59 / 355
新しい世界
60:聖女
しおりを挟むすべてを話し終えた時、
ディランは呆然としていた。
情報を処理できなかったのかもしれない。
そりゃそうだよね。
私が異世界人だってことも
理解してもらえたかどうか
わからない。
それに、女神ちゃんのことも
赤裸々に伝えすぎたかな。
少なくとも【敬愛する女神様】では
無いもんね、うん。
「なんだよ、それ!」
ディランはいきなり怒鳴って立ち上がった。
「じゃあ、ユウはあれか?
色んな奴に抱かれるために
存在してるってことか!?」
わー。
言い方考えてー。
って棒読みしてしまう。
はっきり言われると、
ちょっと傷つくよ、私だってさ。
それに、抱かれるために、
じゃなくて、
世界を救うために、だからね?
ディランに抱かれたのは
『祝福』のせいだから
大丈夫だと伝えたかったんだけど、
ちょっと違った方向に
伝わってしまったみたい。
でも、バーナードも
同じように怒ってくれたんだよね。
それは、嬉しい。
世界の存続より、
私のことを心配してくれてるみたいだから。
「えっと。
そう…かも、だけど。
今は、それが問題じゃなくて」
私は話しを続けた。
「だからね。
ディランがあんな風になったのは
女神ちゃんのせいなの。
だから、気にしないで。
それよりも、
今まで通りに接して欲しい。
あとね。
言った通り、私はこの国では
女神の愛し子だから、
『聖樹』を見回りたいの。
あと少しだから、
すぐに終わると思う。
そしたら、一緒に
ディランの国に行こう?
私が聖女…だとは思うけど、
違うかもしれない。
それはまだわからないから
私に任せて、とは言えないけど。
一緒にディランの国に行って、
何ができるか、考えるから」
そう言ったら、
ディランは泣きそうな顔をした。
なんで?
「ユウ…は、
それでいいのか?」
「何が?」
「女神に…この世界に
いいように扱われて、
それでいいのか?」
いいように…か。
そうだよね。
でも、わかってて私は
この世界に来たのだし。
ちゃんと私は、愛されている。
それはわかってる。
だから、不安とは不満は、ない。
この国には、世界には。
私が大好きな人たちがいて、
私を愛してくれる人たちがいる。
だから頑張るし、頑張れる。
私を愛してくれる彼らは
私が別の人に抱かれることを
きっと嫌がると思う。
でも。
それさえも、
受け入れてくれる人たちだと
私は知ってる。
誰よりも優しくて、
私を甘やかしてくれる人たちだから。
「俺は、嫌だ」
「え? 何が?」
「ユウが、俺以外のヤツに
抱かれるなんて、嫌だ」
え?
今、そういう話、してた?
「ユウ。愛してる。
愛してるんだ。
俺はおまえが好きなんだ」
って熱烈に言ってくれるのは
嬉しいけれど…
今は、そんな話をしてるのではない。
この世界の話をしていて、
個人的な愛情は二の次なのよ。
って、ディランは思わないんだろうな。
ディランは考えることが
苦手なんだ。
うん。
分かった。
そして、私のことを
好きだって言ってくれる。
愛してるって。
それもわかった。
というか、純粋に嬉しい。
私は愛情に飢えていて、
誰かに「愛されてる」って思ったら
それだけで嬉しくなるから。
そして【器】に愛情が
溜まるのを感じるから。
それでまた、嬉しくなる。
これは女神ちゃんの
『倫理観、貞操感が緩まる祝福』の
せいかもしれない。
私が一人の人だけを
愛することがないように、
女神ちゃんが私に与えた『祝福』だ。
……よく考えたら、
女神ちゃんも酷いよね?
もし私がこのまま
この世界で生きていったら、
どうなるんだろう?
ちょっと怖い気もする。
「ディラン、その…
気持ちは、嬉しい。ありがとう。
でも、まずは世界のことを考えよう?
ディランの国のことも
考えないと。
ね?」
って言ったのに。
ディランは立ち上がると
私を抱きしめた。
『祝福』は発動してないはずなのに。
「それでいいのか?
ユウはそれで…
傷付いてないのか?
こんな小さな体で、
多くの愛を注がれたのか?」
あれ?
心配してくれたのが
嫉妬になってる…?
いやいや、待って。
落ち着いて話をしよう。
今、大事な話をしてるからね?
私のことより、
女神ちゃんのこととか、
世界のことの方が大事だからね?
私はぎゅーぎゅー抱きついて来る
ディランの腕を必死で離した。
「ディラン、話をしよう?」
「あぁ、すまない」
なんだろう。
ディランが可愛く思えてきた。
どうしようもない女神ちゃんを見て
しょうがない、って思た時みたいに。
可愛いから、許してあげようって
私が守ってあげようって、
そう思った時と同じ感じだ。
私はディラン手を取った。
「心配してくれて、ありがとう」
そういうと、ディランは
嬉しそうに笑った。
「でも、私は
ディランが好きだけど。
ディランと同じように…
同じ愛は返せない」
私がこの世界にいるかぎり、、
私は誰か一人だけを
愛することはできないと思う。
一人の人に愛されるだけでは
【器】はきっと満たされない。
「それでもいい、って
俺が言ったら。
ユウは俺のそばにいてくれるのか?」
「そばにはいるよ?
だって、一緒にディランの
国に行くんだもん」
拒絶してくれても構わない。
でも、表面上は
いつも通りにして欲しい。
無理なら、
ディランの国への
行き方を教えて欲しい。
そう言ったら、
ディランは泣きそうな顔をした。
「俺は…ユウと一緒にいたい。
なんでもいい。
一緒に居て欲しい」
捨て犬みたいだ、って
ふと思った。
しょうがないなーって
ディランを床に座らせて、
よしよし、って頭を撫でた。
「一緒に、頑張ろう?
この国と、ディランの国を
一緒に守ろう?
頑張るから、ディランも
そばで、私を守ってね」
「あぁ、守る。
絶対に守るから…」
ぎゅーってディランがまた
私の腰にしがみついてきた。
ディランは可愛い
わんこだと思うことにしよう。
ディランに悪気はないんだ。
私を乱暴に抱いたのも、
きっと、そうしたかったから。
私を気遣う仕草が無かったのは、
気が付かなかったから。
ディランは私を愛してくれている。
それは【器】に溜まった愛を
感じるから、間違いではない。
ただ、聖騎士のみんなとは
違う愛し方をしているだけ。
私の知らなかった愛情表現を
ディランはしているだけなんだ。
私は溺れるような甘い愛情を
ただ受け取るばかりだったから。
私の視野も狭かった。
初めて知った愛が
ああいう愛情だったから、
乱暴に貪るような愛情表現を
私は知らなかった。
だから戸惑ったし、
ディランとの行為に
脅えたけれど。
大丈夫。
もう、ちゃんとわかったから。
私は、愛されている。
愛情表現は一つではなくて。
私はこれから、
今までとは違った【愛】を
ディランと一緒に居ることで
知っていくんだ。
女神ちゃんはきっと
それを望んでいる。
だからこその、
『今までとは違ったタイプ』の
男性との出会いだったんだ。
女神ちゃんには
恨み言が沢山ある。
でも。
ディランは悪くない。
だから私は、ディランに言う。
愛してる、は言えないけど。
「ディランも、大好き」
ディランは顔を上げて、
嬉しそうな…でも
ちょっとだけ悲しそうな顔をして、
「俺は愛してる」って
そういって、笑った。
0
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。
棗
恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。
そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。
前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く、が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜
琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。
ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが………
ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ……
世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。
気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。
そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。
※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる