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新しい世界

93:お揃い

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 あの後、私は一人で
ディランの飲み物を買いに行った。

ドキドキだったけど、
ちゃんとマイクに教えてもらった通りに
コインを数えて、お店の人に渡した。

この世界に来てから
初めての、一人でのお買い物だ。

小躍りしながらディランの所に戻ったら
カップの中の果実水が零れていて、
怒られはしなかったけど、
苦笑された。

でも、嬉しい。

ディランやマイクにもらったお金だけど
なんとなく、お金の相場とか
価値みたいなのが分かったような気がする。

気がするだけだけど。

でも、水と果汁ジュースの値段はわかった。

もう大人だけど、
大人になった気分だ。

ルンルンで宿に戻ると
宿の人が部屋の掃除をしてくれていたらしく
部屋が綺麗になっていた。

ベットのシーツも新しい。

私はマイクに買った謎の布を出してもらい、
ベットの上でそれを並べてみた。

クマちゃんも一緒だ。

マイクとディランはテーブルに地図を広げ
また何か話をしている。

私はクマちゃんの前で
1つ、1つ謎のリボンを手に取って
見つめてみた。

やっぱり綺麗だと思う。

もっと薄かったらいいのに。
そしたらリボンとして使えるし。

でも鉱石が入ってるから
分厚いのは仕方ないのか。

どう見ても革のベルトぐらいの
分厚さはあると思う。

あとは幅も広い。

って、これ、ベルトにしたらいいんじゃない?
って思ったけど。

私はベルトが必要な服は着ない。

うーん。
どうしようか。

ふと、クマちゃんを見て、
あ、って思う。

クマちゃんは金聖騎士団の皆の
髪の色や瞳の色を取り入れた石が
サッシュに使われているのだ。

なら、この謎のリボンを使って
同じように、皆の色を使った
小物を作るのはどうだろう。

今は金聖騎士団の皆には
会えないから、まずは
ディランとマイクに何か…

何がいいだろう。

ベルト…は必要ないし、
腕輪みたいなの?

は、邪魔になりそう。

2人ともアクセサリーとか付けるような
タイプじゃないもんね。

もう少しこの謎のリボンの幅が細かったら
組紐みたいに編み込んだりできるのに。

って、これ、自分で幅を
細くしたらいいんじゃない?

固そうだからナイフとかじゃ
切れないだろうけど、
私の魔法でどうにかできないかな。

魔法…。
たぶん、使えると思うんだよね、私。

簡単な魔法が使えるのはわかっている。
火をつけるとか、水を沸かすとか。

でも日常生活で私は魔法を使うことが無い。

いつも誰かが世話をしてくれているからだ。

お茶一つ、自分で淹れることが無い。

だから、あまり試したことはないのだけれど。

魔力はある、と思う。

最悪『器』に溜まった力を使えばいいんだから
この世界を壊すほどの魔力があると
思っていいはず。

そんな力があるのに、
この布一つ、切れないなんてことが
あるはずもない。

通常、魔法は呪文の詠唱だとか
そういうのが大切だと言われてるみたいだけど
私は違う。

だって、何も知らないもの。

けど『器』の力を使う時は
いつもイメージを浮かべることにしている。

未来の様子を思い浮かべ、
力を発動するのだ。

だから今回も同じようにしてみようと思う。

私はマイクの髪と同じ
銀色に見えるリボンと、

ディランの髪と同じ
群青色に見えるリボンを手に取った。

あと、おまけで私の黒色と同じリボンも
手に取って、残りは袋に片付けた。

私は3つのリボンを手に
どんな姿がいいかを想像する。

そうだ。

やっぱり組紐にしよう。

じつは元の世界で私はちょっとだけ
組紐を編んだことがあるのだ。

工場のバイト先のおばさんたちが
いきなり組紐作りにハマってしまい
休憩時間に作りだしたのだ。

そこで作ったものを色々いただくうちに
何故か一緒に作ることになってしまって。

かなり長い間、私のお昼休憩時間は
組紐作りに費やされることとなった。

おばさんたちは、おしゃべりしながら
楽しそうに作ってたけど、
私はその輪になかなか入れなかったから
一生懸命、組紐を結んだ。

オリジナルのアレンジ方法とか模索して
髪留めとか、腕輪とか。
あと、時計のベルトなんかも作ったことがある。

仕上がったものは全部おばさんたちに
あげちゃったけど、材料はおばさんたちの
余った紐を貰っていたから、
無料で楽しい趣味ができた感じで嬉しかった。

よし。
決めた。

吉祥結びにしよう。

結構難しい結び方だったけど、
お守りの結び方らしく、
招福、平安、健康を祈る結び方だから
縁起が良いと、おばさんたちからも大好評だった。

……おばさんたちは、不器用なのか
誰ひとりこの吉祥結びを結べなかった。

そのおかでげ、私は
おばさんたちの分だけでなく
おばさんたちの家族の分とか
友だちの分とか、山ほど作ったので
目を閉じただけで作り方は思い出せる。

ディランやマイクにはいつも
守ってもらってるし、
怪我とか病気とかして欲しくないもんね。

できれば、危険な目にあった時に
剣で襲われたらそれを弾いてしまうとか
魔法攻撃を受けたら盾が出て守ってくれるとか。

そんなあからさまな防御ができたら
嬉しいけど、それは望み過ぎかな。

カッコいいと思うけど。

でもお守りだから、
お財布に付けてもらうとか
鞄の飾りにしてもらうとか、
してもらったら、嬉しいかも。

ピンで服に留めたら、
ブローチみたいになるし。

なんて思って、
私は手の中のリボンを持って
これが細く裁断され、組紐の…
吉祥結びになっている所をイメージした。

ついでに、ご利益がありますように、
なんて祈っておく。

女神ちゃんにお願いしても
ご利益はなさそうだから、
元の世界の神様に
お願いします、って思って。

そして『器』に意識を向けた。

<闇>の魔素とかは関係ないけど
力を使わせて!

いいよね、女神ちゃん。

私は『器』から力がリボンに
注がれるイメージをする。

そしてそのまま
未来を思い描いた。

ディランやマイクが吉祥結びのお守りを
使って喜んでいる姿だ。

リボンを握っていた手が
明るく光る。

まぶしい、って咄嗟に目をつぶったけど
光ったのは一瞬だった。

「おーっ」

目を開けて手を広げてみると、
出来てた!

吉祥結びの組紐が。

凄い。

細い糸みたいになっていて
自分で結ばないとダメだと思っていたのに、
仕上がった物ができちゃった。

わーい。
良かった、楽ちんだった。
って喜んでいたら、
慌てた様子でマイクとディランが
私の転がっていたベットの傍にやってきた。

「ユウ、何やったんだ?!」

ってディランが私の掴むので
私は起き上がって、へへん、と胸を張った。

「ユウさま、どうされたのです?
何かあったのですか?」

マイクが心配そうに言うので
大丈夫、って笑って見せた。

それよりも、見て見て、って
私は二人に手の中のものを見せる。

「これは…?」

ディランが呟き、マイクを見るが
マイクも首を振る。

そりゃ、知ってるわけないよ。
元の世界の日本文化だもん。

私は光にかざすと銀色に輝く組紐をマイクに。
群青色に輝く組紐をディランに渡した。

「これね、組紐って言うの」

私は紐を使って色々な結び方をすることで
お守りやアクセサリーになることや、
結び方に意味があること。

2人に渡したのは吉祥結びと言って
お守りになることなんかを説明する。

「でね、ほら。私ともお揃い。
いつもありがとう」

って二人に言ったら、
ディランは照れたような顔をして
私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

マイクは瞳をうるうるさせて、
生涯、大切に致しますと
深々と頭を下げる。

「大切にしなくていいからね、マイク。
これはお守りだから。
危険なことがあったら、身代わりになってくれるの。

だからこれが無くなったり、
紐が切れたりしたら、
組紐が守ってくれて、お役御免になったってことなの。

だから大切にしなくていいから、
どこかに…カバンとか財布とか、
いつも持っている物に付けておいてね」

もしこれが無くなったら、
それは自分の無事を喜ぶことだし、
またいつでも作るから大丈夫、って
言ったら、マイクは嬉しそうに
何度も頷いた。

「じゃあ、これは財布に
入れておけばいいのか?」

ってディランが聞いてくる。
私は頷いた。

でも私は、吉祥結びは可愛い結びなので、
ピンブローチみたいにして
ポンチョに付けようかな、
なんて思っている。

と伝えたら、

「で、では、私もユウさまと同じ
ピンブローチにして、
コートに付けておきます」

とマイクが言う。
するとディランも

「あーじゃあ、俺もそうしようかな」

なんて言うので、
明日また、露店でピンを買うことにした。

ふふ。
楽しみ。

こんなに可愛い組紐が
あっという間に作れるんだもん。

魔法ってすごい!

もっとたくさん、
色んな紐や布を買おうかなー。

なんて。
私は能天気に考えていた。

この時までは。






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