさんとディランが
剣の打ち合いをしているのが見える。

あまり見ていると、怪我をしないか
心配になるので、できるだけ気にしないようにする。


その後、マイクと街に出かけ、
食料品などを買い出して、
離れにもどったのだけど、
ディランはまだ戻ってきていなかった。

稽古の後、ガリュさんとお茶でも飲んでいるのだろうか。

マイクと相談して、一休みしてから
一緒に夕食を作った。

マイクは本当に嬉しそうな顔で
私のそばで料理を作る。

私は味見係みたいなもので、
マイクのハイスペックさに驚くばかりだ。

夕方になり、ディランが戻って来た。

先に汗を流したいと言うディランが
シャワーを浴びている間に、
私とマイクは夕食をテーブルに並べる。

肉とパンとシチュー。
この世界ではおなじみのメニューだけれど、
味は保証付きだ。

だって、めちゃくちゃ美味しかったもん。

ディランが濡れた髪のままやって来た。

拭かないの?って聞いたけど、
腹が減った、というので、
とにかく夕飯を食べることにする。

ディランは食べながらガリュさんの話をした。

最初に「何をやった?」と聞かれた理由だ。

どうやら私たちが逃げ出した街で、
私たちはお尋ね者扱いになっているらしい。

罪状は街の治安を乱した罪、らしい。

そっちが襲ってきたからじゃん、って思ったけど
領主の雇った人間を打ちのめしたから
そうなったんだろう、と、ガリュさんは判断したとか。

ディランは街で私に目を付けた
ゴロツキと領主が私を攫おうとしたので
逃げ出した、と説明したらしい。

そしてガリュさんは、
ディラン曰く、物凄い強さらしい。

できればこのまま稽古をつけてもらいたいから
しばらく街に滞在したい、とまで言われた。

私は構わないけど、ディランはいいの?って
一応は聞いておく。

『聖樹』は急がなくても大丈夫みたいだったし、
ディランの国に急いで行く必要が無いのなら
反対する理由は無い。

マイクを見たら、マイクも私が良いというなら
いつまでも、と言った。

「俺が稽古しているからって、
ユウを独り占めできると思うなよ」

ディランが何故か負け惜しみみたいなことを言う。

「そのようなこと、
思ってはいませんよ」

マイクは言うが、ディランは不満そうだ。

「今日は俺がユウと寝るんだからな。
そうだろ、ユウ」

「う、うん」

「ユウさまに不埒な真似をするつもりですか?」

咎めるようにマイクが言い、
「不埒じゃねーよ」とディランが反論する。

私はおろおろと二人の間に立っていた。

こんな時、どうしたらいいのだろう。

「ユウ。
今日は俺と一緒に愛し合おうな」

え?
それ、返事できない案件ですが。

「ユウさま。
このような戯言に付き合ってはなりません」

そ、それにもなんか頷けない…
いや、頷いていいのかな、この場合。

どうしよう。
どうする?

ってわかんないから、
逃げるしかないよね。

「わ、私も汗を流してくるっ」

言い逃げだ。

私は席を立つと、
浴室に向かって走り出した。

ごめん!
食器の片づけは後でしますっ。





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